『リンクス⑥』
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「ここはいつ来ても人が多いですね……」
「そうだねー。私も住んでた頃は何も思わなかったけれども、今はちょっと人混みに酔いそうになるよ」
行政エリアに無事に魔力車にて辿り着き──ギルド本部へ行く前に良い時間だからと皆でレストランに入りテラス席より行政エリアの景観を見ていた。
マリの呟きにリンが返事を返している所だった。
(それにしても──)
自分も改めて街並みを見ていると色々と感慨深いものがあった。
話によるとシャドウ事件前の街並みの雰囲気は険悪なものだったらしいが、今見える風景は人が朗らかな笑顔で行き交いつつ──街の警備など軍とギルドで共同で行っていたり、今のレストラン内でさえ一緒に談笑しながら食事を楽しんでいたりしていた。
『世界は少しずつ変わっていってるんだな……』
「ふぇ?」
自分の呟きに反応したナビは──いたく美味しそうにパンケーキを頬張っていた。
ナビの食事好きに関してはもう個性なのだろう。
普通に今は隠すことも無く何でも美味しく食べていて、たまにお互いに離れられるようになってからは密かな楽しみとして一人でもご飯を食べに行っている節があった。
「確かに世界は変わって行くんだよな──」
「自分達がこれからもこの形を維持出来たら……」
バルが横で自分の言葉に感化されて言葉を零していて、それに継ぐようにシュンがこれからの将来に想いを馳せていた。
『ごちそうさまでした。じゃ──行こうか?』
美味しいご飯の影響だろうか弛緩した空気の中──改めて皆に言葉を投げ掛けてギルド本部へと歩を進めるのだった。
*
(大きいな──)
途中からリンの先導で案内して貰いながらギルド本部へと道案内して貰った先は大きな施設だった。
「実際に目で見ると大きいですね──」
ナビも同じ事を思ったのか口から心の声が出ていた。
「とりあえず──受付かな? 皆、こっちだよー!」
リンに関しては住み慣れた我が家みたいな感覚なのだろうか? ヒョイヒョイと大きな扉をくぐり抜けてはその先へと消えて行っていた。
「──シエル。行こう」
『そうだね──行こっか』
裾をクイクイと引っ張られながらレイにせかされるように自分もリンの後を追う。
それに続いて皆も付いて来ていた。
「いらっしゃいませ──えっと……」
「こんにちはー! お仕事お疲れ様です! えっと──おじいちゃ……ドルマンさんの呼び出しで来ました!」
リンに追いついた時はリンは受付の方まで進み出ており、受付嬢のお姉さんと話していた所だった。
「確認の為──お名前……いえ、シエル様方ですね。お話は伺っております。少しだけお待ち下さいませ」
追いかけて来た自分の姿を視界に収めたかと思うと──受付嬢のお姉さんは何かに気付いたようにリンに席にお掛けになってお待ちするように伝えて、受付の背後へと消えていった。
「おぉ──シエルくんパワーだねぇ!」
「有名人ですからねぇ──」
リンの言葉にマリも同意の声を上げる。
確かに意識をしてみたらギルド本部に入ってから、ちょこちょこと視線は自分の方へと飛んできているのも分かっていた。
「流石──シエル様です!」
ナビも嬉しそうに反応を示してくるが──そんなナビ本人にも視線が飛んできているのは……分かっているのだろうか?
少しだけナビの危機管理? いや、自分の魅力に関して──どのくらい気付いているのかに疑問を呈し始めた所で──。
「すみません──! お待たせ致しました! ギルド長の確認も取れました……!」
「こちらからお入りくださって奥の階段より上がってギルド長室までお進み下さいませ」
慌てて戻ってきたような? 少し興奮の色を隠せないような受付嬢のお姉さんは受付横の横のスイングドアを手で押さえて開けつつ、自分達を案内してくれていた。
「あっ──えっと……あの──! シ、シエル……さん!」
『は、はい──?』
「あの──! 握手……良いでしょうか?」
『えぇ──お構いなく』
皆が先に奥の方へと進み始めて──自分が最後の方でスイングドアを通る時だった。
受付嬢のお姉さんは少し申し訳ない声を出しつつ──小声で自分へと握手を求めて来たのだった。
「ぁ──ありがとうございます!」
『いえいえ──』
握手をしてあげると受付嬢のお姉さんは歓喜の声を小声で上げつつ感無量の感じになっていた。
自分もどこか気恥ずかしくなってきた──というよりも、少しだけ背後から冷たい視線の気配を感じたので受付嬢のお姉さんに笑顔を向けつつ『お仕事頑張ってください』と無難に声を掛けて皆を追いかけるのだった。
「「ジー──……」」
(あはは……)
ナビとレイも軽くは見てきているけれども、リンとマリの視線が少しだけ鋭いものになっていたのだった。
『お、遅れてごめん! と、とりあえず──ギルド長室へ行こうか?』
「そうですね──」
「……こっちだよ!」
少しだけ──本当に少しだけジロッと見られた後にマリとリンの反応があったのだった。
少しだけ──背中に冷たい汗を感じつつも……自分達はそのままリンの先導でギルド長室へと向かうのだった。
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