『学内対抗戦㉙』
シュンとバルは本来は素敵な間柄だった
何かが欠け始めて崩れてしまっていただけ
だから、今こそ繋がった2人ならきっと──
≪side:シュン≫
「なぁ──バルあれは……?」
「今は深く考えなくていい──ここから抜け出せたら俺が改めて話す」
「わかった!」
「だから今は──俺に合わせろシュン!」
「あぁ!」
その瞬間に目の前の黒い人型の存在から──幾つもの黒い斬撃が飛んでくる。
「シュン、あの”怪物”の攻撃を弾けるか?」
「わかった!」
急に身体が軽くなる──バルの重力操作の影響か普段より相当軽やかに動き全ての斬撃を斬り弾いていく。
「合わせろ──シュン!」
「わかった! ──穿て!!」
バルが怪物へと重力の負荷を掛ける、それに行動を阻害された怪物へと一気に木剣に光を纏わせて閃光を怪物へと解き放つ。
「──!」
一気に怪物は防御へと動いて、自身の動きはバルの重力操作を受けて緩慢ながらも黒い糸を無数に目の前に展開して自分の攻撃を防いでいた。
「すまない! ──貫けなかった!」
「気にするな! ──次が来るぞシュン!」
相手のモーションは早かった。
防いだ黒い糸を束ねて腕のようにして、幾つもの黒い腕がこちらへと繰り出され──。
「ぼさっとするなよ!」
バルが目の前に来て幾つもの黒い腕の攻撃を木剣にて斬り結んで耐え凌ぐ。
(自分の出来る事を考えろ──!)
「そこだ──!」
バルが耐え凌いで──怪物の攻撃が止まったタイミングで一気に怪物に駆ける。
「そうだ──! シュンお前の得意な事を活かせ! サポートする!」
バルの声が後ろから聞こえてくる、光属性を用いての分身はこの世界でも機能するらしい。
バルの声に合わせて身体も軽くなり──移動速度は今までで感じた事のない速度になっているのを過ぎ去っていく風景からも実感する。
「──!」
自分の本体が分からないのだろう、怪物は幾つもの黒い斬撃と糸を使っては自分を補足しようと攻撃を展開する。
「──させないぞ!」
だが、後続から続くバルが重要な攻撃は闇属性を用いてバリアで受け止めたり、または重力操作で方向を逸らしてくれる。
「ありがとう!」
「はっ! ──礼なら終わった後にしろ! それに俺たち2人なら……乗り越えられないものはない!」
一瞬、意識を逸らしてしまったせいだろう──怪物の攻撃が目の前に迫って来ていたがバルが後続から追いついていたのか目の前に表れ、その攻撃を木剣で斬り弾いていた。
「行け! ──難しいことを考えるな! それは俺が何とかする!」
「お前は真っすぐなのが強くて──そして最高なんだ! 行け! 細かいことは俺に任せろ!」
「あぁ! バルありがとう! ──行くぞ!」
どんどん怪物との距離が近くなってくる度に──その攻撃の頻度も激的に増していく。
だが、今は何も考えずどんどん分身を維持しつつ……そして目の前の攻撃を処理し、怪物へと接敵していく──。
そして──。
「シュン! 行け! ──うぉぉぉぉお!!」
「はぁぁぁぁあ!」
バルの声が聞こえてくると同時に相手の攻撃が一切合切遅くなる──バルがきっと全てを抑え込もうとイメージして重力操作の闇属性を発現したのだろう。
その時自分は木剣を腰だめに据えており──木剣の這い纏う光は最高潮に達していた。
「ここだ──!」
そして人型の怪物の──通常の人なら心臓に当たる部分をなぞるように木剣を左下から右上へと一閃させる。
「────!!」
声は出せないのだろう──だが、確かに口を大きく開けて、悶え苦しむように天を仰ぎ見て。
目に口、または光が内側から漏れ出すのを抑えられない至る箇所から──沢山の光の柱が怪物の身体から突出していき、最後は粉々になるように砕け散るのだった。
*
「ははっ──やるじゃないかシュン。流石俺の大切な──とも、だ……ち」
「バル!?」
「ははっ──なんだよ、その顔は……ってさっきも言ったような気がするな。大丈夫……少し疲れただけ──」
「バル!」
そのまま、バルは意識を手放すように目も閉じられて行くが──でも、息も心臓の鼓動もしているのも動いているのも分かり安心する。
(なっ──!)
それに合わせてだろうか、心象世界に綻びが生じ始めて世界が崩れ始める。
「ナビさん! ──ナビ!!」
バルを抱きしめながら空間へと叫ぶ。
「ナビ!」
「すみません! ──今! 引き上げます! バルさんは居ますか!?」
「っ──! 居る! ここに一緒に居る!」
「抱き留めていてください! 一緒に引き上げつつ、保護致します!」
ナビさんの言葉を最後に崩れ去る世界に白銀の奔流が自分の周囲に展開されていく──。
「っ──!」
それが自分を覆うように展開されていき覆われた瞬間には眩しい光が自分を包み込み──眩しすぎる光に耐え切れなくなり目を閉じる。
その瞬間、今度は意識が収束されるような感覚が身体に襲い掛かり──その感覚が無くなり目を開けると現実の世界……試合会場に自分は戻って来ていた。
*
「ぐあっ──!」
急に腹部に痛みを感じる──視線を向けてみたらバルの木剣が見事に自分の腹部へと突き刺さっていた。
「動かないでください──お疲れ様です。今……何とか致します!」
「応急処置に過ぎませんが……」
ナビさんはそう言いつつ、まずはゆっくりと意識を消失しているバルを丁寧に横に寝かせて──自分に手を触れる。
「少し痛いかもですが──我慢してください」
「その……男の子ですから──!」
(何かのジョークなのだろう、少し微笑みながらナビさんが言っていたが自分にはその冗談は分からなかった)
「っ──!」
身体がナビさんの魔法だろうかポカポカしている中、そっと丁寧にバルの木剣が腹部から抜かれる。
血が一気に出ると思ったが、何故か白銀の薄い皮膜が覆われており、何事も無かった。
「これで大丈夫──後はシュン様の自己治癒力を最大にしてありますから、それに賭けましょう」
「ありがとう、ナビさん」
自分の言葉に優しく微笑みながらナビさんが頷く、そのままバルの方へと行き──自分と同じように触れては何かを処置していた。
「バルさんの方も魔力の供給と、魂の保護は──大丈夫そうです」
ふと、ナビさんのバルへと触れてる部分を見てみたらファンタジーチックな蝙蝠の守護精霊が居て何か頷いているようだった。
そして、そのまま──深く頭を下げているように見えるのは気のせいだろうか。
感謝をナビさんに告げるようにしながら、バルの守護精霊は霞のようにバルの中に消えていくように居なくなっていた。
「シュン様──安静にしていてくださいね?」
「あぁ──わかった」
「後はバルさんの事、宜しくお願い致します。峠は越えているので大丈夫だと思います」
ナビさんの言葉に頷く──それを見てナビさんの視線は、シエルの方へと転じていた。
「では──! 私はシエル様の下へと行きます!」
言葉1つ残してナビさんは颯爽と立ち上がって振り返りつつシエルの下へと駆けていくのだった。
coming soon




