黒い渦30
「ほぉ……! 本当に人が乗っておったのか!!」
あの後地上へと降りて、大将だろう人に案内された先では先程、自分達へと攻撃を指示した元帥の階級を持つ老人が居た。
『あのあなたは──』
「ワシか? ワシはただの老いぼれじゃよ。ほれ、大将……指揮を執れ──! ワシはこの者達と話すでな」
「はっ! しかし、統率は難しく……」
「ほれ! 行け行け……!」
おざなりな手を振られては大将は戦場へと戻っていく──。
「さて──詳しく話して貰おうかの」
大将を去ったのを確認してはギロリと先ほどの表情とはうって変わって剣呑な雰囲気を纏って、老人はこちらを見返してくるのだった。
*
「なるほど──して、その背後に居るのはヒノモトの守護しておった白銀の龍ということか……。それであれは、リカニアを守護していた者か」
少しだけ目を細めては遠くを見るように今も統制が執れてない猛威を食らっている灼熱の龍を老人は見やっていた。
「えっと──信じてくださるのですね?」
「ん? お嬢ちゃんは話にあがっていたマリさんかね?」
「は、はい──」
「ワシは数多の戦場を見てきたからな。恥ずかしい話じゃが、この広大なリカニアは最近、やっといざこざが終結したばかりなのじゃ。まぁ、見ての通り血気盛んな奴らばかりじゃからな、争わないと生を実感出来ないのじゃよ」
ヒャハァァァァ──!!
そう言って老人が見つめる先には今も空へと躍り出ては高位の魔法を発現させては撃ちきって気絶して墜落していく若者の姿があった。
「それで、どうすれば良いのじゃ? 話してみるがいい」
そんな若者を楽しそうに見やった老人は自分へと視線を転じてくる。
『そうですね──』
ハクと共にギリギリまで近づきたいこと、そしてナビとではないとあの侵食された状態から開放出来ない旨を老人に伝える。
「──わかった。なら、協力しよう」
『えっ?』
自分の話を聞いた老人は頷いては即座に協力の話を即決してくれていた。
「聞こえておるか? ワシだ。ローレンだ──!! 皆の者! 良く聞け! これから最高のショーを始めるぞ!! ワシの下に居る白銀の龍と、それと共に行く、若者をあの灼熱の龍へと丁重にエスコートしろ! 方法は好きにやって構わん! 楽しめ!!」
ローレンはさぞ面白そうにニヤリと口許を緩ませては周囲の人へと宣言していた。
「あ、あの──ローレン様?」
「あぁ、言い忘れておった。血気盛んな奴らはワシも含まれておるんじゃ──ハッハッハ」
大将──!!
ワシの杖を持ってこい──!!
っと、ローレンは大きく叫ぶと先ほど戦場へと向かっていった大将が杖を抱えて走ってくる。
「やりますか! 遂に──やりますか!!」
「あぁ、行くぞ──!!」
はっ! と先ほどとはうって変わり、嬉しそうに頬を上気させた大将がローレンの背後へと付き添って歩いていく。
「さぁ、シエルよ? 面白いものを見せてくれよ?」
そして、最後に自分へと振り返ってそう言い残してローレンも戦場へと向かっていくのだった。
「シエルよ? ああいう手合いを狸というのか?」
「いえ、狸とはまた違うような。計画的に話を誘導していたような気もするので狐なのでは無いでしょうか?」
ハクの疑問にナビが訂正を入れる中──。
「昔、シエルと一緒に食べた狸と狐の描かれた麺? 美味しかった……」
「えっ? それ私知らない話なんだけれど!」
「へぇ……リンは知らないのね」
「えっ? マリも知ってるの?」
こちらはこちらでレイとリンとマリが話を始めていたが──。
「気を緩み過ぎだよ──」
「だな。シエル? 俺たちはどうしたらいい?」
戦場の陽気さが皆の緊張を弛緩させた結果なのか、大いに緩んでしまっていたであろう所に、シュンが釘を刺しつつバルが自分へと判断を仰いでくる。
『とりあえずはハクとナビと自分で行くよ。ただ──後ろのフォローはお願い……怪我人が意外と多そうだ』
自分の視線を追って皆も周囲を確認するが、無茶な戦闘の仕方はそれなりな反動は必ずあるもので──怪我を負っている者や、単純な魔力切れで動けてない者などが点在していた。
「うん、わかった──シエル……気をつけて」
そっと、レイが近寄って来たと思ったら頬に口を付けられてはサッと去っていく。
「あっ──私も」
と、マリも同じくしたら、リンも同じく来ては口を頬に付けては去っていった。
「モテモテだな」
「全くだ、シエル気を付けろよ? あいつらの事は任せておいてくれ」
シュンは肩をすくめては笑顔をこぼし、バルも自分へと言葉を投げ掛けては3人を追って行くのだった。
「シエルよ──いつでも行けるぞ?」
「シエル様、行きましょう」
ハクとナビの声を聞きつつ戦場へと視線を向ければ、大将とローレンが楽しそうに魔法を混合させては──大規模な魔法を放っては灼熱の龍へと浴びせていた。
『あぁ! 行こう──ハク頼んだよ』
「任されよ!!」
そして、ナビと共にハクへと乗ってはハクは一気に灼熱の龍へと飛び立つのだった。




