『学内対抗戦㉜』
これはレイの記憶──。
『────っ!』
「────」
『ごめん、大丈夫──』
急な自分の頭痛に傍らに居たレイの守護精霊が心配そうにこちらを見るが、心配させないように大丈夫と伝える。
下へと進んでいく過程で──。
(これはレイの記憶……?)
レイの記憶だと思われるものが脳内に流れてくるのだった。
*
「パパ──ママ──どこ──? 暗い──怖い」
(これはあれかリンの言っていた小さい頃の行方不明の頃の記憶か?)
「おい! 狙いはあの夫婦だけだろ?」
「タイミングがあの時しか無かったんだ仕方ないだろ?」
「それに高く売れるかも知れないしな! ハハハ!!」
甲高い声と、嫌に耳に残る声が聞こえてくる。
──そこで記憶がまた飛んでいく。
「パパ! ママ!」
「大丈夫だ! きっとギルドが気付いて捜索してくれているはずだ!」
「大丈夫よ──だいじょ──ガハッ」
「ママ!!」
今度はどこかの地下? 独房? ──そこに囚われているレイと両親がレイの視点で映っていた。
「おい! 女を殴るのは止めろ! ──産めなくなったら使いものにならないだろ?」
「あぁ──悪い、教育しないとと思ってな」
「アハハ! アハ!」
狂ったようにただ笑ってる男と下卑た卑しい男たちが居た。
「産む? お前たちは何を言って──」
「うるせぇなぁ──とりあえず、刺されてろ」
「な、何を言って──グッ」
「あなた?! ──な、なにを──やめっ──」
そして、怪しい注射を父の後に母にも打たれていた。
──暫くすると。
「アヒ?」
「アヒャ?」
理性を失ったかのような両親の姿がそこに映っていた。
「パパ──? ママ──?」
「後は適当に身包み剥いでおけ! ──後は勝手にヤルだろ」
「へいへい──」
「一発やったらダメっすかね?」
「バカ野郎! 聞いてなかったのか? こいつらはそれなりに優秀な遺伝子持ってるんだよ!」
「上からは産ませて市場に流せと言われたろうが──ったく、勝手すると俺たちが殺さるぞ?」
「そりゃ勘弁だな──ハハハ!」
──そこからは見れたような光景では無かった両親たちの生々(なまなま)しい光景が、音が嫌でも耳に届いて来て……そして、また記憶が飛んで行った。
「大丈夫よ──レイ」
「あぁ──あ──ぁ」
すっかり最初の頃の姿とは変わり果てた両親が視界に映っていた。
母親はもう既に瘦せこけており、何とか理性が瞳に映っていたが……。
父親の方は既にうめき声? 言葉にならない声を上げており、目の周りは大きな窪みが出来ていた。
──ガチャリとその時に独房? の鍵が外される音とまた別の知らない男たちが入って来ていた。
「あぁ……これは確かに使いものにならないな」
「潮時だな──こっちの子は良く成長してきてるじゃないか」
「や──めて──カハッ」
「うるせなぇな──発言の許可なんかしてないんだよゴミが」
「そういうな最後に利用価値があるのだから──そこら辺にしておけ」
「それにこの娘はボスが息子に利用させると言ってただろう? 素養も今まで産ませた子の中でも一番じゃないか」
蹴られた母親は既にもうボロボロの状態で呼吸をするので精一杯な様子だった。
父親は未だに目の焦点が合っていない。
そして、男たちの言葉に反応するようにレイの記憶が流れ込んでくる──今まで何度も孕ませては産ませて、そしてどこかへと連れられていく赤ん坊の記憶が……。
その瞬間だろう、レイが吐いたようだった。
「きたねぇ──」
「なんだ、こいつ──」
「このガキがっ──!」
「おい! 傷つけるな! そう言われてるだろ?」
「ったく──そうだったな」
吐いて涙も溢れていたのだろう──濁った視界の中、男たちの言い合いが見えていた。
「おい! 早くしろ──! お客様がお待ちだぞ! もうベットする時間も終わって金の回収は終わってるぞ!」
その時だった──開け放たれた独房のドアから急いで男が入って来て急かすように声を男たちに掛けていた。
「あぁ──わりぃわりぃ」
「落ちぶれた夫婦の殺し合いか──楽しそうだな!」
「あぁ──本日の賭け試合、コロシアムきってのメインディッシュだな」
そして、注射を用意する男たちと──とある魔法紋の書かれた紙を用意していた。
「アァ──ァ──ぁ? ……!」
先程まで目の焦点が合っていなかった父親が段々と光をその瞳に戻して来て──その用紙の魔法紋を見た瞬間に恐怖の表情を浮かべていた。
「な、なにを──する──つもりだ……」
「お? 意識が戻るなんて珍しいな」
「ははは! 最後に夫婦同士──殺しあう前に語り合えばいいさ」
父親の意識の覚醒に一瞬驚いた表情を見せるも男の手は狂う事なく準備をしているようだった。
「それは──”契約隷属”の紋……お前たちはやはり──闇市場の人間か……! そうなるとここは賭博エリ──グハッ」
「うるせなぁ──もう死ぬんだから黙れ」
「そこの娘に聞かれてても困るだろ──空気読めよな」
「ほら──もう忘れろ」
「ハァハァ──やめ……」
その後は父親の様子は静かになってしまった。
「あなた!! あなた! ──!」
「あぁ! いいねぇ! その顔! ──反抗的な顔はそそるわ!」
「ま、もう見納めだけれどもな──はいよっと」
同じく注射を刺された母親も静かになる。
「アハハハ!!」
そのタイミングで父親が可笑しな笑い声を上げ始める。
「おいっ! 早く隷属契約しちまえ──戦わせるように指示を出すんだ」
「意識はどうします?」
「そりゃショーは盛り上がるのが一番だろ! 最大の愛情を思い出させて戦い合わせるんだよ!」
「ハハハ! 楽しみだ! 俺は女に賭けてるんだぜ!」
「は? 俺はこいつだわ!」
男たちは笑い声を上げながら──そして母親も狂ったように笑い始めて、そんな母親にも契約魔法を発現させていた。
「パパ──ママ──」
「おいっ! とりあえず、お客様がお待ちだ! 早く連れていけ!」
「はいよ──おら! 行くぞ! 念願の外で晴れ舞台だぞゴミども!」
狂った両親を抱えながら男たちは──先程の注射を刺していた男を残して出ていく。
「ぁ──」
「あ? なんだ、その顔は? ガキは嫌いなんだよな俺」
「ま、いいか。──とりあえず、隷属契約掛けろと云われてるからな、確実に効くように」
「まずは打たないとなぁ──?」
そして、男は毎回両親たちが打たれていた──分からない薬品が入った注射を自分へと向けてこちらへ歩み寄ってくるのだった。
逃げようとするが、両親と同じく今は両親のは外された跡があるが──しっかりとレイの足首には枷が嵌まっていた
「助けて──たすけて……誰か──」
「誰も助けになんて来ないんだよ! 全く手間ばかりかかるなガキは……」
「誰か──お願い──たすけ……て」
*
記憶の終わりなのだろうか──。
それかここがレイの深層世界──そして心象世界なのだろう。
今まさに──その注射針がレイへと向けられている瞬間をレイの視界から、自分の視界へと切り替わっており。
自分はレイの心象世界へと降り立ったのだった。
coming soon




