異変③
「マリを助けに行かないと──!」
決定打になったのはリンの言葉だった。
「リン──落ち着け! 無闇な行動は混乱を招くだけだ!」
で、でも──!!
と、リンは兄のイアンさんの声を振り切っては助けに行こうと中央エリアへとその足を動かしていた。
「シエル──」
「バル──お前……、そうか……」
珍しくバルからの声もあり、振り向いて見ると心痛な表情のバルが居た。
その隣のシュンもバルの表情を読み取っては少し顔を伏せてしまっていた。
その顔は──中央の浮いている皇室のエリアに囚われている父……ハンネスを思っての心痛な表情だった。
「シエル──」
袖を引っ張られて見てみるとレイからも何かを伝えたい目線が送られて来ていた。
ナビは──。
ナビの方を見てみると、自分と目を合わせてはご自由に──と言うように目を軽く伏せてくる。
今の状況は……あのハンネスの時の判断した状況と似ているような気がした。
今──動かないと大切な何かが永遠に失われてしまうような……。
だから──。
『行こう──』
「シエル──お前……、いや、ダメだ……まだ危険すぎる──!!」
自分の判断を聞いてイアンが止めに入る。
だけれども──。
『なんとなくですが、今動かないと──何かが失われてしまうような気がするんです』
「今じゃないとダメなのか──?」
真剣な表情でイアンさんに向き合って、その目を見て伝えると──何か過去を思い出すような素振りをしつつ、イアンさんの目は覚悟を問い掛けるようなものになり、自分を見返して来ていた。
『はい──』
短くも強く頷くと、イアンさんは大きな息を吐きつつ、顔を伏せ──上げたその表情は何かを決心したようで……。
「お前ら、シエル達の装備を調えてやれ──!! 後は各自引き続き情報をかき集めろ──!!」
「お兄ちゃん──!!」
「シエル──? 無理をするなよ?」
イアンはそれを言ったきり、また情報が錯綜している現場へと戻って行く。
だが、最後に見えた横顔は何かを決心したような表情になっていた。
「シエル──行くのか、なら我も行こう」
「あぁ、こいつが行くんなら俺も着いてくぜ!」
「む? ブリッケン無理をするではない──」
「はっ! まだまだ俺は動けるぜ! はははは!!」
自分の覚悟に答えるようにシリウスとブリッケンさんが──。
「あっ! 僕も忘れないでよね! ダメと言われても着いていくよ! きっと、僕が必要になると思うんだから!」
その後に慌ててヘルメスも出てくる。
『みんな──』
「私もシエル様の為に最善を尽くします──」
そして、目を伏せていたナビが……どこか満足そうな顔でこちらへと近寄ってくる。
──どうやら、ナビも本心は自分と似たようなものだったらしいと、ふんわりと心が伝わってくる。
はっ! とした表情で心が繋がったのを悟られたのを気付いたのかナビが表情を改めたが、後の祭りだろう。
「シエル──ありがとう」
「シエルくん──お願い」
レイとリンもこちらへと近寄ってくる。
「すまない─俺はマリも気になるが……」
「あぁ、そこは俺もサポートする──」
そして、父ハンネスを心配するバルとシュンもこちらへと寄ってくる。
『準備出来次第──行こう』
あぁ──。
うん──。
はい──!
それぞれ返事をしつつ、手早く支度を整えて僕たちはマリ──そして、ハンネスを含めて事態の把握も含めて中央エリアへと向かうのだった。




