黒い渦35
「シエル様──」
『うん、分かってる』
ナビと隣り合っては視線を向こう側……オールスローンへと向けている。
流石のナビも途中からは例の黒い力の気配──大元なのだろうか? からの視線を感じたようだった。
けれども、僕たちが気付いてるだけで周りのハクや、その他の龍たちですら、その気配は感じられていないようだった。
「シエル様──? 私、これが落ち着いたら美味しいスイーツを食べに行きたいです」
『えっ?』
突然、空気を変えるようにナビがこちらを見ては微笑んでそう告げて来ていた。
そして、同じくらいにナビから隠せない不安や心配の気持ちが伝播してくる。
「……隠せないみたいですね」
『ナビ──』
僕たちは魂から繋がって……いや、溶け合っていると言ってもいい。
ある程度は隠せても隠しきれない大きな感情は今みたいに流れてしまう。
けれども……最初の頃はナビは食べることすら、楽しみを見出だせていなくて、心と言うものにも時には振り回されていたのも実は知っていた。
精霊とは基本的には食事などは摂らないし、感情でさえ疎らだ。
けれども、ナビは食べることも感情も睡眠でさえも──そして、夢と言うものも見ては一喜一憂していた。
そして、今みたいに──。
『そうだね、落ち着いたら一緒に食べよう』
「はい──」
ギュッとお互いに抱きしめあう。
「あっ──けれども、分かっていると思いますが……二人っきりで、ですよ?」
幾分かナビの心が落ち着いて来たかと思った時は、ナビからチクりとする感情の揺さぶりとギュッと……多少の痛みが感じられる位に強めに抱きしめられる。
『わ、分かって──』
「それなら、いいのです……。シエル様? ありがとうございます──」
自分の言葉を聞いてはゆっくりと納得したのか開放される。
そして、ゆっくりと首を振ったナビは改めて自分を見てきては先と同じように見える微笑みを浮かべてはお礼の言葉を述べてきていたが、そこから伝わる感情は親愛の情がこちらまで溢れて来ているのだった。




