『賭博エリア㉖』
─────
「資料は役に立っただろうか?」
『は、はい──』
「まぁ、軽い冗談だ。でも上手くこうやって”事が運べて良かった”と思っている」
『────』
「一日──いや、ヘルメスの望むようにしてやりたいと私は思っているよ」
『はい──』
「何、ヘルメスが望むのなら”契約するのも自由”だろう」
「えっと──リッチさん僕は……」
「なに大丈夫さ──早く決めるが良い。”夜は早く訪れてしまうからね”まだ陽が完全に落ちるまでは大丈夫だろう」
「────!」
ヘルメスは最後には言葉が出てこなくなったのか、リッチさんに大きく頭を下げているのだった。
*
(「シエル様……まだ遠いですが気配が迫っている気がします」)
ナビから久しぶりにテレパシーが届いて来る。
確かに意識をすれば遥か遠方で中央の人だろう──特殊な訓練を施された者の気配を感じるのだった。
(けれども、この距離なら……)
先程のリッチさんの言葉を信じるのなら、自分の勘からも陽が完全に落ちるまでは大丈夫だろうと感じたのだった。
『ヘルメス───君はどうした……』
「僕はシエルと一緒に居たい……!!」
どうしたい──と最後まで言い切る前に、どこか慌てたような……切羽詰まったような感じでヘルメスは自分に願いを伝えてくる。
『わかった──ナビ?』
「私も……シエル様と同じ気持ちですよ」
『シリウスまでも届くかな……?』
「シリウス……?」
『ヘルメスと同じく、自分が名付けした子だよ──商業区エリアのマザーなんだ』
「う、うん──それは知ってるけれども……えっと、遠いよ?」
『ナビ──行けるかな?』
「シエル様──そして私も願っていますから……きっと大丈夫です」
ナビが大きく自分を見て頷いてくる。
「シエル──私も手伝う」
レイが自分に近づいて来て、そう言ってくる。
「俺も何が出来るかは分からないが──」
「バルと一緒で俺も手伝うぜ」
「私も手伝おうよー! 何をすれば分からないけれども……!」
「私は……大丈夫でしょうか? えっと、私の力は中央のですが……」
『きっと、これは”願い”が大切になるから……マリ、大丈夫だよ』
「う、うん……」
マリは自分の言葉に安心したように頷くのだった。
『なら──初めてみよう。夜の帳が下りる前に!』
そして自分の掛け声の下──契約精霊の術式が……いや、ヘルメスとシリウスの自由を願って祈りを始めるのだった。
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