コロシアム44
「シエル──気を付けろよ?」
『分かっています』
改めて、イアンさんの言葉に頷く。
イアンさんとは改めてリキアに関して話していた。
対戦相手は皆、例外なく戦闘不能に陥っているらしい。
そして、自分がすれ違った際の違和感──自分とイアンさんに関しては暗殺者の雰囲気を感じ取った話をする。
コンコン──。
そんな最中に扉がノックされる。
「夕食の案内を──」
「あぁ、ちょっと待っててくれ」
お昼の際は断りをいれていたイアンさんが立ち上がり、慎重にスタッフを迎え入れる。
パタン──と扉が閉まったら、ソッとスタッフさんが紙をイアンさんに手渡す。
「大丈夫そうだな、いや──すまなかった夕食はやはり自分達で済ませるよ」
「畏まりました──」
お気をつけて──。
言葉の後に口でそう動かしているのが分かった。
そのままイアンさんはスタッフさんを慎重に見送ってから戻ってくる。
口許にて静かにと案内しつつ──。
「シエル──美味しそうなのはあったけれども、リッチさんに貰ったご飯もある。それを取ろう」
『仕方ないですね』
気軽な会話をそのまま、何事も無いように少し残念さを滲ませつつイアンさんに言葉を返す。
そのまま何気ない会話をしつつ、イアンさんは先程スタッフさんに貰った紙を広げて内容を読んでいる。
一通り読み終わったのか、自分へと手渡してくる。
自分も何気ない会話をイアンさんとしつつ、目は紙の文章に向ける。
*
イアン様、シエル様
セーレです。
こちらの方は順調に進んでいると連絡がありました。
そちらは大丈夫でしょうか?
控え室内は盗撮等の心配は無いと思いますが、会話は拾われている可能性があります。
この文章を読み終わったら空間魔法にて隠しておくのが良いと思います。
シエル様のはイレギュラー空間とのこと、そちらがおすすめだと思います。
相手戦力に関してですがリキアには気をつけて下さい。
多額の金が背後では動いています。
一部反女王派、反民衆派、そしてリンクスへの敵視する派閥が背後では動いています。
どちらかを抹殺するように依頼されている可能性もあります。
どうか、ご無事で──。
手紙を読み終わるとイアンさんと目が合う。
お互いに頷きあって、紙は自分の空間へとしまいこむ。
その後、軽くイアンさんと食事を取る──。
「それでは! 楽しい時間も遂に最期になりました!」
気付いたら実況の女の子の声が聞こえてくる。
これから今までの戦闘を振り返る時間だろう。
イアンさんとお互い頷き合い。
気を付けろよ──?
と、イアンさんの言葉に頷いて試合会場へと向かうのだった。




