『学内対抗戦㉑』
そして、学内対抗戦の2日目も終わっていく──
「シエル──ありがとう」
『どういたしまして』
控室にてシュンに魔力を供給しつつ、シュンからお礼を述べられる。
「うぅん──気持ちいい」
「ナビちゃん、ありがとうございます」
「いえ! お任せください!」
リンとマリの方ではナビが魔力を供給しているようだった。
(2人同時か──手元で魔力回路を調整してるのかな? 器用なものだな)
そんなナビの様子を見ながら、ふと思いついた事があり試してみる──。
「ん?」
「「んー?」」
「シエル様……?」
『おぉ……上手くいったみたいだ』
自分とナビは元々”繋がって”いるので、その繋がりを強くしてみたのだ。
「えーっと、これはシュン君? マリ? ──皆の?」
察しが良いリンは流石に早めに的を得て来ていた。
『そうなるね、まぁ──感覚は交じり合ってる感じだけれども』
「不思議な感じですね……」
そう言って、マリは静かに皆の魔力を感じるように目を閉じる。
「これはナビも盲点でした──色々と可能性の幅が広がりそうですね」
「シエル、次やる時は事前に教えてくれ──なんか気恥ずかしい感じがしてしょうがない」
『悪い悪い……』そう言いつつ、決して止めてくれとは言わなかったので、そのまま皆へとナビと一緒に魔力を供給するのだった。
*
「いやー! 外は凄いねぇ!」
すっかり、元気になったリンが会場を出ての第一声がそれだった。
「確かに昨日より来場者数も多く感じますね」
リンに続き、マリも周囲を見ながら言葉を零す。
「それにしても、何やら見られてるような……? 気がします」
「まぁ、俺たちも今や少しずつ有名になってるからなぁ……。そもそも学内対抗戦っていうのは次世代のルーキーみたいな扱いもあるからな」
周囲を窺うナビにシュンが予想を述べる。
「そうだよねー。そっか……そうなると今日の晩御飯は学園寮にする?」
「えっ──」
リンが空気を読んでの発言に、いち早くナビが困惑の声を上げていた。
「えっと……?」
『あはは──ごめん。ナビはまだ食べたい出店候補が残ってるんだよ』
「──っ」
マリがナビの反応に疑問の声を上げたので、昨日のナビの考えを皆に伝えた。
そんな中、ナビは俯いたまま耳までピンク色に染めていたのだった。
*
「あそこのテーブル使っていいって!」
暫く食べる場所を探していたのだが、老夫婦が仲良く経営しているのか出店の一角のテーブルを貸してくれるようだった。
「いらっしゃい、その──よければなのだけれども、サイン貰ってもよいかい?」
席に落ち着きつつ、少ししたら老夫婦のおばあちゃんがナビにサインをお願いしていた。
「え……えっと、は、はい! ──こんな感じでも大丈夫でしょうか?」
おばあちゃんの渡した色紙にナビがサインをそれっぽくして、おばあちゃんは嬉しそうな顔をしながら受け取り、お店の一部に飾るのだった。
「ありがとうねぇ、私もナビちゃんのファンでねぇ。明日も頑張るんだよ──それにこうやって飾るとお客さんも沢山来てくれるんだよ」
ふふふ とおばあちゃんは笑いながら声を掛けてくれたが──商魂逞しい姿に少しだけ驚いてしまった自分が居た。
*
その後は皆でそれぞれ食べたいものを買ったりして、テーブルへと戻ってきた。
「凄いですねー……」
ナビの言葉にお店の状況を見ると、中々──人が混み始めていた。
「ナビちゃんのサイン効果かなー?」
「いえ、リン──今私たちが食べてるのも集客効果に繋がってると思うよ」
「だよなぁ」
リンの感想にマリとシュンが反応しつつ──ナビは時々振られる手に反応しては手を振り返していた。
(サービス精神が凄いな、ナビは──)
と横目に見つつ、自分も手を振られた気配を感じて、振り返してみると嬉しそうな声が聞こえ──と同時にナビ、リン、マリから冷たい視線が飛んでくるのだった。
(なぜ?!)
シュンに助けを求めて見てみると「それは仕方ないさ」という風な表情を浮かべて自分を見返してくるのだった。
*
「これで、食べたいものは全て食べ終えました──ありがとうございます」
ふぅ……と、声が聞こえてきそうな位、満足そうに食べ終えたナビが居た。
「そろそろ、学園寮に戻りましょうか」
「良い時間だしねー」
マリの提案にリンも同意しつつ、自分やシュン、ナビも特に予定もないので──そのまま老夫婦にテーブルを貸して貰えたお礼を述べて学園寮に戻る事にするのだった。
*
「なんだか、凄いことになってるな──」
それはシュンの言葉だったろうか。
学園寮の自室に戻りつつ、皆まだ話し足りない感じで、そのまま集まっていたのだが不意にシュンが呟いていた。
『ん?』
「いや、本日の学内対抗戦をまとめた動画だよ。物凄い勢いで再生数伸びてるぞ……」
シュンの言葉に自分も閲覧してみるのだが──。
「ぁ──ぁ──あぁ」
リンがショートしたように同じ言葉を繰り返している。
原因は見てみて分かった、自分に魔力を供給されて惚けている表情を浮かべて、頭を撫でられた際にはご満悦な表情をしているリンの動画も挙げられていた。
「え──えっと……」
ナビもだろう。
2回戦目の大胆に制服をはためかせて、時たま太もも白い透き通った肌を魅せながらも舞い斬っている様子が挙げられていた。
(どちらも凄い……尊死等々──中々ユニークな感想も、普通に可愛い! という書き込みも多いな)
合わせて、自分のやら皆をそれぞれピックアップした動画も挙げられているようだった。
(逆にバルとかレイのは少ない──そんなに挙げられていない?)
『他のチームのはどうして、こう少ないんだ?』
「見どころというか、魅せ場が少ないからじゃないか?」
「それにシエルくんとナビちゃんは話題性やストーリー性に事欠かないからかも」
『なるほど』
シュンとマリの意見に納得しつつ──ナビとリンを見てみるが2人とも恥ずかしいのか未だに少々ショート気味なのだった。
*
『とりあえず、今日はもうお風呂にでも行ってゆっくり寝ようか?』
「そうだな」
「そうですね」
シュンとマリが自分の提案に同意しつつ、マリは大変そうだったがリンとナビを何とか起動させつつ一緒に入浴施設へと行くのだった。
そして、各々自室に戻る際に明日への気持ちを確認し合い部屋に戻るのだった。
*
そして、ベッドに入り眠ろうとしていると──。
「シエル様……?」
『ん?』
「明日ですね」
『そうだな、明日だな』
「ナビ──いえ、私頑張りますから」
『ん──頼りにしている。いつもありがとう』
「いえ……ううん、こちらこそ──」
そう言いながら、手を指し伸ばしてくるナビの手を握る。
(ナビはどんどん人間っぽく? いや、感性が形成されてきている?)
自分自身も未だに旧世界だった頃の感性と、現在のシエルの年齢に伴う感性のズレを感じる時があるけれども。
ナビの場合は少しずつ少しずつ”自分らしさ”を形作っている感じがした。
(でも、今は──)
そっと、握り締めたナビの手の感触を肌に感じながら──明日へと気持ちを向かわせ、今は目を閉じるのだった。
coming soon




