『闇市場─正義の行方─⑥』
舞台は少しずつ学院エリアから──
「おお──イアンか流石じゃな」
ドルマンさんがその青年を見て労いの言葉を掛けていた。
「はっ! このくらい大したことは無い──それにしても一体これはどういうこ……」
「──お兄ちゃん!」
イアンという青年が周囲を見渡しながら言葉を零していると──リンがイアンと呼ばれた青年に声を掛けていた。
「ん──って、リンか。お兄ちゃんと言うのは辞めろと言っただろう」
「えー……ダメなの?」
「いや──公の場では辞めろといってるだけで……」
「えへへ──ありがとうお兄ちゃん」
はぁ──と諦めたような息を吐きながらイアンの目は自分たちに向けられる。
「それで──これはどういう状況だ?」
イアンが改めてドルマンさんに向かって言葉を投げかけたタイミングで──。
「バルくん達のチームの子達の処置というか……あのシエルくん達の影響かな? むしろ全快に近くなっていたよ──」
ヒューズさんも自分達の方へと向かって来たのだった。
*
「はっ! ──それは良くない事態だな……」
静かにドルマンさんの現在の状況を聞いたイアンが息を1つ吐いて、現状を確認した感想を述べる。
「でだ──問題はこのヒヨッコ達も一緒に行きたいと?」
「ヒヨッコじゃないよ! お兄ちゃん──」
「静かにしていろ──真剣な話なんだ」
「う、うん──」
ドルマンさんへと確認しているイアンへとリンは抗議の声を上げたが、すかさずイアンはそんなリンを諫めていた。
「お願いします──!」
そこへバルが一歩前へと出て頭を下げていた。
「────チッ」
タイミングが悪い時に来てしまったか? と一言述べた後にバルを横目にイアンはドルマンさん、ガイウスさん、ムシュタルさんを見ていた。
「初めましてかな──ギルドの期待の星……」
「その呼び方は止めてくれ──俺は俺だ。星でも何でもない」
「むっ、すまない」
「それに初めてでもない、じじいに着いて行ってる時に顔はお互いに見ているだろう?」
「それはそうだったな」
ガイウスさんもそのタイミングで声を掛けるが──なかなかイアンと言われてる青年はハッキリと物を申しているようだった。
(……どんな人物なんだ?)
リンのお兄さんっぽいのは分かるけれども──。
「彼はギルドの若手きってのホープなんだよ。ドルマンさんと同じ闇、光、風の3属性に恵まれて尚且つ戦闘技能に関しても類を見ない才能があってね。──そして何よりもドルマンさんの孫と来ている」
自分の疑問を浮かべた表情を見たのかムシュタルさんが近づいて来て教えてくれた。
「あ? ──止めてくれ、そういうのは苦手なんだ。俺は俺だと──ん?」
『……はい?』
「──年齢にそぐわない面構えをしているな。ま、嫌いじゃないぞ」
ムシュタルさんの言葉に反応してか振り返って来たイアンが自分を視界に捉えたのか──ジッと自分を見て来た後に感想を述べていた。
(年齢にそぐわない……? 旧世界の年齢も換算すると確かにそうなるけれども──)
(「なかなか──人物を見る目は確かなようですね」)
自分の心の声にナビも相槌を打って来ていた。
*
「──そこを何とか出来ないかの?」
「──子守をしながら賭博エリアを制圧しろと?」
イアンはドルマンさん、ガイウスさん、ムシュタルさんに自分たちとの行動をお願いしていた。
それに応えつつイアンは物凄い睨みを利かせた目をこちらへと向けて来ていた。
「足手まといには──なりません!」
バルは先と同じく深々と頭を下げていた。
「言葉だけなら如何様にも言える──」
「お兄ちゃん──お願い……します」
「お前まで──か」
合わせて皆も頭を下げて──リンも下げた時にイアンは深い深いため息を吐いていた。
「お前ら──自分たちが何を言ってるのか分かってるのか?」
「戦場に行くんだぞ? 殺し合いになるんだぞ?」
「もしかしたら、俺だって──お前らをカバー出来ない時があるかも知れねえ」
「それでも──行くって言うんだな?」
イアンは更にその目の力を強めて言うが皆の顔を上げた目を見て──。
「──ったく、貧乏くじを引いてしまったか? おい!白銀の……名前は?」
『シエルと言います』
「あぁ──そんな名前だったな。世間に疎くて悪いな。部下がお前の名前を言ってるのは聞いたことがあるんだけどな」
『いえ──そんなことは……』
「そして──そこの嬢ちゃんは……」
「ナビと言います」
確かにそんな名前だったな──イアンは頷きつつ更に言葉を続ける。
「お前らにもお願いする。俺もカバーはするが……お前らの動きも目に見張るものがある。殺し合いは──あれだが何かあれば、こいつらを助けてやってくれ」
『──分かりました』
「はい」
「それがクリア条件だ」
自分の頷きを見た後にイアンはドルマンさん達を見る。
「ありがとうイアン」
「そういのは終わった後に言ってくれ」
ドルマンさんの言葉にどこかクールにイアンは返事を返していた。
*
「イアンさーん! 各自武装の点検及び調整終わりました!」
「──時間は丁度か。 少し待ってろ」
「はい!」
イアンさんの部下達だろうか、遅れてやってきたメンバー達が居た。
「シエル、ナビも含めて──お前ら最低限の条件としてだ。しっかり俺の指示には従え……それは絶対だ、分かったな?」
「「『はい』」」
皆で返事をするとどこか満足そうな顔を一瞬だけ見せたように見えたが、一瞬のうちにクールな顔にイアンは戻っていて──。
「おい──着いてこい! 俺の部隊のやつらにお前たちの事を話す」
そう言ってイアンは歩き出していた。
「シエルよ気を付けるのだぞ」
「シエルくん気を付けて」
自分もそれに着いて行こうとした際にガイウスさんとヒューズさんが声を掛けてくる。
『ありがとうございます──気を付けて行ってきます』
そう答えると2人は満足そうに頷き──同じくナビにも声を掛けていた。
そして歩き出そうとするとレイも自分の傍らに来ようと歩み出して──そこへドルマンさんもリンへと声を掛けた後にレイへと声を掛けていた。
どこか戸惑いと嬉しさが入り混じった表情を見せながらレイは大きく頷いた後に自分の傍へと来て服の裾を掴んできた。
その反対側にナビが来て──自分達はまずはイアンの後を追うのだった。
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