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ブラック企業の父と、モフモフのお友達

作者: TAI-ZEN

1000文字って、ショートショートに絶妙な文字数ですね。最初は倍くらいになりました(汗


 父は残業の多いブラック企業に勤めていた。そんな私がトイプードル犬のポコを貰って来たのは、やはり淋しかったせいだろう。


 仕事にげっそり疲れた父が、ちらりとポコを見て言った。


「自分で世話しろ。俺ぁ知らん」


 てなわけで、それからポコと私の生活がはじまった。


 いつもは階下にいるポコが、小さな肢で階段を駆け登り、昼までおきない私の頬を舐めると一日が始まる。スマホを弄る私の横で昼寝をし、目覚めればボール遊びに精を出す。呼べばいつでも愛らしい顔でやって来たし、お座りだって得意だった。


 父にもポコはなぜか懐いた。たまに早く帰宅した父にじゃれようとしても、その度に父は面倒臭そうに足で追い払い、私は父を罵った。


 そんな父が死んだのは、ポコが来て一年がたったころだ。心不全とかで、朝起きたらとにかくもう冷たくなっていた。すぐに救急車を呼んだけど、結局死亡が確認されて、警察に少し事情を話したらそれでおしまいになった。


 私は仕方なく葬儀の準備をはじめた。少ししかない父の遺品を淡々と整理し、衣類や書類をごみ袋に詰める。スマホは父の枕元にあったが、パスワードがわからない。


 とつぜん、父のスマホに通知が来た。


『動画モフモフのお友達を作成しました』


 え……なんだろう?


 私は首を傾げ、やっと理解した。きっとスマホが過去の写真や動画から、勝手にメモリーと呼ばれる動画を作ったのだ。でも、モフモフのお友達って?


 それまでわからなかったパスが閃く。

 何度も失敗して、ついに成功した。


「POCO221」


 二月二十一日は、ポコを貰ってきた記念日だ。


 そして、私はその動画を見た。


 ノスタルジックな曲が流れ動画が再生される。


 リードを着け歩道を嬉しそうに歩くポコ。太った身体で懸命に走る父に、可愛い舌をちょっぴり覗かせて仰ぎ見るポコ。たくさんの写真と、たくさんの動画がそこにはあった。それは私が見たことのない父とポコの笑顔だった。


 朝寝坊の私の代わりに、父はほとんど毎朝、ポコを散歩させてくれていたのだ。


 私は動画を見終わった。このところ元気がなく、さっき初めて私の手を嚙んだポコを見る。ああ、きっとポコは父の死を理解していたんだ。私は少しだけでも父と話せばよかったと後悔した。一度でいいからポコと三人で散歩をしたかった……。


 父の葬儀には思いのほか人が来た。ポコはずっと父のお棺を離れなかった。ブラック企業の連中は意外に優しかった。


 スマホは今も、そのままにしてある。

終わってみれば、ブラック企業に勤めるすべてのお父さんへ。なにかご感想やご評価などいただければありがたいです。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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