『学内対抗戦⑰』
軍でもギルドでも人口の低下に伴い
早い段階での登用も特別に認可されている
なので──それに該当する人物はそれ相応の実力も伴っているのだ
「──シエル、ヤバいぞ。多分、優勝候補に挙げられていたチームだ」
『うん、分かってる』
シュンの視線を追って相手側を見る──。
(ちょっと、魔力量が今まで当たったところで一番大きいな……)
『ナビ。ごめん、マリとリンのサポートを頼む』
「はい!」
ナビは自分のお願いに応えながら、マリとリンの傍に行く。
『シュンは1人でも行けるか?』
「行けるかじゃなくて──行くしかないんだろう?」
少し不敵な笑みを浮かべながら言うシュンに自分は頷き返す。
(そうだな──行くしかないんだ)
「シエルくん、すみません。負担を掛けてしまうようで──」
「ナビちゃん、ごめんね! ──私もやれるだけ頑張ってみるから!」
「はい! 頑張りましょう!」
マリとリン、そしてナビの返事を聞きつつ相手を改めて見る。
(パッと見は……いや、全体的に纏まっていて強い感じか)
相手の方もこちらを見ていたのか視線が交錯する。
そして──少しだけ相手方の視線が合った人が軽い会釈をしてきたので、こちらも返して試合の準備へと移ることにする。
*
「それでは両チームの準備も終わったので戦闘を開始致します。ご健闘を祈ります! では、始め!」
審判が両チームの準備が出来たのを確認して戦闘の始まりの宣言をした。
(……攻めてこない? いや──)
すぐには動かなかった相手方だったが動きがあった。
自分の真向かいに先程の会釈してくれた相手が、シュンにも1人、マリとリン──ナビの方には3人。
「フェアに行こう。君たちの試合を見て、そう思った──宜しく頼むよ」
相手は上級生だろう、纏っている雰囲気も技量もピリピリと感じ取れる。
『こちらこそ──お手柔らかにお願い致します』
そう言いつつ、木剣を構える。
横を見てみたら、シュンの方は早速シュンから斬りかかって戦闘が始まっていた。
(頑張れよ──シュン)
目の前に視点を戻して──自分も戦闘を始めるだった。
*
「やるね! ──これなら!」
『──っ!』
相手の剣裁きはハッキリ言うと、今の所一番丁寧でそして──どこか”実践”向きだ。
(それ以上に──)
攻撃の合間に風魔法だろう、足元を取りに来たり──一瞬だけ風を当ててきて視界を塞いだり、細かい魔法の行使も合わせて連撃を放ってくる。
(段々、速度が上がって来てる──)
(もっと、神経も反射速度──思考速度を研ぎ澄ませないと……)
『ハッ! ここ──!』
「──っ!」
連撃どころじゃない、猛撃に近くなっていたが──1つ1つ相手の魔法を相殺、そして斬撃も凌いで
──生まれた隙に一撃を叩き込む。
「やるね! ここまで合わせられて更に反撃を食らったのは久しぶりだよ! 本当に学生かい──!」
隙を突いた一撃だったが、相手の手元には”もう一振り”の木剣が現れて防がれていた。
「本来はギルドとかでの実践向きのスタイルだけれども──すまない、本気で行かせて貰う!」
そう言って、先程とは比べ物にならない速度と練度の高い二振りでの攻撃が迫ってきた。
(ギルドの特待生か!)
──リンから聞いた時があった。
ギルドでも早くから、その実力上の面から活動を許可されている存在……エリートだ。
(だけれども──! それでも!)
相手の動きと二振りでの攻撃が一瞬重なる時を狙う──。
『負けるわけには──行かないんだ!』
一瞬──そう、一瞬だ。
刹那的に生まれる動きが重なって重心が集まる一点を”ありったけ”の力を木剣に注いで──凌いでいた中で一気に力を込めて振りぬいた。
「なっ──!」
『はぁぁあ──!』
そのまま、重心がズレた好機を逃さない。
──一気に畳みかけるように木剣を輪舞させるように連続で斬る、斬る、斬る!!
相手の手元から二振りの剣が落ち、膝から崩れ落ちるのを見て──周囲の状況を確認する。
*
(シュンは──流石だな)
シュンは木剣を支えにしつつも、何とか身体を起こして自分と視線が合って笑顔を返して来た。
(マリとリン──ナビは……)
えっと──どうなっているんだ?
