表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

謝罪

作者: ナナシ

 「この季節にその服はないでしょー」

春、とはいえどもまだまだ肌寒い初春の事、外出するのに少し厚めのセーターとズボンを履き出かける準備をしていた時に母に言われた言葉である。

 私は非常に寒がりなのだがそれを分かってくれないのか母は口うるさくあれやこれやと指摘してくる。

「そもそも、髪の毛もぐしゃぐしゃだしちゃんと整えないと、あと髭も剃って、眉も整えて……」

「あぁ〜はいはい、うるっさいなぁもう出掛けませんから放っておいてください」

あれやこれやとダメ出しされ最早出かける気も起きなくなってきた私は、母にそう言って2階の自室に戻った。その際足音が大きくなってしまったがもうどうだっていい。

その後はリビングから「まぁ!本当に不貞腐れるのが上手いこと!」と言われるものだからもう怒りを通り越して面倒臭さしか感じない。

 「まぁまぁ………あいつも身支度の途中だったんだろ?あれやこれや言わなくても……」

「私だって言いたくて言ってるわけじゃないわよ!もう!お父さんもあの子の肩を持つのね!さすが似た者同士だこと!」

私を庇う父に対してヒステリックに金切声を上げる母。本当にあの人は自分の思ったとおりにならないと気が済まないのだろうか。

昔からこの人のこう言うところが苦手であった。

 「そもそも!貴方働かない癖に食べすぎなのよ!何でお米がもう無いの!?先月買ったばかりのお肉だって沢山あったはずなのにもうないってどう言うことよ!!どんだけ食べてるのよ!穀潰しの癖に!!まるで豚じゃない!!」

母のその言葉にただでさえ沸々としていた怒りが爆発し、私は自室から飛び出すとドタドタと一階のリビングに降りていって母の頬を引っ叩いた。

力一杯私に引っ叩かれた母がよろけて床に倒れる。

突然のことに唖然としてやっと黙った母と、驚いて固まる父。

そして、私の怒りは言葉となって母を攻撃した。

 「父さんは働かないんじゃなくて働けないの知ってる癖に何故そんなことが言える?日々神経痛の痛みに耐えながら朝早くから弁当を作り、掃除、洗濯、皿洗いまで熟してくれてるのは父さんだろうが!!それを働いてない?………十分に働いてんだろうが!!!1日一食しか食べてないのあんたも知ってる癖に何ほざいてやがる!!父さんに謝れ!!」

口早に捲し立て怒りで肩を震わせる私を父が宥める。

 「俺はいいから………大丈夫だから、な。落ち着け、俺のために怒ってくれてありがとうな」

感情が爆発すると涙が溢れ出てくる私の頭をぽんぽんと撫でる父の手は昔と変わらず暖かい。

少し落ち着いてきた私を父はリビングのソファに促して座らせる。

そして、床にへたり込んだまま立ち上がらない母の元に行き「母さん大丈夫か?」と父は心配そうに見つめて手を差し伸べた。自分の事を貶してきた母にどうして優しくするのか理解出来ない。

 母は父の手を掴むこともせずただただ床にへたり込みながら唇を硬く噛み締めて目に涙を浮かべていた。

 「結構腫れてきたなぁ………優、保冷剤持ってきてやって」

そんな母に父苦笑して私が引っ叩いた頬が腫れてきたのを見て私にそう指示を出した。

「……………………分かった」

不承不承ながらソファから立ち上がり冷凍庫の中から保冷剤を出してキッチンの引き出しから一枚手拭いを出すとそれを包んだ。

 「…………はい」

今は母と話をしたくもないので母を通り過ぎ父に保冷剤を手渡す。

そんな私の様子に父は何も言わずにそれを受け取り「これで冷やしときな」と保冷剤を頬に当てながら優しく母に言うのであった。

 「優、母さんと少し話をするから外に出ておいて」

「………大丈夫?」

「あぁ、お前が怒ってくれたから俺は平気だよ」

「…………今日は近くのネカフェで過ごすからゆっくり話し合ってよ………ただ母さんに謝るのは俺、絶対にしないから」

「分かった」

私は再び自室に戻り、服を着替えて財布などが入った鞄を手に家を出た。

それから徒歩で近くのネカフェまで歩いていくその道中、母の涙を堪えている顔を思い出して頬を叩いたのはやり過ぎたかなとか、言い過ぎたかな………とかモヤモヤした気持ちを抱えながら後悔するのであった。そして、それはネカフェで漫画を読んでいてもPCゲームをしていても胸の内に渦巻いていた。

 翌日、会計を済ませていると父からスマホにショートメッセージが届いた。あの後、母の涙腺は崩壊して色々と貯まっていた胸の内を曝け出したそうだ。

『本当はもっと優と話したいし、どこかに出掛けたりもしたい、でもどうやって接すればいいか分からないからあんな言い方になってしまうんだとさ』

父から送られてきたスマホの文面を見ていると今度は母からショートメッセージが届いた。

『ごめんね』

それに対して私は『こっちこそごめんなさい』と送り家に帰ったら母と話すと決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