コロシアム35
『えっと──なにか?』
「お前──イアンさんといい、これといい、調子に乗りやがって」
目の前のギルドの選手は凄く怨嗟の声を自分に隠しもせずにぶつけて来る。
『あの、なんの事だか良く分かりませんが……』
「俺がこの賭博エリアに来ていれば──! 俺がお前のポジションに!!」
あぁ──こんな手前ね。
何となく、彼が嫉妬を全快にしているのもあって心情が伝わってくる。
(表面的には──そういう人はもう居なくなっていたかと思ってた)
自分がもてはやされる最中でアンチというべきものか。
恨みや嫉妬を多く抱えてる人も重ねて続出していた。
時には直接対処したり、ガイウスさんやドルマンさんが掛け合って両ギルド、軍でも厳しく取り締まって情報を共有していたのだが──それでも限界はある。
そして、若い有望視されてる者の中では自分がその場に居たら──と想いを更に助長してしまったという目的が頓挫してしまった事も聞いていた。
『なら、ここで証明してみてください──』
「──!! あぁ……! あぁ! そうだ! 俺は証明する!」
自分の挑戦的な声に相手はハッとした様子でこちらへの戦意を更に燃え上がらせる。
*
「それでは……! 期待の新星シエル選手とギルド有望株の──開始です!!」
そして、相手は一気に自分へと駆け込んで来る。
「そこっ──!」
充分な鍛練を積んでいるのが分かる一閃が自分へと迫ってくる。
「つっ!」
そこへ精霊剣を取り出してそのまま相手の斬撃を受け流す。
「こなくそっ──!!」
相手は受け流された刀身をそのまま逆袈裟斬りにして自分へと叩き込む。
「見えてるのか──!」
それを宙返りしつつ後退する。
「だが──!」
そのまま自分へと追随するように迫っては袈裟斬りをしてくる。
『まだまだ──ですね!』
それを受け止めるように精霊剣を撃ち合わせて鍔迫り合いになる。
「くそっ! なんで!!」
『まだ身体の芯のブレや重さの掛け方に違和感があります』
「──!」
気持ちの問題ではあるだろうけれども、そういうのは抜きにしてしっかりと鍛練を積んでいるのは刀剣を交えて伝わってくる。
それに応えるように──素直な感じた感想を伝える。
意表を突かれたような表情をしたように見えたが、その後の対戦相手の顔はどこか憑き物が落ちたかのような真剣な顔になっていた。
「あぁ──こうやって刀剣を交えて分かることもあるんだな。お前は強い、そして理解もした。だが! 俺の心はそれでも昂っている!! この一撃にかけてお前を! 叩き切る!」
『受けてたちましょう──』
相手の刀身が鈍く輝く──魔法を籠める気配だ。
魔法自体の使用は禁止されてはいるが──刀剣の効果なら別だ。
それを見ている中で相手の刀身は鈍い輝きから──綺麗なくすみの無い輝きへと強く輝き始めている。
「ははは!! 魔法を籠めなくて良いのか!? 俺の一撃は重いぞ!」
『お構い無く、それを斬り捨てて見せましょう』
(一瞬でいい──)
スッと精霊剣を水平に構える。
「──! これが俺の全力だ!!」
そして、魔法を刀剣の最大限まで高めたのだろう。
一気に相手が迫ってこちらへと袈裟斬りに斬り込んで来る。
(──ここだ!)
「なっ!?」
一瞬だ。
刀剣の籠められた魔力でも籠めかたによっては纏まり方にズレが生じる。
その継ぎ目を突くように一瞬にしてこちらは逆袈裟斬りで斬り結ぶ──と同時にそれごと一閃して斬り捨てた。
スパァ──ン! と見る人によっては聴こえたかも知れない光景かも知れない。
その一閃は見事に相手の魔法を這わせた状態の刀身を綺麗に一閃して斬り捨てたのだから。
「ははっ──」
そのまま半ば折れた剣を振り抜いた相手はストンと腰を落としていた。
『良い──一撃でした』
「──また、どうか再戦を」
『いつでも待っていますよ』
しばらく目を瞑っていた相手は目を見開いて自分へと振り返って告げてくる。
その目は澄んでいて、先ほどのような濁りは感じられなく──自分も素直に再戦の希望に応じるのだった。
自分の応えに相手は深く頷いては立ち上がる。
「ありがとう──」
そして、自分へと礼をするのと同じく……。
「シエル選手の……! いえシエル様の勝利です──! やっぱりかっこい──」
「「うぉぉぉ──!!」」
あっ……実況の子のマイクはまた故障だよね?
それに今度は男性陣の声が大きいのかな……? 歓声が聞こえてくる。
女性陣は……感動してるのか、なんなのか言葉が出てこないように見える。
目の前にはまだ頭を下げている相手選手が居る。
これは自分から戻らないと行けなさそうな雰囲気を感じとり、手を挙げて先のイアンさん同様に会場の声に応えつつ控え室へと先に戻り始めるのだった。




