『学内対抗戦㉘』
遂にバルの心象世界へと
心は当人の思い出を反映させている
それは大切な記憶も苦い記憶も等しく
≪side:シュン≫
「ぅ──ここは……?」
強い光が閉じた瞳から感じなくなり瞼を上げる。
そこに映し出された風景はどこか懐かしくも感じて──。
(いや、ここは──バルの邸宅の庭園? いや、それにしてもこの光景は──)
「自分の幼少の頃の記憶の頃の風景なのか?」
そうだ──これは小さかった頃、まだバルと交流があった頃の──。
「お兄さんは誰?」
「えっ──?」
ふと、声を掛けられ振り返るもそこには誰も居なく──いや、下に目線を向けたら……。
(幼った頃のバルなのか?)
まだ小さい頃の自分が覚えてる姿のバルがそこに居たのだった。
*
「お兄さんはどこから来たの?」
「えっと──遠くかな?」
「へぇ──ここは僕以外誰も居ないんだ」
「そうなんだね……」
幼いバルは寂しそうに呟いていた。
それに対して自分は上手い返しも出てこなく、相槌を打つことしか出来ないでいた。
「けど──大丈夫」
「ん?」
「シュンっていうやつが居て──きっとどこかに居るんだ!」
「えっ?」
ズキッ──と心が痛むのを急激に感じつつ、自分は幼いバルに聞き返していた。
「凄い大切な──友達なんだ」
「そうなんだね……」
「けど、最近僕から離れてる気がするんだ……なんでかな」
「…………」
幼いバルに応えられる言葉も見つからず、自分は黙り込む事しか出来なかった。
(心当たりはある──バルの様子が変わっていってるのが怖くて俺は──逃げて……)
*
「ぁ──ぁぁ……」
「!? ──どうした? 大丈夫か?」
暫く、その後も幼いバルと話していたのだが──不意に幼いバルが震えだしてうわ言を呟き始める。
「お父様……、お父様……──やだ、怖い。 ぁ──ぁぁ……!」
「おい! ──おい! バル!!」
尋常じゃない震えが起こり始めている幼いバルの様子に危機感を覚えて、自分はバルの肩を押さえる。
「シュン──怖いんだ、お父様の様子が変なんだ──僕が、僕が消えて……しまう」
「シュン──? シュン? シュン? ──どこに居るんだい? なぁ……僕たちは友達だろう?」
目の焦点が合わないシュンはそのままうわ言を吐きながら、腕を何もない空中へ上げて何かを求めるように──または”誰かを探すように”手をさ迷わせていた。
「っ────!!」
「バル! ──バル! ここに居る! 俺はシュンはここに居る!!」
幼いバルの様子に耐え切れなくなった俺は必死に幼いバルを抱きとめて──そして幼いバルへと想いの丈をぶつける。
「────! ……シュ──ン?」
「バル──!?」
「あれ──おかしいなシュン……なのか? なんだか大きくなったような──うっ……」
自分の想いに反応するようにバルの瞳に光が灯されていく──そして、焦点が自分に向いた時に話が出来たと思ったら、また幼いバルは苦しみ初めて──。
「うっ──シュン。 シュンは僕を……いや、俺を裏切ったんだ」
「シュンはもう来ないんだ──俺は1人なんだ……」
「俺は──俺は……ぁぁ──ぁぁ──」
「消えたくな──たす……け……シュ──ン」
「────!!」
また急速にバルの瞳から光が消えようとしていた。
そんな光景を見て、俺は──ナビさんの言葉を思い出していた。
(自分の光属性の力を最大限に行使して──そしてバルを黒い存在から……解き放つ!!)
「バル──ごめん、俺はあの時怖くて逃げてしまって……けど、決めたんだ。もう逃げないって──」
「だから、今俺はバル──お前を助ける! 俺の持てる全部を使ってお前を──救うんだ!!」
「はぁぁぁぁあ──!!」
自分の光属性をバルへと這わせる──そして、バルから”悪い存在”を引き剥がすイメージを強く想像する。
「バル──! 戻ってこい! 俺はもう……お前から逃げない! ずっと一緒だ!!」
自分の持てる全てを魔法の発現に注ぎ込む──そして、それに合わせてバルの瞳に力が戻り……バルの全体に光が包み込み始める。
*
「シュン──なのか?」
「バ──ル?」
「なんだ、お前──情けない顔して……あれ、俺は一体何を……」
「バル!」
「っおい! ちょ、ちょっと離れろって、そういうのは……もう俺たち良い年齢だろ?! ──ん? 年齢?」
「バル──?」
包まれた光が消失して、その中から現れたのは今の年相応のバルだった。
そして、その意識も古い自分の記憶にある──どこか不遜な態度も少しだけ残ってるようなバルが居て……。
年齢の話題になった際にバルは考える様な──思案するように黙り込んでしまった。
「そっか──俺は……」
「バル?」
「いや、思いのほか俺は覚えているらしい──そして、シュンありがとう」
「えっ?」
「気持ち届いたよ──お前の気持ちが俺を包み込んで、そして俺はお前の手を取ったんだ」
「バル──?」
「はっ! 腑抜けた顔をするなって──全く、そこら辺は変わらないんだな」
「意識も記憶も戻って──いや、覚えてるのか?」
「生憎と覚えてるらしい──だから、俺がお前に悪い事をしたこと、そしてお前が俺を救ってくれた事……それでお相子にしよう──いいよな?」
「うん、わかった」
「それに今は──!」
「えっ?」
急にバルが自分の背後に回り剣を一閃させる。
そこには自分を狙って黒い斬撃を放って来ていた、黒い人型の”何かが”居た。
「シュン──怪我は無いか?」
「あ──あぁ」
「どうやら──あれが俺を縛る……父様の呪いらしいな」
「えっ?」
どこか苦いような──苦しい顔をしたバルがそこに居た。
「シュン──力を貸してくれるか?」
「うん──当たり前だよ! もう逃げない──だからここに居る!」
「ははっ──お前は相変わらず真っすぐだな……ま、そういう所が好きなんだけれどもな」
「えっ?」
「余所見をするな! ──なめて掛かると狩られるぞ!」
「わ、わかった!」
そして、姿も意識も取り戻したバルと俺は──正体不明の”黒い存在”へと戦闘に突入するのだった。
coming soon




