『闇市場─正義の行方─㉖』
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目の前のマザーはナビへと深くお辞儀をした後に改めて、自分とナビ、マリを見つつ──その口を開いた。
「私の名前はシロと言います。由来は先々代──そうですね第1代女王様からマザーだと語弊が生じやすいために呼びやすいように……白銀だと味気が無いために別称にてシロガネの部分からシロと名付けられました」
少しだけ話し過ぎた為か? 精霊なのに? とは野暮だろう──少しだけ息を吐く素振りをした後に再度頭を綺麗にマザーは……シロは下げていた。
「えっと──お母さま?」
どこかポカンとした表情でマリはノーラさんに懐疑的な声を掛けていたが、声を掛けられたノーラさんはどこ吹く風か澄ました表情でフフフと笑みを零していた。
「ごめんなさいね、丁度良い機会だと思ったから──マリ? あなたにも色々と説明をするわ」
「まずはシロに関しては──私と直属の護衛の者しか……クオリアの獲得、要は自己の確立に関しては知らないから情報の重要性は覚えていて頂戴ね?」
「え、えっと──お母さま?」
「シエルくん達も──分かったわね?」
『「は、はい」』
ウンウンと満足そうにノーラさんは頷いているが──。
「えっと、ですがお母さま……マザーの個の確立に関しては禁止されているはずでは? いえ、禁止というよりは──重い規制が……暗に禁止になるはずですが」
「そうね、反女王派──そして民衆派が忌避していて暗にはそうなっているわね」
「これは結構──危ない事なのでは……?」
「えぇ、だから直属の護衛の者と私しか知らなかったの」
『えっと──自分やナビは知っても……良いのでしょうか?』
自分がどこか場違いにも感じつつ、疑問をノーラさんへと投げ掛けるがノーラさんは待ってましたとばかりに自分へと視線をマリから切り替えてくる。
「シエルくん? あなたは寧ろ当事者に近いのよ?」
「今回の賭博エリアのマザーの件は報告書によればあなたが守った事──そして賭博エリアのマザーはどこかあなたへの関心も既に現れてるそうよ?」
「そして──あなたは既に商業区エリアのマザーの名付けも行っているのは聞き及んでいるわ」
『ははは──』
笑って誤魔化そうとしても既に遅かったのか、逃がしはしませんよ? という視線がノーラさんから更に注がれるだけだった。
*
「ただ、今回の機会で良くも悪くも反女王派の権力は大きく削がれてしまったのも事実ね」
「なので、この機会にマザーの管理についても言及しようと思っているわ」
「えっと──お母さま……?」
「必要な事なのよマリ? シエルくんだけじゃなく──ナビさんにとっても必要な事なの」
「私に……でしょうか?」
「そうよ? 今回の一件はマザーの規律性の裏を突かれてしまったような背景があるとも推測されているわ。なので、それに伴って融通性──個の確立化に関しての規制緩和取り入れに対する必要性を説きやすくなったわ」
『なるほど──』
「シエルくんは分かったようね。そう──精霊のクオリアの獲得、融通性……ナビさんの存在に関しても認めさせやすくなるの」
「そういうことですね──ありがとうございます」
フフフと笑みを零しながらノーラさんは自分達を見つめて──そしてシロへと視線を移す。
「それに各エリアのマザーの管理はシロがしているわ。彼女がリセットするようには私には感じないから」
「──流石ですノーラ。確かにおっしゃる通りですね」
シロはノーラさんの言葉に同意するように頷いていた。
「私からもお願いがあります。宜しいでしょうかシエル?」
『え? えっと──はい?』
そして不意にシロは自分へと視線を切り替えて、その薄い白銀色の目をこちらへと向けてくる。
「どうか賭博エリアのマザーの名前を付けて頂きたいのです」
『えっと──?』
「確かにそれは賭博エリアのマザーも喜ぶでしょう──ですがシエルくんが名付けたと知るのは少ない方がが良いでしょう。そうね……便宜上は賭博エリアのマザーへ処遇を与える際の呼称の必要性として与えることにしましょう」
「ええと──お母さま? その……そんなザックリでも?」
「普通は通らないような事も今はどこも混乱している今のうちに通してしまおうという──魂胆だけれども……流石に引いちゃうかしら?」
『いえ──強かで良いとは思いますよ?』
「あら──口が上手いのね。これはマリも惚れちゃ……」
「お母さま!!」
そして、茶化すように発言したノーラさんをマリは諫めていた。
「それでですが──シエル? 名前の方は良いでしょうか?」
そんな中シロは改めて、自分への視線を外さないまま再度問いかけて来るのだった。
*
『ヘルメス──ギャンブルの神様の名前をそのままだけれども……どうでしょうか?』
「ふぅん──なるほど、ね。でも分かりやすくて周りにも由来を話しやすいですし──良いでしょう」
「私も異存はありません。きっと彼も喜ぶでしょう」
『えっと──そういえば疑問に思っていた部分があったのですが……』
そして、不意に感じた疑問をシロとノーラさんに自分は問いかける。
『各エリアのマザーの姿なのですが──その性別? 姿? に法則性はあるのでしょうか?』
「それは難しい話ね……」
「私もその部分に関しては未だに情報が不明瞭ですね」
