『学内対抗戦㉓』
学内対抗戦は3日目にストーリーは少しずつ動き始める。
「すみません──! 控室はこちらになります!」
「シエル様達のチームが会場に入りました──!」
どうやら随分とギリギリだったようだ。
慌ただしくも運営スタッフさん達が控室の場所を案内してくれる。
(そっか……準決勝と決勝しか残ってないものな)
控室に向かいながらも会場のザワザワした音が聞こえてくる。
「凄い音が聞こえますね……」
「今回の学内対抗戦、集客数は歴代でも最高みたいですよ?」
ナビがそっと上の会場席の方を意識したのだろう、見上げながら呟いた声にマリが答えていた。
「シエル──」
『ん?どうした、シュン?』
「ハンネス大将は本日は”用事”が入り欠席みたいだ」
『それはおかしいな──』
シュンに受け答えしながら、ガイウスさんとのメッセージのやり取りを見返す──。
(ハンネス大将の予定等は特に書かれてない……)
「おじいちゃんは今日は来るって私の方には連絡来てるよ?」
「俺の方もだ──ハンネス大将については父様も詳細は分からないみたいだ」
『そっか──』
シュン達の方も各々確認や、やり取りをしてる中──。
(ん──ガイウスさんから返事が返ってきた)
『ガイウスさんの方も本日は来てるみたいだけれども、ハンネス大将の件は分からないみたい』
「父様も信頼の置ける直属の部下に動向の確認を指示するみたいだ」
「とりあえず、控室に行きましょう」
話ながら向かってはいたけれども、足取りは遅くなっていたみたいだ。
マリの声に皆で頷きつつ、控室に足取りを戻しつつ向かうことにする。
*
「次の相手は──えーと、一撃必殺? 何これ?」
リンが次の相手の戦略を動画で調べていたのだろう、該当の動画を見つけては疑問の声を上げていた。
「ん? どんな感じなんだ?」
「えーと──こんな感じかな?」
リンからの該当動画のリンクが送られて来て、可視化させて確認する。
(これは──木剣に味方の魔力を全て注ぎ込んでるのか?)
動画上ではその木剣をそのまま振りかぶって斬撃という名の”衝撃波”を放ってる姿が映っていた。
──相手チームは一撃で屠られているようだった。
「えっと、私この人見たことがあるかも……」
「俺は分からないな──少なくとも軍の人間ではないと思う」
「私もギルドでは分からないなー……マリ? どこで見たことあるの?」
「えっと──」
少しだけ前置きを置いてマリが話したのは、中央の催し物がある際にチラッと見たことがあるかも? との事だった。
『中央か──それは一般人でも参加出来るものだったの?』
「ううん、参加出来ない訳じゃないけれども──その富裕層の中でもトップクラスの権力者の方なら……」
「あぁー……」
シュンはマリの答えにどこか納得のいったような感じで頷きつつ──。
「要はボンボンの所の人ってこと?」
「言葉はアレだけれども、そういうことかな」
リンの要点を捉えた発言に苦笑をしつつも、マリはその答えに同意を示すのだった。
「その情報を元に見ると──この木剣の質の高さも分かります」
ナビは静かに会話に耳を傾けていたのか、頷きつつ動画を見て検証していたのだろう感想を零す。
*
「んー? 何かナビちゃん分かったの?」
「えっと──は、はい」
まだ、朝の寝坊の件が引きずっているのか──少々申し訳なさそうな雰囲気を出しつつナビが先程の動画を見ての感想を続ける。
「使われている木剣なのですが、該当する方の動画を幾つか見まして──」
ナビの説明は以下の感じだった。
・各属性の木剣がある
・木剣毎に最大魔力許容量が大きい設定になっている
・各属性毎に属性間の魔力を増大させるような感じで魔力紋が並列して刻まれている
との事だった。
「重ねての魔力紋は私とシエル様──ブリッケン様の作品に該当するかと思いますが、こちらの方の並列して刻まれている魔力紋の木剣の数々は──現状以前買い物に行った際に見えた、持てうる技術を全て注いでる至高の1品毎を取り扱ってると思います」
「それは──」
「また凄いお金というか技術も注いでいますね……」
ナビの言葉に、シュンが続いてマリが感想を述べていた。
「──お金の力は偉大なんだね」
最後にリンがまとめたり……という、したり顔をしつつ言ったが──確かに見た感じそうなのだろう。
けれども──。
『木剣の品質や技術力だけじゃない──それに注ぐ人や取り扱う者の技量もあるようには見えるよ』
「そうですね、シエル様の言う通りだと思います。ギリギリまで注いで魔力が木剣の最大許容量までの見極め──そして適切に木剣を使用して相手を沈めています」
「一筋縄じゃ行かないってことか」
自分が感じた部分を述べて、それをナビが解説してくれた。
それを聞いてシュンは頷きつつ、次の試合に向けての感想を述べるのだった。
「とりあえずはいつも通り警戒をしてという事になりそうですね」
「うん、この試合に勝てたらやっとバルとリンちゃんに──」
マリが表情を引き締めつつ言いつつ、リンはどこか気負い過ぎそうな顔になりつつ──。
「リン様──」
「あっ、ありがとう──ナビちゃん」
気負い過ぎそうな顔になる前にいつの間に近寄ったのかナビがそっとリンの背中を撫でていた。
その様子を見つつ皆へと視線を転じると──皆同じタイミングだったのか視線が合い、次の試合へ向けて意志を固めるのだった。
「すみません、そろそろ準備をお願い致しますー!」
皆で意志を固めて少ししたらドア越しに運営スタッフさんの声が聞こえて来た。
『じゃぁ──行こうか』
「あぁ」
「はい」
「うん」
自分の掛け声にシュン、マリ、リンが応えつつ──ナビは頷きつつ自分の傍らへとやって来る。
そして、バルとリンへと会うための──まずは前哨戦の準決勝へと試合会場に向かうのだった。
coming soon




