『学内対抗戦㉒』
寝過ごす事はあるもの
いつかは同時にというのもあるでしょう
タイミングがよかったかは──別の話なのでしょう
「おーい! シエルー!」
「「ナビちゃーん?」」
(うー……ん──? 声が聞こえてくるような)
「んー?」
「反応がありませんね……」
(リンとマリの声……?)
「部屋の鍵は──開かないな……」
(シュン……? 鍵……? ん──)
意識を少しずつ浮上させる──。
背中に暖かさを感じると思ったら、ナビが抱きついているようだ。
(ナビは暖かいなぁ……いや、待て──)
少しずつ意識の覚醒と共に現実が見えてくる。
『ナビ──ナビ──』
「うー……ん──ん……シエルしゃま?」
寝返りをしつつ、ナビと向き合いナビを揺すりながら起こすのだが──ナビの表情は完全に緩んでおり、意識の覚醒に関しても程遠い感じになってる様だった。
(まずいな……まずいぞ──)
最近ナビの寝坊助さんになっているのは分かっていたけれども、自分も多分──ナビに抱き着かれていて心地良かったのだろう、思いっ切り夢の世界へと舵を漕いでいたみたいだった。
「おーい! シエルくんー?」
コンコンとノックの音と共にリンの声が聞こえる。
『す、すまない! 少し──えっと、少しだけ待ってて!』
回らない頭では適切な回答は出てこないんだな……、と自分の中で何故か解答を得ながらリンの言葉に返す。
「んー? シエルくん……?」
リンの怪しさを籠ったような、疑念の声がドア越しに聞こえてくるが──今はとりあえず、仕度をするのに全力を向け始めるのだった。
*
『ナビ……! ナ──』
「は……い──?」
布団を剥ぎつつ、ナビを起こそうとしたのだが、布団の中のナビはあられもない姿──着衣が乱れており、咄嗟に布団を戻す。
(危ない──どんなトラップだ?!)
と、とりあえず──まずは自分の身支度からすることにする。
ある程度自分の身支度が終わり始めると”モゾモゾ”と布団からナビが出てくる。
「え、えっと──シエル様……」
『大丈夫、何も言わなくていい──うん、自分も寝過ごしてたみたいだ』
「す、すみません……。最近その──えっと、何というのでしょう”夢見が良い”というのでしょうか。精霊が夢と云うのも変だとは思うのですが──凄く心地良くて……」
「シエル様──ごめんなさい。少しだけ後ろを向いていて貰えたら……」
『あ、あぁ──』
布団から出てきてナビは自分に近寄りずつ挨拶をして、そのままクローゼットの方まで──自分が後ろを向いたら”サラサラ”と着替える音が……。
(なんで、こんなドキドキしてるんだ──待て待て)
「すみません、大丈夫です! お待たせ致しました」
『あ、うん──よし、じゃぁ……シュン達を待たせちゃってるから──』
振り向いたら、バッチリいつも通りだけれども──どこかいつも以上に”可愛く”見えるナビが居て。
そんなナビを見つつ、お互いに仕度が出来たのを確認し、シュン達を招き入れるのに部屋のドアを開けに行くのだった。
*
「もう、待ちましたよ!」
「で、シエル──どうしたんだ?」
マリは何か”女の勘”と云うのが働いてるのか、どこか問い詰めるような節が含まれたような反応で──シュンは純粋に疑問を抱いてる感じだ。
リンは──察しが良いのもあれなのだろうか、既にジト目で自分を見て来ていた。
『えっと、ごめん。普通にナビと共に寝過ごしてしまってたみたいで……』
「…………」
(おぅ──リンのジト目が怖い)
「はぁ──わかりました」
ため息を1つ吐いて、マリが場をとりなしてくれる。
「と、とりあえず。時間も余裕を持って行きたいから、今日は駅のホームで軽食を買って会場に向かわないか?」
「そうだねー」
『あ、あぁ……』
シュンがマリの後に継いで提案してくれて、リンも渋々といった感じてジト目を少しだけ柔らかくして反応を返してくれていた。
自分は──流石に立場も無く頷くに留めて、ナビはペコペコと頭を下げているのだった。
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