チョコレート⑤
うん、大丈夫だよ──。
っと、マリに返事を返すと
良かった──と返事が直ぐに返ってきていた。
そのまま午後の講義を終えて、マリとの待ち合わせの学園の時計塔へと向かう。
時計塔に辿り着いた時は既に夕刻で時計塔には夕焼けが射していた。
『ごめん──待たせたかな……』
「ううん、大丈夫。私も少し前に来たばかりだから──」
そう言いながら、夕焼けを背景にマリが階段を上がってきた自分へと振り向いて来る。
────。
自分から見たマリは夕焼けと学園エリアを背景に美しく彩られていて、しばし僕は見惚れてしまっていた。
「シエル……くん?」
あっ、ごめん──。
大丈夫、大丈夫──と、伝えつつマリの横に並び立って2人で時計塔から外の世界を一望する。
「私ね、とても不安だったの──」
『え……?』
「私って皇室の人間として外を知らないで……座学でしか──知識でしか知らなかったから、本当って知らなくて……」
だから、リンと出会えたこと。
そして、皆や──シエルくんと出会えた事は本当に一生で一番の宝物なの。
そう、マリは言葉を紡いでいた。
そっか──。
『僕も──マリと皆に出会えた事は本当に嬉しかったんだよ』
「えっ──?」
旧世界のデータの記憶の頃の話は伏せつつ、目覚めてから今までの事を改めて話すと、マリは静かに自分の話を聞いてくれては頷いていた。
「シエルくんは──やっぱり強いね」
『そんなことは──』
ううん、そんなことはあるんだよ?
私だったら足がすくんで動けないもの──。
っと、マリが伏し目がちになって自分へと顔を向けて話し掛けて来る。
「ねぇ、シエルくんは──もしも、私が1人で歩くのが困難になったり助けが必要になったら助けてくれる?」
『うん、当たり前だよ。何処に居ようと絶対に助けに行くよ』
う、嬉しい──。
そう、自分の応えに反応を返しながらマリは頬を染めてはにかんでいた。
「シエルくん──あの、これ──私の気持ち……受け取ってくれる?」
『喜んで──』
あっ……。
大切に受け取るとマリが一瞬だけ驚きつつ、嬉しそうな表情になる。
「もしかして、リンちゃんとかで覚悟決まっちゃってた……?」
『あはは──』
「──シエルくん、らしいけれども……、でも嬉しいよ」
本当にありがとうね──?
そう言いながらマリは首を少しだけ伏せつつ自分を覗いてくる。
「ねぇ、シエルくん──」
『ん……?』
「我が儘……言ってもいい?」
「僕に叶えられることなら──」
じゃぁ……──。
そう言いつつ、伏せつつ覗き込んでいたマリが顔を自分の方へ上げつつ、その唇を自分の頬に──。
チュッ──。
っと、音がした。
「シエルくんのも──証が欲しい……です」
────。
そう言いながら、自分から離れたマリが顔を真っ赤にしながら言葉を口ずさんでいた。
────チュッ。
『────!!』
マリの頬──自分のされた側とは反対側に口付けをする。
ありがとう……──。
消え入りそうな声でマリが自分へと身体を寄せながら告げてくる。
そのまま、肩を並べて夕刻が終わるまで時計塔から世界を眺めていた。
言葉少なだったが、ポツポツと想い出やこれからの事を話し合っていたら、自然と夕刻は終わりを告げ始めてマリとは学園から出るまでお互いに手を繋ぎながら歩いた。
「私はここまでかな──」
『えっ……?』
「シエルくん、本当にありがとう──今日の事は忘れないから!」
また明日ね──!
そう、言いながらマリは足早に立ち去っていったのだった。
────?
一瞬だけどうして、この場で離れ離れになるのか疑問符が浮かんだのだけれども、直ぐにそれが無くなった。
「シエル様──」
『ナビ──?』
背後からナビの気配を感じて振り替えると、おめかしを済ませたナビがこちらへと向かって歩いて来ていたのだった。




