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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章
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第5章-24 細工物が示すもの

 アサノハはそっとそれに手を触れてから、顔を上げ、疑問に思っていたことを口にした。


 「今のは、先ほどおっしゃっていた契約なのでしょうか。私はこの細工物と契約したのでしょうか」


 その問いに、苦笑いを返したのは守護精だった。


 「なにゆえ、そのように思われるのですか」


 その言葉に、アサノハは小首をかしげて考え込むように応えた。


 「先ほど、契約には名前と身体が必要だとおっしゃっていました。先ほどは私の血と名前を求められました。血も私の体の一部でしょう。ですから、これは私とこれの契約かとおもいました」


 「なるほど」


 イザヨイは苦笑して、主たるムラクモと顔を見合わせた。ムラクモが軽く肩をすくめる。守護精は再び少女に向きなおった。


 「正確には契約とはいえません。これは宝剣の波動を持つとはいえ、精霊を持たないものです。ですが、あなたの血と名前を与えたことで、あなたを認識しています。あなた以外のものが使おうとしても、拒否するでしょう。これはあなたのものになったのです」


 「使う?」


 これはとても美しい細工物だが、ブローチやマント止めの他にもなにか使い道があるのだろうか。まあ、ピンがついているから、とっさの時にそれで攻撃できそうだが、たいしたことはできそうにない。


 「まあ、それはおいおい。気づくものはまずおりますまいが。通常、これはただの細工物で、これを帯びているということは、あなたが次期さまだと周囲に示すことになります」


 「次期であることを……」


 その言葉が腑に落ちた瞬間、アサノハはさっと蒼褪めた。クオンと共にいなくても、これをつけてこの部屋を一歩出た瞬間に、私は無言のうちに自分が次期だと宣言しているのも同然、ということだ。


 アサノハは細工物をはずしたい衝動にかられた。


 ハナビシやムラクモ、その周囲の人には自分が次期だと打ち明けたが、他の人の目に自分が次期だと映ってしまうのは抵抗があった。今少し、せめて王城に上がるときまでは、ジュオウ家の前当主の娘でいたかった。


 しかし、それが叶わぬことだともわかっている。すでに私はクオンに選ばれ、クオンに名をつけてその運命を受け入れている。今更何を秘すべきことがあるのか。


 アサノハは顔を上げ、背筋をまっすぐに伸ばした。そんな彼女の側にクオンは寄り添った。


 守護精故に、人の子の持つ暖かさはないはずだった。だが、アサノハはクオンのぬくもりを感じた。このぬくもりがこの先ずっと側にある。


 このぬくもりが傍らにある限り、私はまっすぐに顔を上げていられるだろう。


 アサノハはそう思った。


 「ありがとうございます、陛下、当代さま。大事に肌身離さず身につけておきます」


 「よろしい。思ったより長く時間を使ってしまったな。すまない。送らせよう。だが、話せてよかった」


 「私も、です、陛下。お時間をいただき、ありがとうございます」


 アサノハはそう言って一礼した。その姿は、昨日の葬儀の時の少女とも、ハナブサたちに連れられてこの執務室を訪れた少女ともまた違う、凛としてすでにどこか威厳を漂わせた気品のある少女だった。更に大人びたように見えた。


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