『闇市場─正義の行方─⑰』
戦闘は佳境へと突入していく──。
「各員──離脱!!」
魔力車からムシュタルさんのアナウンスが響き渡って来る。
全員が離脱した魔力車は速度を維持しつつ自由落下の速度も相まってかなりの質量を伴ってハンネスへと衝突していた。
「ぐあぁぁぁ────!」
ハンネスがもろに魔力車の衝突を食らい魔力の収束がキャンセルされる。
「うぉぉぉぉ──!!」
そして離脱しざまにムシュタルさんはイアンへと振るわれていた巨大な実剣へと──己の実剣を落下速度と魔力を合わせて叩きつけていた。
ギギギギギギ──! キンッ! 小気味良い音が鳴ったと思った時はムシュタルさんが巨大なハンネスの実剣を叩き斬っていた。
「大丈夫か──イアン殿!」
「すまねぇ──俺としたことが油断した」
そして地表へと降り立った2人は相互の無事を確認する。
「父様──!」
「シュンか! 良く持ち応えてくれた!」
「お兄ちゃん──!」
「すまねぇ──ダサい所を見せた。もう大丈夫だ」
そんな2人へとシュンとリンが声を掛けていた。
「ですが、父様はどうしてこちらに?」
「あぁ──殲滅していたシャドウが塵のように消滅したと思ったら一点へ向かって飛来していってな。それに合わせて物凄い巨大な魔法が放たれたのを確認して、ここまで追って来たのだ」
「俺と似たようなものだな──」
シュンの質問にムシュタルさんもイアンさんと同じような言葉を述べており、イアンはどこか面白そうな反応を示しながら頷いていた。
「ぐうぅお──くそっ──なんなのだ……」
そして目の前では魔力車の衝突で多少はダメージは入ったのか呻いているハンネスが居た。
「くそっ──どいつもこいつも私の邪魔を……」
そして言葉と共に再度、折れたはずの実剣が現れる。
(魔力と──周囲の……いや、取り込まれてるマザーの精霊の質を使っている?)
実剣を再度、深く視認出来た事で自分の中でもある種の仮定が生まれていた。
「だが──アレはいったい何なのだ?」
「あれはハンネスだ──」
「ハンネスだと……?」
「あぁ──そして今回のどうやら黒幕で確定みたいだ。だが、やつの言い分が土地狂ってやがる」
そしてムシュタルさんとイアンは情報を即座に共有していた。
*
「ムシュタルか──あぁ、あのムシュタルか……何も変えられん愚かな男」
「お前──ハンネスなのか? なんだその姿は? まるで最初に報告された”巨大人型モンスター”みたいな姿じゃないか」
「懐かしいな──あれが運命の出会いだったのだ。私はあの時この力を授かったのだ」
「ハンネス──お前何を言って……」
「愚かな男よ──ただ愚直に正義を振りかざして何を守れたというのだ」
「私は変えたぞ! 裏からも表からも! 愚かな世界の敵を排除し、時には利用し平和をもたらした! 残るは腐敗しきった中央の排除のみだ」
「後は私が世界を恒久的な平和へ導こうじゃないか!」
ハハハ! とハンネスはまるで夢まで後一歩が抑えきれない気持ちを吐き出すように笑っていた。
「何を言っている──お前のしていることは立派な国賊の行為ではないか!」
「ハッ! 何を言う! この国の平和の礎を築いたのはこの私だ! 心血を注いで何も解決出来ない事を全て──そう全てだ! 解決してきたのだ!」
「違うぞ! お前のやっていることは犯罪だ!」
「犯罪? 何を言う! 私の行為で多くが救われ、多くがその平和を享受しているではないか! 貴様の言う正しきことではヒノモトは今も昔と変わらないドロドロの血みどろな世界に過ぎなかったではないか!」
「違う──違うぞ! ハンネス! それは結果論に過ぎない!」
「結果が全てだ! 実際に腑抜けた腐敗しきった中央や民衆ではここまでの繫栄も平和も訪れていなかった!」
「くっ────だが!」
