黒い渦⑩
「ふっ──あのくらい我が薙ぎ払ってくれよう──!!」
漆黒の龍が生み出したシャドウの群れへ、ハクは溜め込んだブレスを一気に放出しては正面一体のシャドウを薙ぎ払う。
「シエル様、今です──!!」
『皆──気をつけて!!』
シャドウを薙ぎ払ったハクは一気に加速して漆黒の龍の横を通り過ぎる直前に自分とナビはハクの背から飛び立つ。
そのままハクと皆は遠ざかりつつ、光の結界へと飛翔していく。
「グァァァァア──!!」
そんな皆へと漆黒の龍はブレスを吐き出すが、自分とナビが間に立ちブレスを精霊剣で切り飛ばす。
「させません──!」
『正気を取り戻すんだ……!!』
声を掛けるが反応は無い。
そのまま漆黒の龍の周りには黒い力の球体が幾つも生み出されてはそこから攻撃が仕掛けられてくる。
攻撃の手を潜りながら、未だに生み出されるシャドウを相手取りつつナビと自分は漆黒の龍へと向かうのだった。
*
「殺到しておるな──」
ハクは一言呟いては光の結界へと殺到しているシャドウ達へとその爪で振り払う。
「今だ──!!」
「殿は任せろ──!」
「リン! レイ──!!」
シュンが先陣を努めて、バルが殿に──マリの合図にリンとレイは返事を返しつつ、ハクが生み出した光の結界のシャドウが薙ぎ払われた空間へと飛び降りる。
「我が周囲のシャドウを引き付ける、お前達は──」
「俺とバルはハクの援護をする──!!」
「マリとリン──私たちはロイアを見てくる」
シュンとバルはそのままハクの援護へと入り、レイ達はレイが精霊の加護を発現させては光の結界との境目を緩和させて侵入していく。
「さぁ、来い──! ここから先へは行かせぬぞ!!」
ハクはその後に咆哮をあげては飛翔をする。
ハクの威嚇がハマったのか光の結界へと殺到していた残りのシャドウ達がハクへと意識を向けられては襲い掛かってくる。
それをハクが薙ぎ払ってはシュンとバルも光の結界から微力ながらサポートをするのだった。
*
「酷い──」
「生きてる人は……」
「微かに──こっちから精霊の気配がする」
3人が降りた地上は悲惨というには更に酷い状況だった。
包帯を巻かれた人達は良い、四肢の欠損は当たり前だ。
ただ、これはやられたからではないだろう。
その身を魔力に変換してまで光の結界を維持しようとした結果、部位の損失が発生したのだろう。
綺麗な断面で四肢が掛けては最期は心臓を捧げたのだろう、屍も多く倒れていた。
レイの案内で歩を進めていくと結界を発生させているであろう場所へと歩んでいるのがマリとリンは早々に気付いていた。
光の結界は中に入ったら分かったが、ある一点から伸びた光の筋が天井にて結界を構成するように広がっていたのだから。
「──ッ!」
「誰か……誰か居ませんか!」
リンが余りの状況に息を呑んでしまうが、マリは声をあげては周囲をつぶさに確認する。
「だ、れ……です……か」
「マリ、リン──こっち!」
微かに声が聴こえては気付いたレイが2人に声を掛けては声をした方へと足を進ませると、見えてきたのは巨大な水晶が嵌め込まれた装置があり、そこへと未だに魔力を流し込んでいる集団だった。
その中心に近いであろう場所で声を微かにあげたであろう少女が今も魔力を注ぎ込んでいた。
「な、何を──!」
「あたた達──! それ以上は生命が持ってかれちゃう……!」
「シエル──! ナビ──!!」
リンがバタバタと装置の周囲で倒れている者達へと驚き戸惑う中で、マリは飛び出しては中心に居る少女へと歩み寄りながら周囲へと声を掛けていた。
レイは突然の状況に驚きはしたが冷静に中央の結界の生み出す装置の魔力消費量を考えてはシエルとナビへと白銀の繋がりを持って声を掛けていた。
『どうした、レイ──?』
「シエル──! ち、力を貸して!」
「レイちゃん……?」
『良くは分からないけれども、分かった。レイに委ねるよ』
「レイちゃん──気をつけて、シエル様!! 両側から!」
「ありがとう──」
そっと無意識に閉じてしまっていた目を見開いてはレイは周囲の倒れ付した者達へと視線を向けつつ、中央に座している装置へと近付いては手を伸ばす──。
「もう、やめなよ! これ以上は──!」
ダメです──!
ま、守らない……と……。
か細い声で声をあげつつ、魔力を注ぐのを止めない人達をリンは強制的に手を出しては意識を刈り取っていく。
「あなたも──これ以上はまずは身体が持ってかれる……」
「いいのです……私しかもう残っていない……ロイアはもう……」
「私たちが来たでしょう──! 意識を持ちなさい!」
「私たち……? ──あなた達はいったい……どこか……ら」
今──!
っと、マリは言っては強く注がれていた魔力の繋がりが一瞬でも緩んだところを見逃さずに強制的に少女と装置の魔力のリンクを断ち切るのだった。




