『リンクス⑧』
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『リンクス──』
「うむ。この話は今は組織への加入願いと、既に加入が決まっておる人物には声を掛けている状況じゃな」
「おじいちゃん──どんな人が既に決まっているの?」
リンが気になったのか既に決まっている人物等についてドルマンさんに尋ねる。
「そうじゃな──」
「既に決まっておるのは──イアン、フィンにシン……そしてボン辺りがリンには見知っている人物かの?」
ドルマンさんは思い出すように──名前を告げていく。
「お兄ちゃん──」
「うむ、イアンがリンクスのトップとして組織を動かすように依頼され──正式に動いているの」
『イアンさんですか……』
自分の脳裏にはイアンの姿が浮かんでくる。
シャドウ事件を経験してイアンは自分の未熟さを改めて知った背景から──現在に至るまで精力的にそれらを補うために奔走していた。
きっと、そこら辺の評価も含めての判断なのだろうと──憶測に過ぎないが、中央の判断含めての思惑が垣間見えた気がした。
「えっと──ですが……フィンさんはギルドから、シンさんは軍から、それぞれ特待生だった背景から分かるのですが──」
「そうだな──ボンに関しては分からないな」
自分も話を聞いていて疑問を抱いた箇所がマリとシュンも疑問だったようで、疑問の声をドルマンさんへ投げ掛けていた。
「うむ、そこの部分じゃが──今回のリンクスの発足に関して最大規模のスポンサーとして台頭しているのがリッチなのじゃよ」
「あぁ──なるほどね」
リンはどこか察したように頷いていた。
「ボンに至っては本人の強い希望もあって──今回のリンクスへの加入の話が出て来ておるな」
「確かに彼は──分かるような気はしますね」
マリは納得顔で頷く。
(ボンか──)
自分の方もイアンに次いで──ボンの近況が脳裏に浮かんでくる。
学内対抗戦以来だろうか? ボンの活動方針が変わったのか──人と精霊の関係性。
人の関係性も──軍、ギルド、民衆問わずに大切にするような背景が表でも裏でも見受けられていた。
裏に関して言えば……そう、目の前に居るナビのファンクラブの第一人者でもあった──。
まぁ、言わずもがな──その界隈でも有名人であり、人柄に関しても誰も彼もが分かっている状況だった。
「リッチさんが最大規模のスポンサーとなると──これは民衆派、女王派……そして反女王派全ての思惑が合致しているという事ですか?」
それまで話をずっと黙って聞いていたバルが声を掛けてくる。
「良い着眼点じゃの。うむ──裏側ではそのようになるの」
「……反対している者たちの押さえ込みは?」
「それに関しては──追って発足の正式発表と共に話があるはずじゃな」
「なるほど──分かりました」
バルは聞きたいことは聞けたとばかりに、また考え始めているようだった。
(反対している者たちか──)
脳裏には民衆派の中でも反女王派のギィーの一派の光景が浮かんでくる。
彼らを御して、この案を通したのだろう──きっと上手くは押さえ込めていないと自分の中でも解答が出掛かっていた。
*
「────こんな所じゃな」
「後日、発足の正式発表と合わせて施設の方もこの行政エリアに出来るじゃろう」
ドルマンさんは自分達を改めて見つつ話しかけてくる。
「──はい。先ほども見回りの時に合わせて施設の方も確認してきましたが無事に竣工しているようでした」
ドルマンさんの声に継いでフェニの思念も飛んで来る。
「呼び出しの件に関してはこれで全てじゃの──大丈夫そうかの?」
『はい──。話の方は分かりました』
「確かに──これは呼び出しての話だよね」
「はい、今はどこも未だに奔走していて手が空いてないというのも実情ですからね」
「それに話が話だからな──」
自分に次いで──リン、マリ、シュンが言葉を零していた。
「──シエル。外、暗くなってきた」
『ん? ──確かにもう夕方か……』
「この時間帯だと──寮に着くのは夜だな」
裾をクイクイとされて見下ろすと外を見るレイが居て──時間の経過を教えてくれていた。
バルも時間を確認してか学園寮エリアに辿り着く大まかな時間を調べてくれていた。
『ドルマンさん──改めて、ありがとうございました』
「何を言うんじゃ──お礼を言いたいのはこちらじゃよ」
「もっと、私たちが上手くやれていたら若者に苦労を掛けさせる事も無かったじゃろうて……」
『いえ、これも自分の選択した結果ですから──覚悟の上です』
「そうか、そうか……」
どこか感銘を受けるようにドルマンさんは目を閉じて頷く。
「私もあなた達に会えて良かったです──実はお話は常々お聞きしていたのですが会える機会が無かったものですから……」
横からフェニも別れの挨拶を告げてくる。
「えっと──フェニ? その……撫でてもよいかな?」
そんな中、リンは我慢が利かなかったのかフェニに撫でてよいかの確認を取っていた。
「えっ──と……構いませんが──」
そして、フェニが戸惑いながらも承諾するとリンは待ちきれなかったように撫でていた。
「うわぁ……フワフワしてる──」
「えっと──私も……」
「シエル──行ってくる」
マリとレイも──ずっと気になっていたのか撫でに向かっていた。
「ん──ん……」
フェニの気持ちよさそうな声が──思念となって届いてくる。
心なしか脱力した様な感じに見えなくもないフェニが居て、思い思いに3人に撫でられていた。
(…………)
自分もそんな様子を見ていたら気になってきてしまい、そっと撫でてみる。
(柔らかい───少しだけ現実化してる影響だろうか)
フワフワしている手触りを確かめていると──横からシュンとバルも来ていた。
2人も気になっていたようで──そっとフェニに触れていたのだった。
*
『えっと──それでは本当にありがとうございました』
「う、うむ──」
どこか気まずそうな声で返してくるドルマンさんの視界の先には──撫ですぎて気持ちよさの果てに伸びてしまっていたフェニが居た。
ナビも気になったのか──撫でたのが決め手だったのだろう。
感激を受けたのとナビの精霊としての力も感じたのか──ダブルパンチの果てにフェニは陥落したのだった。
「おじいちゃん! また会いに来るからね!」
「うむ、いつでも待っておるぞ」
最後にリンに呼びかけられた時は──家族としての顔だろうか好々爺としての表情のドルマンさんが居た。
フェニを撫ですぎてしまったのか──外は夕暮れに差し掛かっていた。
そんな中自分達は学園寮に向けて帰路の道を足早に進み始めるのだった。
coming soon




