『学内対抗戦⑫』
ナビも気付かない
マザーも気付かない
人も気付かない
シエルは──気付いた
それの意味することは今後分かるのだろう
「シエル様! シエル様! モーニング限定のパンケーキみたいです!」
先程までの少しだけ──むくれていたのは何処に行ったのか、笑顔でニコニコと明るく楽しそうに話しかけてくるナビが居た。
(ナビは本当に──)
「ナビちゃんは本当に甘いものが好きだねぇ!」
自分の思ったことがそのままリンが言っていた。
「ぁ──ぁぅ……」
そして、気恥ずかしくなったのかナビさんの恥ずかしモードに突入するのだった。
「ごめん!Aランチのセット、混んでて遅くなった!」
「私もお気に入りの所が朝、仕度が手間取ってたみたいで──」
シュンとリンも同じく朝食を持ってきた。
……ん? 自分の朝食?
「シエルも甘党なのか……?」
シュンの目線は自分の目の前のホットケーキに注がれていた。
(断じて違う──ナビがどっちも食べたいと……)
「違うんじゃないかな? 多分ナビちゃんが、どっちも食べたいと悩んでて。シエルくんはどっちも食べれるように──」
「ぁ──ぁ──うぅぅ──」
マリの言葉が続くほど、ナビの──ナビさんの恥ずかしモードはバーションアップしていくのだった。
*
「やっぱり──ここのグルメ施設のご飯が一番美味しいかも知れないな」
シュンの言葉に頷き返そうとした時───。
”ゾワッ”とした気配を感じて背後を振り返る。
ナビも気付いたのか、同じタイミングで振り向いた為かシュン、マリ、リンの3人も自分の視線を追うような形になった。
「「──────」」
そこには昨夜に感じた”どす黒い魔力”を纏っているバルとレイ───その取り巻き達が居た。
バルたちは……こちらに視線を向ける事もなく、剣呑な雰囲気を放ちつつ──だが、静かにその場を去っていったのだった。
「シエル……?なんだ──今のは?」
「シエルくん……?レイちゃんの雰囲気がなんだか──ねぇ、大丈夫……だよね?」
先程までの明るい感じが反転して、鋭い声──そして険しい表情に変わった2人が居た。
『大丈夫──なはず。ナビ……確認したいことがあるんだ』
「シエル様……?」
ナビの表情も少し前の恥ずかしモードとは雲泥の差で真剣な表情になっていた。
『あの”どす黒い魔力”はマザーは感知出来てないと思うか……?』
「え──?」
そこには素っ頓狂な表情に一転したナビが居た。
*
「シエル様──すみません、少しシエル様の感覚を共有します……」
(久々の感覚だな……)
ナビと思考? 感覚? 思考? が一体化しているような全能感に近いものを感じる──。
『ナビ──大丈夫か?』
「はい!……お願い致します」
(バル──レイ……見つけた!)
「えっと、これは──?」
ナビの戸惑う声が聞こえてくる。
「シエル? どうなっているんだ?」
「「シエルくん──?」」
シュン、マリ、リンも酷く心配な表情になっていて、ナビと同じように半ば強制的に近いが闇属性の魔法を行使して意識を共有させる。
「おい──これは……なんなんだ? シエル?」
「えっ──」
「っ──」
”どす黒い魔力”を視て、3人もナビのように戸惑う声をあげる。
『もしかして、気付いてるのは”俺”だけなのか……?』
ナビを見てみると、ナビも肯定するように──申し訳なさそうに頷いていた。
*
『考えられるのは──』
・精霊には感知出来ない──阻害されている?
・人にも気付かれない──阻害出来ている?
「だが、そんなこと出来るのか?」
「ですが、今私たちの目の前でそれが起きていました」
シュンの疑問に、マリが答えている。
「……」
リンは──。
『大丈夫だよ……落ち着こう、リン?』
「シエル──くん」
そっと、頭を撫でるとリンの瞳に光が戻ってきた。
「ごめん──動揺しちゃってた」
『こっちこそ……ごめん、ちょっと刺激が強かったね』
「ううん──ありがとう、シエルくん」
リンが少しだけ頬を染めて、お礼を告げてくると「「ジー──」」と、背中に寒さを感じて振り返ると……マリとナビがジト目でこちらを見て来ていた。
*
「えっと──とりあえずシエル? どうする?」
シュンが少しだけ呆れも含んだような感じで質問を投げかけてきた。
『とりあえずは自分はガイウスさんの方に連絡を入れるよ──3人もそれぞれに連絡を入れて貰えたら助かるかも』
「そうですね」
「うん、わかった」
マリとリンが頷きつつ──メッセージを送り始めたのだろう。
シュンも頷いてからメッセージをムシュタル大将に送り始めたのだろう。
(それにしても──ナビが気付かない?)
そう思ったら”最悪の想像”が脳裏に過るのだった。
横目でナビを見てみると、ナビはナビで検証を始めたのだろう──目を閉じて考え始めていたのだった。
*
「そろそろ、行こうぜ!次の魔力車の時間が近いぞ!」
──自分も考えに思考の海に潜ってしまっていたのだろう、自分の横を通り過ぎた学生の声を聞いて意識を浮上させる。
『時間……時間!──皆、急ごう!』
”ハッ”と皆が反応する。
皆、色々と思考に埋もれていたのだろう。
時間を確認しては朝の試合に間に合わせるように急ぎ足で学院エリアの訓練施設……試合の会場へと向かうのだった。
coming soon




