『巡り会うもの達⑯』
やっぱり必然なんだと思うよ
だって、巡り合う運命だったんだもの
偶然なんて思いたくないんだ
それほどに、その出会いは苛烈だったのだから
それは酷いものだった。
近づいてきた、張本人ではない。
そんな彼に付き従って来た、女の子の方だ。
彼女の方を見ると、どこか視点は合っていなく、纏う雰囲気も、どこか危ない感じがしている。
「おい!」
近づいてきた男の言葉に反応するように、一瞬、女の子の目に光が宿るのを確認出来た。
「レイ!こっちだ!何をモタモタ歩いてる?頭もろくに働いていないのに、行動も遅いとは・・、本当に使えないやつだな!」
”す、すみません・・”っと、小さな声で答えながら、それでも目に見えて、フラフラとした足取りで、声を掛けた張本人の下へと駆け寄っていく。
そして、張本人はもう一度、自分の白銀の髪を睥睨した後に、”仄暗い”視線をシュンに戻した。
「よぉ、まさか、こんな時間、こんな場所で会えるなんてな。あーあ。飯が不味くなる。なぁ、レイ?」
追い付いたレイ(女の子)の反応はどこか鈍く、それを見て張本人は”チッ”と舌打ちをした。
シュンの方を見ると、その目に力を込めて視線を返して。
「わざわざ、なんのようだい”バル”?それに周りを見てみろ、迷惑になっているぞ」
そう、言い返していた。
(”バル”・・、バルね)
その名前と、今の、シュンとのやり取りで、自分でも察せられる。
先程、名前に挙がっていた、反ギルド派の父を持つ、その息子だ。
「ふん、お前はいつも、どこか気取ってるなシュン!でも、そんな風に気取れるのも、今のうちだぞ!」
ふと、ナビの警告なのか共有を介して情報が入ってきて、そちらの方に目をやると、何名かの怪しい者たちが、不意に行動を起こし、そして、こちらに興味の視線とは違う”明らかに敵意”のこもった視線を向けて来ていた。
自分の視線で気づいたのか。
自分と同じ方向へ視線を向けて、敵意の視線に気づいたのかシュン、マリ、リンの表情や体に、緊張が走ったのが分かった。
ーーー
『・・・・』
それらから守るように、自分は席を立ち、バルと、その敵意の視線を3人から防ぐように、前に進み出た。
「っ!シエル?!」
シュンの驚いた声を後ろに聞きながら、正面に立ったことで、よりしっかりと”対象”を見る事が出来た。
(ナビ・・、どうだ?)
(「顔等、彼らの”分かる範囲”の事は分かりました。そして、何点か、気になる事もあります」)
ふむ。
ナビに気になる点について、先を促そうとしたら、目の前に居る、バルの方が行動を起こしていた。
「おい!白銀の!・・シエルといったな?誰の前に立っているか分かってるのか?少しだけ騒がれてるからと調子に乗っているのか?ふん、所詮はギルドの両親の息子ということか、ただ、あれだな。後ろの気取ってる、ここぞという時に”ビビッている”シュンとは違うみたいだな」
”ビビッている”その言葉に反応するように、一瞬だけ、シュンに変化があったのを、ナビは見逃さなかったようだ。
なので、後ろに居るシュンの様子はナビ経由で、自分も分かってしまった。
(・・・仕方ないな)
『バル・・。シュンはお前の言うような、気取ってる訳でも、ビビってる?そんな男ではない。ちゃんと目端が利き、そして、優しいやつだ。それに、お前とは違う、例え周囲の圧力が有ろうとも耐え抜き、そして、逃げずに立ち向かう気概のあるやつだ』
「ふん、物は言いようとは良く言うな。シエルか、いいか?お前の顔も覚えたからな、まぁ精々入学式まで、ゆっくりしてるといいさ!」
”おい!行くぞ!”
