『闇市場─正義の行方─㉑』
────
「これは──」
『ナビ──気を付けて、普通じゃない』
「はい──!」
ナビと共にハンネスから排出された黒い存在を前に握り合った霊魔剣を構える。
(──これはなんだ? 精霊? 魔法? どれも自分の知ってる今まで見た物や知識とは該当しない)
目の前の黒い存在は周囲にまだ残っている黒を吸収するように自身へと収束していっていた。
そしてその形を変えるように黒い存在はうねるように形を変えていっていた。
「──kakakyayayaya──aaaaAA──kskxa!!」
そしてヒト型の様に歪にその黒い存在は形を変えて言葉を発してきた。
『何を言っている──?』
「シエル様──! 皆さまが!」
黒い存在の叫ぶ声は周囲の空間を鈍く震わせて魂へと語り掛けるような素振りを見せていた。
だが、その言語や意味を理解することは出来ずに苦しんでいる中──ナビに声を掛けられた先には頭を押さえている周囲の皆の姿があった。
(精霊も苦しんでいるのか──?)
自分の捉える先には精霊にも影響が出ているのか──その光は鈍くなり、浮遊に関してもどこか重たそうな感じに動いていた。
『ナビ! ナビは大丈夫か!』
「はい──私はなんとか……多分私達の力が弾き返しているのだと思います!」
『それなら──!』
ナビの方は無事みたいで、ナビの推測に合わせてナビと共に自分達へと収束されている霊魔剣の力を満遍なく周囲に展開していく。
その恩恵は大きかったのか、霊魔剣は少しずつ霞の様に周囲へと広がり消えていったが──精霊も人も苦しみから解放されたようだった。
*
「──kyaaaaa! aaaxaaaaA! kahahahaka──!!」
そんな中でも目の前の黒い存在は何かを言っている。
その言葉を知りたいと理解したいと思った時だった。
「シエル様──!」
咄嗟にナビが気付いて庇おうとしたようだが間に合う事は無く──黒い存在の一部が自分へと放たれており自身へと侵蝕していた。
『っ──!』
最初の感覚は純粋な違和感だった。
痛みは無かった──真っすぐに自分へと当たるのと同時に内側へと侵蝕したようだった。
(これは──ハンネスも似たような感じだったのか?)
内側へと侵蝕された瞬間にまるでノイズがクリアになっていくように相手の声が聞こえては理解出来ていく。
「──消えろ! 浄化しろ! 破滅するのだ──!!」
目の前の黒い存在は思念を強く強く周囲へと振り撒いており──それはただただ害悪に近い存在へと成り果てていた。
「シエル様──! 大丈夫ですか?! すみません──私が……私が……」
『いや、大丈夫だ。むしろ──好都合だ。ハンネスの影響もこれで多少は理解した──それに……』
黒い存在はただただ思念を放って来ているだけで──それを逆探知されるような事に関しての警戒は一切していない様だった。
(ハンネスの場合は──侵蝕されて甘い言葉の囁きによって堕ちていったかも知れないけれども……)
そう──自分の場合は別だ。
白銀の力も精霊の力もナビの存在もある。
『ナビ──試したいことがある。演算の処理のサポートを! あの存在の裏を探る!』
「──! 分かりました──!! ですが……お気を付けて!」
『あぁ──! 分かってる……気付かれる前にやろう。行くよ──ナビ!』
「はい──!」
自身へと侵蝕しようとしている黒い存在の一部から──逆に黒い存在側へとハッキングを仕掛け始める。
(スピード勝負だ──!)
「──消えろ! 世界をクリアに──!」
目の前の黒い存在は呪詛のように言葉を振り撒いているばかりだったが──。
「────!!」
何か違和感を感じ取ったのか叫ぶのを止めて、その違和感を探るような反応になっていた。
*
(どこだ──これはどこに繋がっている──?)
黒い糸を細い細い思念の糸を辿るように自分の侵蝕されてる一部から──黒い目の前の存在……更に続くであろう黒い思念にも近いものを追っていく。
その先は海をも既に超えているようで──。
(っ──!?)
白銀の大きな力を一瞬感じる──そして渦に進入していくような気配を感じた瞬間だった。
その向こう側の存在が何かを感じ取ったのか明らかな拒絶反応と共に全てを壊すような力の流れが逆流してきていた。
『ナビ──! あいつの周りをバリアで囲うんだ!』
「──! は、はい!」
瞬時に自分の意識を自分自身へと戻して──侵蝕しようとしていた黒い存在の一部を一気にひっぺ返して元の目の前の黒い存在へと弾き返す。
「────! ガァ?! ガガガガッガガガガガガガgァァァァアアアア!!」
そして、黒い存在の一部を弾き返して──ナビが黒い存在の周りへと包み込むようにバリアを囲った時だった。
黒い存在は一瞬大きく震えたかと思うと大きく存在を歪ませていき内部崩壊を起こしつつ、バリア内にてどす黒い魔法の大爆発を起こしていた。
『────っ!』
「すみません! 更に重ねます!!」
ナビの展開していたバリアは一瞬、大爆発を受け止めた後にヒビが入り──瞬時に崩壊を始めていた。
それに重なるように自分がバリアを張り直し、更にナビが──その後にまた自分が……とバリアを重ねていく。
バリアの消失と黒い存在の消滅が相成るよう発生していきその規模は段々と縮小していく。
そして──最後に黒い存在とバリアがその存在ごと打ち消しあった後は周囲は静寂に包まれていたのだった。
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