「マリ様、リン様──今です!」
ナビが先陣にて相手を誘導、攪乱しているのだろう。
だが──光、闇、それに複合での氷か?
多数の属性を使用して3人からの猛攻を絡め取っている──そこへ、追撃でマリとリンの魔法が相手へと迫っている。
「どうなっているんだ──! くっ! 幻影か!」
「イメージが乱される──!」
「手が………手が──!」
幻影はシュンでも見せた光属性だろう、イメージは闇での思考の攪乱──最後のは手元を凍らせるまでには至ってないが……かじかんでるような節が見られた。
(ナビ──怖い子!)
そんな中、ナビは制服をひらめかせては──たまに太ももまで白い透き通った肌を魅せて、その美しさを纏わせながらも舞い踊るように木剣を振るっては魔法を行使して3人を継続して相手取っていた。
そして、そんな攻撃が続くのだ──相手は持つはずもなく、1人、また1人と沈んでいく。
そして──「これでお仕舞いです!」ナビのラストアタックにて相手が沈む。
(──うーむ、気のせいでなければ最後の相手、目の前のナビに”見惚れた”様な目というか表情を浮かべていたような………)
いや、気のせいだろう。
最後に攻撃をして相手を沈めたナビに、マリとリンが駆け寄って抱擁をし──そのまま自分とシュンへと手を振ったタイミングで──。
「──────終了になります! 勝者はシエル様のチームになります!」
審判の声が響き、そして試合を”やけに静か”に観戦していたであろう観客席から大歓声が沸き起こるのだった。
*
『シュン、歩けるか?』
「すまん、大丈夫だ──回復してきてはいる」
木剣を支えにしていたシュンだったが、何とか身体をしっかり起こして大丈夫とアピールする。
「おめでとう──」
声が背後から聞こえて振り返ると、自分と相対していた相手が居た。
「やっぱり、強いね──それに恐ろしいけれども、全くもって”底”が見えなかった」
どれくらい君は強いんだい? っと、話しかけてくる。
『常に全力ですよ』
「ははっ……それは参ったね──」
自分の答えに苦笑を浮かべつつ、相手が自分の耳元へと近づいて来る──。
「これは噂なのだけれども、警告だよ。明日、何かが”起きる”かも知れないと、ギルドでは情報が錯綜している。軍も、ギルドも最近はきな臭い動きが多いんだ──だから、君たちも気を付けて」
ソッと──そう言葉を残して相手は離れる。
「何かあれば頼って来てくれていい! まぁ、けれども君の実力なら大丈夫だろう。僕の全力でも届かない領域に軽く居るのだから、では──良い試合をありがとう! 頑張れよ!」
そう言いながら、シュンの相手をしていたチーム仲間に肩を貸しつつ試合会場から出て行くのであった。
「なんだか、スッキリする相手だったな──本来はそういうイベントのはずなんだけれどな」
シュンがどこか、スッキリしたような──けれども、後半は思案顔になって言葉を吐いていた。
「何かあったのですか?」
「どうしたのー? 何か言われたの?」
マリとリンも──ナビと一緒に自分の所へ近づいてきて、先の一幕を問いかけるが──。
『ううん、何でもないよ。 次の試合も頑張れだってさ』
「そっかぁ、良い人だねぇ!」
「まぁ、当たってた方々──若干、血の気が多い人が多かったですからね」
自分も言葉を濁しつつ伝え、リンとマリも納得したように感想を述べあっていた。
(ナビには多分──分かってるだろうな)
最近は離れてる影響か共有は繋がってはいるけれども、思考の面に関しては薄っすらと感じ取れる程にはなっているが──魔力ネットワークの通じている、魔法のある場所ではある程度情報が入るナビの事だから分かっているだろうと思うことにする。
『とりあえず──自分たちも出ようか』
「おい──シエル、大丈夫だって……いや、ありがとう」
次の試合もあるのだろう、会場の出入口付近に運営スタッフさんの姿が見えて、会場を出るのを促しつつ──やっぱり、少しだけ無理してそうなシュンに気付きつつ肩を貸すことにする。
そして、何とか本日の2回戦目も突破し──控室へと皆で戻るのだった。
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