コロシアム23
「これは…改めて見ると凄いのを生み出してしまったな」
ブリッケンさんはまじまじと僕たちの武器を見て言う。
重要なのは作ったではなくて、生み出したという所だろう。
「刀身の模様も刻みも深さも精度も…これだと自由だ」
僕たちの魔力を這わした武器をまじまじと今も見ながら言う。
そうなのだ、この武器は僕たちの意思や願いに合わせて最適化した刀身になっているらしい。
「そして、おまけはこれだ……」
ブリッケンさんの最後の言葉に合わせて遠くに置いた武器を僕は念じると手元に現れていた。
「魔法剣…は陳腐だな、そんなものは今の業界にも溢れている──そうだな、言うなれば精霊剣だろうな」
『精霊剣……』
白銀に輝く武器を見て自分も呟いてしまう。
「この世には存在しない、摩訶不思議な物質。それは精霊にも通じるだろう? そしてシエル坊とナビ様のみの武器だ。 個人にのみに赦された存在なんて精霊にも通ずるだろう?」
どこかどや顔になりつつ、ブリッケンさんは言う。
そっと……、レイが白銀の輝きに見惚れてか手を伸ばすが。
その手はやはり空振っていた。
「ブリッケンさん? でも、この剣? 刀? は斬れるのですか?」
厨房から店員の女の子の声が聞こえてくる。
あの後、僕とナビも倒れてしまって──この店員の女の子にお世話されてしまっていて、見事に皆お昼過ぎまで倒れていて、今こうやって皆が起き始めて、それに合わせて店員の女の子が昼食を作ってくれているのだった。
感謝をすぐに述べたら、ブリッケンさんで既に慣れっこなのでと笑顔で返されてしまい、ブリッケンさんの私生活を垣間見てしまった気がしたのは秘密だ。
「えっと──それに関しては大丈夫そうです」
そう言いつつ──ナビが近くの紙の束の端をスッと斬ると、その中の任意の1枚だけを斬っていた。
「えっ?!」
一番近くに居たエルメスが驚いた声を同時にあげる。
「多分……自分のイメージする物を斬れるのだと」
『後は魔力のみを吸収することも放つことも出来そうな──いや、出来るんだろうな。あの時の願いを全て詰め込んでいそうだ』
あの時の──のくだりで皆の顔が神妙になる。
そして、納得顔に変わるのも一瞬だった。
「俺もびっくりだ。 きっとこれから先もこれっきりの奇跡をありがとうなシエル坊」
ひとしきり、自分の中での感動を噛み締めただろうブリッケンさんが晴れた表情で自分を見てくるのだった。
「皆様ー? 昼食が出来ましたよー!」
そして、タイミングを見計らっていたかのように店員の女の子が昼食を作って持って来てくれるのだった。
「とりあえず、シエルとナビは馴染む為に練習だな?」
「そうだな──俺も最初の武器は手に馴染むまでは素振りは今もしてるからな」
昼食を並べてる時にシュンとバルの2人が僕とナビを見て言って来る。
2人に対して頷きつつ、僕たちは昼食を食べ終わり次第ブリッケンさんの工房を後にすることにするのだった。
「シエル坊? またいつでも来るんだぞ? 待ってるからな?」
『はい!』
「シリウス様……いつでもお店にお手伝いでも何でも来てくださいね?」
「む? 分かった」
ブリッケンさんからの別れの挨拶に……、僕たちが工房を出る際に何処からともなく店員の女の子が現れてはシリウスさんにお別れの挨拶を済ましているのだった。
「あれはやっぱり惚の字だね」
「うん、だね」
「私も惚の字が分かった」
リンの言葉にマリが同意しつつ、意味をしっかりと理解したのだろうレイも思案顔で頷いているのだった。
そして、僕たちはリンクスへと宿舎へと帰るのだった。




