『学内対抗戦㉝』
レイの選択──。
「ぁ──ぁぁ……」
目の前にへたり込んでしまい──注射を向けて歩み寄って来る男から後ずさっているレイが視界に映る。
「おら! ──もう逃げ場なんて無いんだよ!! 諦めろ……」
そして、男の注射針がレイへと──。
『──させない!』
へたり込んでいるレイの下へと一気に駆けつけて──男の手を自身の手で一閃させて薙ぎ払う。
「ぁあ? ──なんだてめぇ……どこから現れ──」
『黙っててくれないか──』
そのまま大きく弾かれて手を上げ切っている男へと足蹴にする。
「なっ──てめぇ……」
そのまま、男は蹴り飛ばされた勢いで強く壁にぶち当たって──そして崩れ落ちると同時にその姿が光の粒子になって消えて行く。
*
「お兄さんは誰──?」
目の前には憔悴しきった、全てに絶望したように彩られた表情のレイが──小さな女の子が居た。
「私に何をしに来たの──?」
『……君を──レイを助けに来たんだよ』
「っ──! 嘘だ……」
絶望に染まり切った表情のレイは更にその顔を歪ませて自分を見返してくる。
「ぁ──この子は……」
「────!」
自分を見てくる目線が少しズレて肩の部分を見たのだろう──その目は肩に居たレイの守護精霊へと向けられていた。
守護精霊はレイと視線が合うや──大きく頷いて、レイの頭上へ向かい、その周囲を大きく一周した後に小さなレイへと頭上から溶け込んでいった。
『これは……』
溶け込まれた後に小さなレイに変化があり、その姿は眩い光を伴って変化していく──そして、眩い光が落ち着いた時には”半透明”の実体を持たない現在の成長したレイの姿を現していた。
*
「──あなたは……」
『! ──覚えているのかい?』
コクコクと目の前のレイは頷いており──そして驚いた目を自分へ向けていた。
「ここはどこ──? 私はどうなっているの?」
『ここは──君の心の中だよ。 レイ、君は今は──』
そう説明しようとしたら──レイが大きく首を横に振って来る。
「思い出して来た──私、消えちゃうんだね」
『っ──! そんなことはさせない……』
悲しそうに首を横に振るだけのレイがそこに居た。
『レイ──この手を取ってくれ……そしたら、きっと何とかする』
「ううん、もう良いの──疲れちゃった。 パパもママも──もう居ない。 それに私にはもう隷属魔法でずっと戦い続けるお人形だもの」
レイの表情はまた絶望へと転じていく──。
『違う! ──そんなことはない! 君は僕に助けを求めたじゃないか……! あの心は救いを求めていた!』
「──! だって……思い出しちゃったから! もう誰も居ないの!! この世界にはパパとママも誰も──もう居ない! 私は一人ぼっちなの!! もう疲れちゃったの──!」
『っ──! そんなことはない!』
「────ぁ」
イヤイヤをするレイをそっと──抱き寄せる。
そして心の暖かさを分け与えるように言葉を紡ぐ。
「でも──私はもう1人で……」
『なら、少なからず僕が傍に居る』
「でも──あなたもいつかは消えてしまう……」
『僕は消えないよ』
イヤイヤを1つ1つ消していくように──抱き寄せたレイと目を合わせながらレイの言葉に返していく。
「──あなたの名前は?」
『僕はシエルと言うんだ』
「シエル──シエル──」
『そうだよ、シエルだよ』
「シエル──ずっと一緒に居る? 信じてよいの……?」
『うん、信じて大丈夫──ずっと一緒に居るよ』
安心させるように頷くと、既にイヤイヤをしないでジッと自分を見てくるレイがそこに居た。
「うん──お願い」
『──任された』
「お願い──私を助けて!」
『この手を握って──!』
今にも消えてしまいそうな半透明のレイを抱きつつ、空いている手をそっと──レイに差し伸べて、その手をレイは手に取って握り返してくる。
*
『────!』
自分と繋いだ手を経由して、レイを意識の底から自分と一緒に現実世界へと帰還しようとするのだが──上手くいかない。
(いや、レイの存在を否定されている──なぜ!?)
その瞬間だった、レイの心象世界を崩すように頭上にピシリと亀裂が入りそこから崩壊していく過程で白銀の奔流が流れ込んでくる──と同時に無数の精霊たちも流れ込んで来て、精霊たちに空間は溢れかえるのだった。
coming soon