自分の不意に抱えた疑問を2人に投げ掛けてみたら、2人とも難しそうな顔になってしまった。
話を聞くと、そもそも精霊の性別や姿など──守護霊の部分から千差万別らしい。
それは諸外国にしても同じ報告を受けているらしい。
なので、その延長線上のマザーに関しても似たようなものらしい。
ただ、ナビが薄っすらと感覚的なのですが──と前置きで話してくれた内容だと、どうやらぼんやりと? 薄っすらとは自分が望む形になってるのではないか? との事だった。
『なるほど──』
「あの──お母さま?」
「ん? 何かしらマリ?」
「現状は賭博エリア、商業区エリア、そして中央のマザー……の名前は分かりました。他のエリアに関してはどうなるのでしょうか?」
「そうね、そこは名前の候補を各エリアで募って決めるようになると思うわね」
そしてマリの方も疑問点があったのかノーラさんへと問い掛けていたが、既にプランは頭の中で練っていたのかノーラさんは回答を返していた。
*
「ふふふ、久しぶりにたっぷりと話した気がするわ──」
そしてパンッ! とノーラさんが手を叩くと数名の白い狩衣を来た者たちが現れていた。
「多分、そろそろ議会の方も人が集まっている頃でしょう」
「えぇ──既にほぼ集まっております」
「先の私の考えをある程度、話を通せる者には通達なさい」
「はっ!」
そしてノーラさんの言伝を受け取った者はすぐさま行動を移したのか目の前から消え去っていた。
「シロ──? では警戒を新ためてお願い致します」
「はい、ノーラ。お任せください──ハンネス及び、ヘルメスの様子を見てきます」
そしてシロの方も透けるように消えて行く──。
「さて、シエルくん? ナビさん、マリ?」
『「「は、はい」」』
そして自分達へと視線を戻してノーラさんはこちらへと身体を向けてくる。
「マリ──良い人を見つけたのね? 頑張るのよ?」
「えっ──えっと、お母さま? えっと──は、はぃ……」
マリはノーラさんに抱きしめられて言葉を掛けられていた。
最初は驚きと否定を──しようとしていたが最後は顔を赤く染め上げて頷いていた。
そのままノーラさんはマリへの抱きしめを終わり、自分とナビへと向き直る。
「今回の件は改めて、ありがとうございます」
「きっとあなた達が居なければ被害はより甚大な物になっていたでしょう」
「改めて感謝を送らさせて頂きたく思います」
『いえ──これは自分で選択したものなので』
「ふふ、全く──そういう時は”はい”の返事だけでも良いのよ?」
『はい』
「素直でよいわね──だからその恩賞としてあなた達の自由を保障するように掛け合う……いえ保障するようにするわ」
「だから安心なさい」
『「ありがとうございます」』
自分とナビは声を合わせてノーラさんへと感謝の言葉を頭を下げる。
「そもそも──こんなに若い子に枷を背負わせるなんて……私は」
少しだけ言葉が震えたようで自分とナビは驚いて顔を上げてノーラさんを見るが──その時はノーラさんは澄ました……少しだけ取り繕えた表情に戻っていた。
「いいえ、何でもないの──本当に話せてよかったわ。気軽には来れないでしょうし中々話せないとは思うけれども──また機会があれば話しましょう? 約束よ?」
『「わかりました」』
自分とナビはノーラさんの深くは追及してこないでという空気を感じつつ──ノーラさんの言葉に返事を返していた。
「マリも──久しぶりに話せてよかったわ」
「お母さま──迷惑を掛けてしまってごめんなさい。本来は思念の方も秘匿されてる部分もあるのに……」
「いいのよ? それほど──あなたを夢中にさせているのでしょう?」
「えっ──えっと…………はぃ」
「うんうん。ちゃんと色々と学んで来なさい? 外でしか学べない事、出会いは沢山あるのだから」
マリは顔を真っ赤にして後半は頷いている状態になっていた。
「分かったわね? シエルくん──?」
『────!』
「私のマリを宜しくお願い致します。ちゃんと見てあげて下さいね?」
『は、はい──!』
少しだけ──ほんの少しだけナビからの視線も感じつつ背筋に少しだけ……汗を感じつつもなるべく誠意を込めてノーラさんへと自分は返事をする。
「あら──? あらあら──ふふふ」
そんなノーラさんは一瞬ナビへと視線を移して、何かを察したのか──楽しそうな声を上げていた。
「ノーラ様──お客様の案内も済みました」
そんな中タイミング良くか、先程の白い狩衣の方の1名だろうか現れてノーラさんへと声を掛けていた。
「さて、シエルくん? ナビさん、マリ? 知り合いの方のおもてなしも済んだようだから本当にお別れね」
「3人の案内を”丁重”にお願いね?」
「は──はっ!」
ノーラさんは自分達の件があったからのか──今度は丁重にの部分を念を押すように言いながら白い狩衣の者へと指示を出していた。
「では、またいずれ会いましょう? またね」
そして軽く自分達へと手を振ってノーラさんは奥の扉へと消えて行く。
「では、すみません。案内をさせて頂きたく存じます……こちらへと着いて来て下さい」
残った自分達へと白い狩衣の者は深く頭を下げた後、自分達の案内を始める。
自分達はその後を追って移動を始めるのだった──。
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