黒い渦⑤
「そろそろ──チェニスの暴風の龍の領域に入るぞ……!!」
「皆様……お気をつけて!」
「むっ──なんだ、アレは──!!」
チェニスの領域へと近付くにつれて、その全容が見えてくる。
ナビが皆へと注意をしている最中、それに気付いたハクが声をあげていた。
──黒い?
海上を飛行しつつ向かっていたのだが、目の前が闇に突如覆われていた。
区切りはハッキリとしていて、ある一定のラインから先が闇に覆われていたのだ。
「シエル──すまぬ、結界を……」
『任せて──』
突入した瞬間──ハクの展開していた白銀の結界が悲鳴をあげていたが、自分とナビの黄金の力が入り混じった白銀の力を流すと結界が一気に安定する。
「助かったぞ──」
『ハク──どういう状況だと思う?』
「暴風の龍が完全に呑まれたと見るべきだな──それに魔力の渦の位置がズレている」
ハク自身が危惧していた最悪の状況が起こっていると思うということだった。
暴風の龍のシャドウ化と併せて、魔力の渦が移動してはチェニスの生活圏を呑み込もうと──いや、呑み込んでしまったかも知れないとの事だった。
「いえ、まだ……可能性は──気配が感じます……」
自分とハクの会話にナビが入ってきては手を遠くへと指し示す。
──微かな命の気配……精霊?
ナビの手を差し示した方へと意識を向けるとうっすらとだが今もまだ抵抗しているかのような気配を感じると同時に今まさに風前の灯なのか消えてしまいそうな儚さも伝わってくるのだった。
『ハク──!』
「あぁ、心得ているぞ! 速度を出すぞ──!! しっかりと捕まっておれ!!」
ナビの示した方へとハクが一気に速度を上昇させて迫る。
そして、近付く程に今まさにシャドウ化した暴風の龍と背後に迫っている黒い渦の存在が見えてくる。
「ギャァァ──ス!!」
物凄い黒きハリケーンが生まれては目の前の障壁へと叩きつけていた。
障壁の向こう側は今も結界にヒビが入った箇所を修繕しようと何百もの兵士なのだろうが杖を掲げては魔法を発動させていた。
『間に合った──!』
「シエル様──! まずは暴風の龍を……!」
「いや、ヤツは我が押し止めよう。お前たちは自分たちでしか成せないことをやるのだ」
「ですが──!」
「大丈夫……私達も居るから」
横合いからレイ達がナビへと声を掛けてくる。
『ありがとう……皆。ナビ──行こう!』
「……分かりました。行きましょう!」
ナビと共に頷いて僕とナビはハクの背中から飛び立つと一目散に今もチェニスへと迫っている黒い渦へと向かう。
「──!!」
僕たちの存在に気付いたのか黒い渦から無数の形の無いシャドウ達が生み出されては自分達へ殺到する。
『ナビ──!!』
「道を切り開きます─!!」
ナビと共に精霊剣を取り出しては飛翔しつつ黒い渦へと向かいつつ殺到してくるシャドウを薙ぎ払っていく。
「ギヤァァァア──ス!!」
ッ──!
背後から暴風の龍だろうか──一気に膨れ上がる魔力の気配を感じる。
「させぬぞ──!!」
その時に横合いから暴風の龍へとハクが襲い掛かっていた。
暴風の龍を守るように生み出されているシャドウが向かうが、それをレイ達が押し止めていた。
「シエル──行くんだ!」
「ここは俺たちに任せろ!」
声は聞こえない──が白銀の繋がりから彼らの声が心へと届いてくる。
『ありがとう──』
隣立つナビへと頷きあい──一気に黒い渦へと僕たちは更に向かうのだった。




