コロシアム45
「うぉぉぉ! 待っていたぞ!」
「か、勝ってくれ! 俺の賭け金が……!」
「シエル様──!!」
「リキア! お前にベットしてるんだ!」
会場からは様々な歓声が聞こえてくるが──賭けに関しては確実に裏賭博の方だろう。
「さぁ! 両者入場致しました! ここまで数多の見所が有り、どなたも強者というに相応しかったです! ですが、その中でもこの2人が勝ち上がって来ました──!!」
実況の女の子の声がここ一番に大きく響き渡っている。
案内されるのは自分──そして目の前に立って既に得物を構えてるリキアだ。
*
「すまないね、これも仕事なんで」
『それにしてはとても──面白そうな顔をしていますね』
自分の言葉を受けて無表情だったリキアの口角がニヤリと不快に上がる。
「そんなことは無いさ、誰が好き好んで人を──」
歪んだ表情からの言葉は今や説得力の欠片も無い。
──。
自分も精霊剣を取り出して正面に構える。
それを見て更に愉快そうにリキアの表情は歪んでいくのだった。
*
「両者、用意が出来たようです!! それでは今夜が輝かしい日になることは間違い無いでしょう! 決勝戦──開始です!」
実況の女の子の声が聞こえ──ると同時にリキアが目の前から消えていく。
キンッ──!
っと、背後からの凶刃を受けきる。
「ほぅ──」
受けきった背後を振り向くと、どこか驚いたような納得のいったような表情のリキアが居た。
「その技はどこで学んだ? いや、盗んだ? 私たちの業界は狭いからな──お前のようなやつの話は聞いたことがない」
言葉を掛けつつ、リキアの軌道がブレつつ──こちらに迫ってくる。
早くは無いが視覚情報を狂わせての攻撃だ。
慣れていない者ほど、戦闘に特化している者ほど狂わされやすい。
足運び、重心の移動、相手のリズムに織り混ぜて惑わしていく手法──。
キンッ──!
けれども、自分に関しては悪手だろう。
周りの魔力からもリキアの動きが包み隠さず分かる。
視界を惑わそうと意味が無い。
「ッ──! 完全に使いこなしているのか?」
リキアの動揺が見える。
そこを突くように、今度は自分から仕掛けていく。
キンッ! キンッ! ──キンッ!!
動作は全て相手の裏を掻くような動きで仕掛けていく。
これは暗殺者の技術だ。
「クソッ──!」
こちらの方が技量が上手だ。
リキアの知らない技術さえ、こちらには情報と得て──既に身体にフィードバックさせている。
精霊剣を2刀に、小太刀に変えて更に惑わしてリキアに迫っていく。
リキアの攻撃を受け流しては鳩尾に一発。
動揺した所を歩行術と身体の重心を移動させてはブレさせては視界を感覚を狂わせては小太刀にて切り刻む。
それを防いだところを──また鳩尾へと一発。
「────!!」
言葉にならない苦悶の声をあげてリキアは後ずさっていく。
それに追随するようにどんどんと逃げ場を塞ぐように仕掛けていく。
カハッ──!
鳩尾への一発が決定打になったのか、何度目かの攻撃でリキアが倒れた。
「「────!!」」
「シエル様の勝利です──!!」
「「うぉぉぉ!」」
「「わぁぁぁ──!!」」
実況の女の子の声に続いて、今日一番の歓声がコロシアムを包む。
ふと、ギィーの居る貴賓席を見上げると。
控えの者から何かを告げられている姿が見える。
ガタッ──と席を立っては大慌てで移動していく姿が見えた。
ナビの方は成功したのだろうか──。
会場の空を見上げると綺麗に星が輝いていた。
自分とイアンさんの目的──。
リッチさんの権力という意味合いでも威光を示すためのコロシアムでの勝利を見事に勝ち取った。
会場内の熱はどんどんと上がっていくようだった。
試合会場入り口には控え室からこちらへと向かって来ているイアンさんが見えた。
軽く会釈して合図を返す。
そして、会場内の観客席へと手を大きく振ると──更に会場は熱気に包まれていくのだった。




