『闇市場─正義の行方─㉓』
────
「────ァァァア!!」
ガキィィィ──ン! 目の前で刃とバリアが衝突しあう音が目の前でなり響く。
あれから──こちらへとタガが外れた者たちは猛攻を仕掛けて来ており、時たま仲間同士で遠くからの魔法で被弾しそうにもなっていた。
『恨まないでくれよ──っというのは無理な話か……』
そんな中、自分はナビに隣でバリアを張って貰い、自身はそっと手を前に翳して──こちらへと攻撃を仕掛けてくる相手に対象を絞って白銀の力を……先の黒い糸をイメージした白銀の糸を相手に飛ばす。
「がぁぁ?! ──クッ……ソ……」
白銀の糸を接続された相手は魔力欠乏症に似た症状を起こして一気に崩れ落ちる。
(上手く行ってるな──)
相手から魔力を奪い取り──それをナビに供給する。
「ん──……」
そしてレイの精霊の力を用いて崩れた相手を怪我をしないよう、二次被害に発展しないように遠方へと優しく飛ばしていた。
*
「ん──わた、しは……」
何度か攻防を繰り広げてる中でハンネスの声が背後から聞こえてくる。
「意識が──!」
一緒にハンネスとマザーの看病をしていたマリとリン──マリの声も遅れて聞こえてくる。
「父様──!」
そこへシュンと共に微力ながらでもとバリア外の攻撃を受け止めていたバルが一旦手を休めてハンネスの下へと向かっていた。
「バルか──私は……これは──いや、ダメだ私には守る価値などは……」
「父様──そんなことは言わないでください!」
背後から状況を即座に察したのかハンネスの声とそれを制するバルの声が聞こえて来たのもすぐだった。
(ん──?)
ふとバリアの……周囲の魔力の流れがこちらへと助ける様な動きが見えて発生源を目で追うと──そこにはまだ微かに横たわりながらも目を開いているマザーが居た。
「申し訳ない──です。私が……しっかりと役目を果たせなく──」
小柄な男の子の姿のマザーの思念が聞こえてくる。
『今はゆっくり休んで──大丈夫だから』
「ありがとうございます……」
そして自分の声を聞いたマザーはどこか安心したように再度瞳を閉じて魔力の流れも元の状態に戻る。
*
どのくらい時間が経ったのだろうか──自分達へと刃を向けてくる者が居なくなって来ており、目の前ではイアンとムシュタルさんが自分達を守るようにバリアの外側で立っていてくれていた。
「チッ──すまねぇ」
「────」
2人ともどこか申し訳ない雰囲気を隠すことも出来ずに自分達を守るように前に立っている。
「お前たち──! この惨状はなんじゃ!」
「むっ──……同士討ちをしたのか?」
そこへ大きな声を上げて両軍の残存した部隊を引き連れたドルマンさんとガイウスさんがやっと──自分達の場所へと辿り着いていた。
「…………」
「────」
ドルマンさんもガイウスさんも2人から現在までの詳細な報告をバリア外で聞きながら、その表情は話が進むにつれて一層険しいものになっていた。
「──イアンよ」
「…………」
「私から特に言う事はないが──人は脆いのだ。そしてお主は一番やらないといけないのはリンへとしっかり謝ったのか?」
「──まだだ」
「なら、早く行くがよい──後は私が受け持つ」
「──すまねぇ」
そしてドルマンさんから身を翻してイアンがリンの下へと来る。
「リン──しっかり最後まで守れなかった……すまなかった」
「──うん」
バリアに触れる触れないかの距離でイアンは深く深く──リンへと頭を下げていたのだった。
*
バシィィィ──ン! と音が鳴ったのはイアンが頭下げて少し経ってからだった。
何事かと目を向けたら──そこには普段の温厚そうな雰囲気とは正反対の軍の元帥としての顔か……厳格な表情のガイウスさんと今まさに頬を思いっ切り引っ叩かれたムシュタルさんが居た。
「ガイウスよ──イレギュラーだったのは理解しておる」
「──はっ」
「軍は民間人を……何よりも人命救助を第一にしている──分かっているな?」
「──」
「ムシュタルよ──お主は2つ誤っておる。1つはハンネスへの状況判断の末での救助への対応。そして何よりも──自身の息子への対応だ!」
「──申し訳……御座いません」
「その謝罪は受け取ろう──私もその場に居なかった面も大きい。だが戦場とは常に常識も──その全てがどんどんと変わって行く……自分の信念を見失うではない」
「──はっ!」
「息子へとしっかり謝って来るのだ──後の事は引き継ぐ」
「──畏まりました」
そのままガイウスさんと深く礼をしたムシュタルさんは顔を上げてはシュンの下へと駆けていた。
「シュンよ──すまなかった。父としても大将としても私は情けない姿をお前に見せてしまった」
「────」
「本当に申し訳ない──」
「いえ、俺は……自分は父様──の生き様をしかとこの目で見れて良かったです。父様──気にしないでください」
ムシュタルさんの──自身の父親の謝罪にシュンもしっかりとそれに応えては返していた。
*
「わた──しはもう……生きている価値など──」
背後ではバルと話し合っていたハンネスが居た。
少し前ではレイへと謝っていた言葉も聞こえてきてもいた。
「シエルよ──少し通して貰ってよいかね?」
「私もお願いする」
ナビと共に目の前に来たドルマンさんとガイウスさんを見る。
2人の危ない雰囲気や思想を感じる事も無かった為──そっと2人を内側へと入れる。
「シエルよ──色々と掛けたい言葉はあるが……よくやった」
「私からもお礼を伝えたい──よく最大限に被害を押さえては最善の結果を運んで来てくれた」
ドルマンさんとガイウスさんが自分とナビを見ながら頭を下げる。
「ドルマンに──ガイウス様か……」
「私にも様を付けろい──という事は自我はちゃんとあるのだな」
「ハンネスよ──具合は大丈夫か?」
「まるで夢から覚めたようで──その先の夢を今は見ているような感覚だ……現実なのだな、全て」
ハンネスの表情からはその全てを汲み取る事は出来なかった──それほどまでに彼の抱えていた表情は複雑だった。
「私を殺……せ──、それが一番いい」
「父様──!!」
「すまないがハンネスよ、それは出来ない相談じゃ」
「それに私たちがどうこうするようなら──シエルが対応するだろう」
「────白銀の……シエルか」
そして、ハンネスの視線が自分へと注がれる。
『生きてください──それが貴方の咎であり背負うべき罪です……何よりもバルがそれを望んでいません』
『後は私の我儘です──貴方と同じく自分も……暴力により平和を築きました』
『なので、これは私のエゴでもあります──同じく私の覚悟の延長戦で……貴方の命があります』
「はっ──不遜な子供だ……だが悪くない」
「シエル──お前の掴みたい未来や選択を見させてくれ……その果ての光景に興味が湧いて来た」
「分かった──お前の正義を見届ける為に私は生き……よう」
そして言いたいことを言い切ったのかハンネスは再度深い眠りへと意識が落ちていったようだった。
「シエルよ──お主がそんなに気負う事はないのじゃぞ?」
そしてドルマンさんがハンネスが目を閉じたのを確認した後に自分へと声を掛けて来た瞬間だった。
「このバリアを解除したまえ──!!」
「むっ──この属性はあの方と同じ……? いや、だがどこか違うか──」
「2度は言わない──! バリアを解除して道を開けたまえ!」
視線を声をする方向に向けると白銀色に見えるが白い服装が太陽光と魔力層の照り返しでそう見えたのだろう。
白い狩衣に身を包んだ集団が目の前に来ていたのだった──。
coming soon




