『闇市場─正義の行方─⑤』
そしてバルの記憶へと遡る──
「最初の違和感は父様の変化だった」
ある日エリア外に発生した特殊な任務──今思うとあれは”最初の大型人型モンスター”の討伐なのだったと思う。
その討伐を終えてから段々と父様は狂って行ったのだと思う。
「最初は父様が執務の間に苦しみ出していたのを見てからだ──」
ある日、まだ幼かった俺は父様の執務室の横を通り過ぎた時に苦しむ声を聞いてドアの隙間から──執務の邪魔はしてはいけないからと……ソッと父様の部屋を覗いたんだ。
そこには苦しんでる父様とその口から黒い霧みたいな何かが出てるのを視界に押さえてしまったんだ。
「だが──幼い俺は……」
あの後、父様は急に恍惚な表情を浮かべたと思ったら自分を視界に捉えたんだ。
だが──何も言ってくることも無く、そのまま……まるでそんなことはまるで”無かった”かのように日常に戻っていって……自分はあの光景は見間違えじゃなかったのかと思ったんだ。
*
「でも、ある日──」
まずは母様が父様のように変になり始めてしまった。
自分はどこか──そのことが急に怖くなって、そしてある日……父様に執務室に呼ばれて──。
「あの黒い何かを体内に入れられたんだと思う……」
そこからの俺の意識は変になっていた。
俺から離れて行ったシュンが酷い裏切りをしたように思い……恨んでしまい──そしてギルドに対しても同じように軍に反発する者に対して猜疑心を搔き立てられていったんだ。
世界の全てが間違っているように──そして狂っているように感じてしまい壊したくなってくるんだ。
まるで、自分が自分では無くなるように……。
「心の中にあの存在は巣食っていたのだと思う」
あれは──そうだ。
精霊みたいに心を……魂を守るものとは正反対の存在。
あれは──在ってはならない存在……なのだと思う。
「溶け込んで混ざってしまったら──もう手遅れなのだと思う」
俺もシュンが助けに来てくれるまでは──既に俺の意識は深いとこに繋がれていたのだと思う。
「そして多分──レイ……こいつも同じだ」
「いや、俺なんかより……もっと酷いものだろう──」
「すまなかった──本当にすまない」
自分へと抱き着いて来ていたレイへとバルは深々と頭を下げていた。
そんなバルを見つつレイは「────同じだから」と一言呟いて、横に首を振っていた。
「────あれは逆らえないもの」
「──だから、大丈夫」
言葉が足らなかったと思ったのかレイはバルへと声を続けて掛けていた。
「そっか──ありがとう」
そしてレイの言葉を聞いたバルはどこか安心したように顔の緊張を解いていっていた。
*
「だが──そうなるとバルの話が確かだとすると……ハンネスはもうダメなのか?」
ムシュタルさんが無意識の内なのだろう──そう呟いていた。
「いや、バル……お前の読みは正しい。その件は私も覚えている──確かに大型人型モンスターが最初に現れた時にハンネスは進んで防衛として軍を率いて対処に当たってくれていた」
そうバルへと視線を向けて言葉を紡いだ後はムシュタルさんは考え込むように黙ってしまった。
「ふむ──そうなるとハンネスは既に心が汚染されとると見て良さそうなのかの?」
「いえ──多分ですが違うと思います」
ドルマンさんがムシュタルさんに継いで話を続けたが、そのドルマンさんの予想にバルは否定を入れていた。
「ほぅ──述べてみよ」
ドルマンさんの目が猛禽類のように細くなりバルを捉えながら話を聞く姿勢になっていた。
「父様は多分ですが意識があります──むしろ、この黒い存在をコントロール下に置いていると思っても良いかも知れない。ではないと説明が付かない事が多すぎるんです」
バルは自分が見聞きしてきた中のハンネスの一幕を語る。
次第に落ち着きを取り戻していく過程。
自分の意識が薄い中で父様が──ハンネスが賭博エリアを行き来するようになり……それに合わせて変な怪しい者たちが垣間見えるようになっていた事。
そして、自分の手と足のように黒い存在──魔法を行使していた事。
「あれは──父様のあの姿は黒い存在……力を取り込んで更に制御下に置いて自身の何かを遂げようとしてる姿だと俺は思います」
そして、バルの話は終わる。
*
「──ドルマンよ。今すぐ軍とギルドで部隊を編成して賭博エリアに向かうべきだと私は思うが」
「あぁ、そうじゃな。それは私も思っていた所だ」
ガイウスさんがドルマンさんへと話し掛けている中。
「シュン──それにシエルくん達も含めてゆっくり後は休んでおくがいい」
ドルマンさんが頷くのと同じタイミングで、ムシュタルさんが自分たちにゆっくり休むように言ったところで──バルが一歩前へと歩み出してくる。
「差し出がましい事だとは思いますが──俺を……いや私も同行させてください」
「む?」
バルが一歩前へと出て、賭博エリアへと向かいたい旨を伝えるとドルマンさんの顔が怪訝な顔になる。
「父様の事を知りたい──そして私自身の落とし前をつけたいのです」
「いや──だがの……」
「────」
『ん?』
ドルマンさんが渋ってるところで、自分の裾を掴んでレイが自分を見て来ていた。
(……私も行きたいか)
何となく薄っすらとレイの感情が伝わってくる。
ナビ程では無いけれども魂の繋がり故だろうか。
「シエル様──」
自分の思案顔を見てナビが声を掛けてくる。
(「私たちも行った方が良いかも知れません。この力は普通ではありません──それに……」)
ナビの皆を守りたいという気持ちも伝わってくる。
(選択──しないとだな)
ふと、シュンを助ける事から選択が始まっていたように思える。
そして今現時点での自分の気持ちを確かめてみる。
その上で自分は判断する──。
『その話ですが自分も同行させて頂ければと──』
「なっ! シエルよ──危険なのだぞ?」
自分の発言に心配そうに驚きながらもガイウスさんが反応する。
『それでも──と判断しました。きっと……自分の力が必要になると思います』
「うーむ──」
ガイウスさんが考え込み始めると。
「俺も行くぞ」
「「私たちも──」」
シュン、マリとリンも同行したいと告げるとまずはムシュタルさんが諦めたように息を吐いていた。
「こうなると思ったから先に先手を打って休むように話したのだが──失敗だったな」
諦めたようにムシュタルさんが言うと
「いや、だがシエル達だけでは先が不安だろう──誰か……」
ガイウスさんが呟いた時だった。
*
「おい──ドルマンのじじい! 終わらせてきたぞ──!」
シュルっと頭上から巧みに風魔法を使い青年が自分たちの頭上から降って来ていた。
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