一瞬だけ、レイと言われていた女の子の目に、再び光が宿り、そして”はい・・”と返事を返して、バルへと・・
(「シエル様、すみません!気になる事の確認の為”今じゃないと”分からない為、少し力を使わせて頂きます!」)
レイが返事を返して、バルの元へと振り返って、着いて行こうとした瞬間の事だった。
”スゥー”っと自分の中にストックとして、内包させていた力を行使されているのを感じる。
ナビが、自分の内包していた力を行使して、魔法を発現させる事が出来るのは、きっと自分と感覚を共有しているからだろう。
(これは闇属性か?)
(内容は・・、思考の同調?)
・・・いや、違うな・・、もっと、深く入り込んで・・、捉えた!
(”た・す・・け・・・て”)
そして、女の子、レイが振り返った時は、その捉えることができていた、闇の中に囚われているような灯は、急速に消えていき・・、そして・・、思考から離れ・・。
”フラッ”っとよろけたらしい。
気づいたらシュンが、咄嗟に立ち上がって、肩を支えてくていたようだった。
まだ、思考が濁った状況の中で、周囲を確認すると、例の敵意を向けていた者たちも去っていったようだった。
(「シエル様、すみません・・。本来なら周囲の魔力を使えばよかったのでしょうが・・、そうなると私の事も、そして、色々と露見してしまうのではないかと、シエル様が現在、内包していた魔力を使わせて頂きました。お待ちください・・!今、周囲の魔力を、違和感を感じられない程度に吸収しますので・・」)
ナビの話を聞きながら、思考の濁りが取れていくのを感じた。
身体も幾分か、楽になって来たように思える。
「シエル・・!ごめん!」
”俺が不甲斐ないばかりに”支えてくれていた、シュンの言葉が聞こえた。
“もう、大丈夫だから・・”っと、断りを入れて、支えから体を話して振り返ると、心配そうに自分を見つめる、マリとリン。
そして、どこか悔しいのだろうか、歯を食いしばっているようなシュンが居た。
『なに、このくらい大丈夫さ』
マリとリンには大丈夫と、もう一度言いながら、落ち着かせるように微笑んで、シュンの方には肩を軽く、ポンポンと叩く程度に収めた。
ただ、それでもシュンの張りつめた雰囲気は晴れていなかったので”そんなに気負うなよクールに行こうぜ”っと言ったら、今度は”なんだよ、それ?”と、聞き返して来たので”旧世界だった頃の流行り言葉らしい、洒落てるだろ?”っと、返しておいた。
気の利いた、セリフを言えたと思ったが、3人に浮かんだ表情は、困惑に近い”?マーク”だった。
「えっと・・シエルくん、今現在、旧世界の情報っていうのは貴重なんだよ?」
っと、いうのはマリからの言葉で、現存する機械や人工AIなどの、最先端に近い技術は進んでいるが、それは尖ったようなものであって、旧世界のデータや保存されているものは、どれも今の人類が衰退していく、そして、生存圏の幅が狭くなる中で失われてしまった部分が多いということだった。
(・・・ナビ?)
(「少々お待ちを・・、先程の事象を精査しています・・」)
ふむ。
(いや、ナビは、そういえば”サルベージ”して”旧世界”へと・・って、言っていたよな?)
そっか・・、あの世界は、この”新世界”では本当に”旧”の存在なんだな・・。
少しだけ寂しさを覚えながら、考えに耽っていると、リンが少しだけ空気を変えようという、気持ちも伝わりながら”そろそろ寮に戻ろうか!”と空元気に近い声を出して、それを皮切りに、一緒に寮へと戻ることになったのだった。
魔法の適性のある者、現在の人類は皆、魔法を使える
基本的には魔力を適性属性へと変換する魔法紋
それらを維持する強度
それを行使するための変換容量の魔力量
そして、少なからず人体の60%は水があると云われているが
魔力をある程度、保持しているのも散見されている
そして、枯渇すると脱水症状にも似た症状が見受けられるケースもある
だが、まだ魔法との接触が浅いため、その情報は未だ不確定要素が多い