「くどい──!!」
ムシュタルさんは悔しそうに顔を歪ませながらもハンネスを睨み返す事しか出来ずにいた。
*
「パパ──ママ──そして私も同じ理由なの……?」
「む──」
戦場に静けさが一瞬だけでも生じた際に呟いたレイの言葉が空間に響き渡る。
「あぁ──貴様の両親も熱心な反軍派だったな。争いの火種は摘むべきなのだ」
「そして貴様は──平和には多少の犠牲は仕方ないのだ。何よりも貴様は罪人の子だ……贖うべきなのだ」
「────っ」
自分とナビへと回復を施していたレイの動きが止まる──その表情を見てみれば悔しそうな……悲しそうな複雑な表情で目に涙を溜めていたレイが居た。
「父様──! 私は──私は何故!」
「くどい! ──だが最期か。それならば冥途の土産として教えてやろう」
「バル──お前は私の息子として平和の礎となるのだ。私は私の持てる全てを賭してでも平和を手に入れてみせる」
「これほど名誉な事はなかろう?」
「とう──さ、ま?」
それを聞いたバルはどこか表情が失われていき膝を落とす。
「おい──しっかりしろバル!」
「ぁ──あぁ、すまないシュン……ハハッ──多少は予想していたにも関わらず情けない姿を見せた」
だがまだ膝に力が入らないのかシュンに抱えて貰いながらバルは立ち上がる。
そのバルの瞳にはまだ色があり──彼の魂の炎は消えていない事は分かった。
「ハンネス──お前は俺以上に正義に熱く……何よりもこの国を憂いていた」
「あぁ──ムシュタルよ、その通りだ」
「そんな平和を愛し目指していたお前がどうして──こんなに変わってしまった?」
「変わってなどおらぬ」
「違う! ──お前は変わってしまった。俺の知る昔のお前は愛していた息子へもそんな事はいうはずがない!」
*
「────くどい。そして飽きた──会話はもう終わりだ……充分だろう? もう消えろ!」
ハンネスの声に応じて周囲の空間が震え始める。
「っ──! ギルドの部隊! 警戒を最大にしろ! 何かあれば後退しろ!」
「ハンネス──! 軍もギルドに習え! 各部隊、警戒を怠るな! 各部隊、必要に合わせてギルドと共闘を引き続きするのだ!」
ハンネスの空気の変化にいち早くイアンとムシュタルは気付いて指示を走らせる。
「シエル様──!」
『分かってる──なんとかしよう。ハンネスは世界に解き放ったらいけない。いや……ハンネスというよりは──』
「分かっています……私も薄っすらとはシエル様の気持ちや考えは伝わって来ますから」
「シエル──私も忘れないで。私も分かる」
『ありがとうレイ──おかげで何とか動けそうだよ』
「うん──」
そして改めて周囲を確認する。
ハンネスは周囲の魔力層までも影響の範囲を伸ばしており、魔力の乱れ──いや黒い魔法が周囲を蝕んでいる有り様だった。
それに対抗してイアンとムシュタルさんが前面に立ち今でもハンネスへと迎え撃とうとしていた。
マリ、リン、シュン、バルは自分達を守るように傍に居てくれていた。
(何とかするしかない──そしてこの未曽有の事件を引き押してる最大の原因はハンネスじゃない……彼へと侵蝕している”黒い存在”だ)
自分の瞳を通して見えるのは──リアルの世界と、魔力層の魔力の世界……そしてレイとの精霊の加護により得られた精霊視点の世界だろう。
そこにはハンネスへと深く──深く根付いては芽吹いてると言っても過言ではない程に侵蝕している黒い存在が視えていた。
(ナビも──レイもきっと視えてるのだろう)
そして目の前では今まさにムシュタルさんとイアン──軍とギルドが共同戦線を張ってハンネスへと最後の戦闘が幕を切ろうとしていた。
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