『絡まる運命⑪』
密談。
それは守る為。
それは保険になる。
そして自由への架け橋の切符にもなる。
「よろしいかな?」っと、少しだけ気まずい空気が流れる中、ガイウスさんが話を切り出した。
「色々と、そう、本当に”色々”と確認したいことがあるんだよ」っと、そう前置きしてガイウスさんは確認を始めた。
「あの場での”事象”は、私の権限を持って、情報の漏洩を防いでる状況だが、正直、歯止めが利かない状態と言ってもいい」っと、ガイウスさん。
”教師陣でさえ、興奮していた人が居たくらいだからね”っと、ヒューズさんも声を重ねて掛けてきていた。
ーーー
確認された点は、以下の事だった。
まずは、今の状況のやり取りを見て、その女の子、精霊とは既に知り合っていたのか?
次に、召喚起動紋が”発動した形跡が無かったこと”それも分かってやっていたのか。
更に、初めて観測された”魔力回路”水晶を見ていた者には誰も伝えないようにとは言ったが、初の”6つの属性回路、及び、精霊紋”の”等分”の回路が見られたこと。
後は、純粋な自身の魔力量の把握について。
そして、”初の完璧な現実化”された精霊の存在。
ーーー
「はぁ・・・」
ガイウスさん、ヒューズさん、共に頭を抱えて唸っていた。
ナビと相談し、”包み隠さず”お互いに分かっている状況を、ガイウスさん、ヒューズさん以外を人払いして貰い、話すことにしたのだった。
「・・・っとなると、そちらの”ナビさん”いや、精霊に名前、それさえも初の事なのだ」っとガイウスさんは、そう言葉を零した。
この世界には、精霊に名前を付けるという概念は未だに無いらしい、せめて、あるとしても各エリアを統轄している疑似精霊”マザー”だろう。
それさえも人工AIという側面もあって、名付けというか呼び方が統一されている節がある。
「えっと、そうなると僕と知り合ったタイミングで知り合い。そして、その夢?では、まだ知り合ってなかったということかな?」っと、こちらはヒューズさんからだった。
”はい”と受け答えをしつつ、補足しながら説明をし、その度にヒューズさんは”うんうん”と頷いていたが、”夢の話”は他言無用の方が良いとの見解だった。
やはり、旧世界の情報は、未だに部分的の把握になってしまっているらしく、そこまで詳細な事まで知っているとしたら”ヒノモト、この国の中枢機関から情報をサルベージしてしまっている可能性がある”との事で、それはガイウス大叔父さん”元帥の権限”を持っても庇いきれるか分からないとの事だった。
ーーー
話は続いていく。
「シエルくんはそうなると、あの場の事件、そして、トーリとカーラの2人の”何らかの術式”により守られ、そして、その発動の為に”あの場の全て”をトリガーにしたというのか」っと、ガイウスさんは、どこか驚きを隠せないまま、念のため確認をする。
”普通だと、そんな魔力量を耐えられる事も、発動の維持も出来ないはず”と、ガイウスさんが続けて言ったところで。
「それは私が、その場にて魔力ネットワーク、シエル様、私にて、相互回路を作る事で”毎度強く、そして、また組みなおす”を、全てを同時並行で行いました」っと、ガイウスさんの疑問にナビが答えていた。
「そんなことが・・いや、軍の救助隊が言っていたな。救助の際にシエルくんは”白い結界”に守られていたと、その結界は近づいてみた隊員が云うには、術式みたいな模様が描かれていたように見えたが、確認しようとした際には”溶けるように結界が消えてしまった”ので、不確かな部分は報告書には情報を書かなかったと」
もしかして、それがナビさんの言う「生き残るための守り、そして、術式の発動クリアの為の”毎度強く、組みなおしていた”結界と、術式の答えだったという分けかい?」っとガイウスさんが、重ねて問い掛けていた。
”はい”っとナビは答えながら、そして、精神世界”夢”の部分に関しては、余りにも幼く、事件の凄惨さに耐え切れない自分の魂を”保護、回復”させる事が目的だったと伝えていた。
そして、現実化に関しては、ナビも考えてみたところ。
”夢”と”シエル様”を通して、シエル様を素体に、”クオリアの獲得”そして”魂”と言われる概念を自分に生じさせたのではないか、結果”現実化”にこぎ着けたのではないかという事だった。
ーーー
「ナビさんの事、魔力回路については、事件のトリガーが背景かも知れない事、魔力量もそれに平行して有るのだろうという事までは分かった」
”後は、ナビさん。あなたの事が、ナビさん自身はどこまで把握出来ているのかな?”っとガイウスさんは、ナビに問いかけていた。
”そうですね・・”そう前置きをして、ナビは自分の分かる範囲を確かめるように行動してみた。
「暖かい・・、のは分かります」
”ピトッ”っと、自分のほっぺたに触れるナビが居た。
「・・・美味しい」
”コクコク・・”可愛い音を立てながら、ベッド脇に置いてあった水を飲んでみるナビが居た。
「”現実化”・・・」
”スゥー”っと着ていた服の袖を短くしたり、長くしていたりもしていた。
「これは魔力層に干渉して”魔力を現実化”することによって、可能みたいです」
自分、ガイウスさん、ヒューズさんにて、現実化された服の裾を触ってみるが、実際の服と遜色は無かった。
「んー・・、むむむ。んーー!ダメみたいです」
そう言いながら、服の色を変えられるか試してみたが、結果は髪色と同じく”白銀”の色からは変えられない事。
但し”現実化した服は消すことも出来るみたいなので、普通の服も着れられるでしょうけれども・・・”っと言いながら、ナビは言葉を止めた。
「・・・恥ずかしいのでダメです、シエル様だけになら・・、その」っと言ったところで”コホン”とガイウスさんが咳をして場の空気を濁してくれたが、ヒューズさんは所在なさげになっていた。
「後は・・、試してみます・・」
”スゥー”っとナビが目の前から消えていった。
(「シエル様・・?」)
『おぉ・・!?』
(「ふふ」)
っと、笑い声を感じたところで、先程までの場所に、そっとナビが横になった状態で現れた。
「私自身も、服と一緒で可能みたいですね」
”先程の水・・多分、食べ物もそうなると味覚は感じるけれども、その後は魔力にて変換されてるかもです”っとナビが言い、実際に消えた時に感じたようだった。
『そういえば・・、離れていても、一緒でも魔力の保持は共有しているみたいだね』
「そうみたいですね」っと、ナビと共に、魔力量、回路、強度についても、見解をすり合わせる。
「ふむ」っと、ガイウスさんも思案顔で、その姿を見ながら考えているようだった。
そして、シエルはガイウスさん、ヒューズさんに打ち明ける
幸いなのは、どちらとも知り合えていた事だろう
何かが足りなかったら、きっと、この運命は零れていただろう
何事も気付いた時には、奇跡的なバランスで、平和がそこにあるのだろう




