『賭博エリア⑨』
────
『へ、ヘルメス──?』
「────スゥ」
(ん……?)
自分が扉に近づいた時にふと精霊の気配を感じ、それがきっとヘルメスだと直感的に思い──声を掛けてみる。
扉の向こうはセーレさんの時同様に無言かと思ったのだが、微かに息遣いのようなものが聞こえてくるのだった。
『えっと、ひ──久しぶり……し、暫く来れて無くて──えーと……』
「────ガタッ」
(耳を押し当ててる──?)
どこか上手い言い回しも思いつかなく──どこぞの情けない大人の様な言い訳をしつつも……確かに扉を隔てた向こう側ではヘルメスだと思われる気配を感じるのだった。
*
(やっぱり──ダメなのかな?)
あれから、暫く──ヘルメスに向けて話しかけてみたのだが、こちらを注意深く伺う様子は感じるのだが動き出すような気配は感じなかったのだった。
『ごめん──お手を煩わせてしまって……挨拶出来てよかったよ』
「────」
『えっと──また、いつか来るから……』
「────まっ……」
『え──?』
そっと立ち去ろうとした時に──まるで慌てたようにこちらを必死に呼び止めようとする声が耳に微かに聞こえて来るのだった。
『ヘルメス──?』
「────」
『えっと……』
「どうして……」
『え?』
微かに──そう、凄く微かにだが確かに今度は確実に自分の耳に”女の子”っぽいような声が聞こえてくる。
(あれ──ヘルメスの声は……)
一瞬──そう一瞬だが自分の耳を疑うのだった。
記憶が正しければ、シャドウ事件に際して聞いたヘルメスの声は確かに男の子っぽい印象の声だったからだ。
「──どうして今になって来たの?」
耳を扉に近付けて声を確かに確認する。
その声は綺麗な女の子の声で、でも確かに話し方や癖は何度か聞いたヘルメスの印象のままだったのだった。
『色々と忙しくしていて──』
「──知ってる」
「けれども……会いたいって──いつか会いに来てくれるって約束した」
『ご、ごめん──』
(えっと──これはいったいどういうことだ?)
傍から見るとこう──あれだ責められるカップルのような図に自分でも困惑を感じ始めていると──。
「流石、シエルくん!」
リンの声がまずは聞こえてくる。
自分の背後では成り行きを見守っていた皆が嬉しそうな気配を感じるけれども──。
「──シエルだけなら……会ってもいい」
「それ以外は……えっと────」
「ナ、ナビ様なら……許せる──」
扉の向こうからヘルメスだろう女の子の声の要望が聞こえてくる。
『──分かった』
『えっと──伝えに行ってくるよ……すぐに戻って来るから』
「────────分かった」
長い間の後にヘルメスの声が返って来る。
それを確認して──自分はまずは皆へとヘルメスとのやり取りの説明と経緯を話しに皆の下へ戻るのだった。
coming soon




