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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章
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第5章-19 当代さま、語る

 「私たち守護精は人の子と同じような姿をしていますが、これは仮の姿です。本来は姿を持ちません。ですが、それでは主と関わることができませんからね、人の姿を取りましたが、これは人の子のように肉の身体ではありません。この姿は波動でそのように見せているだけです。まあ、人の子の身体もまた波動と言えば波動なのですが」


 アサノハはきょとんとした表情で話を聞いていた。


 確かに、守護精は波動の生き物だと聞いている。だが、同じような姿をしているため、その体もまた自分と同じようなものだと思っていた。


 そういえば、朝食事に誘ったときも、クオンは必要ないと言っていた。


 「たとえば、このように」


 微笑みつつ、イザヨイは何処からか出してきた短剣で自分の腕をこともなげに切ってみせた。アサノハは思わず小さく悲鳴を上げる。しかし、守護精の腕はゆらっと揺らいで輪郭をにじませただけで、血の一滴が出るわけでもなかった。一瞬揺らいだその腕は、ゆっくりと元の形に戻っていく。


 「切りつけたとしても、私が怪我を負うことはありません。元に戻るだけです。ご存知かもしれませんが、この身は食べ物も飲み物も必要としません」


 「では、どうやって形を保っていられるのですか」


 「宝剣の波動によって、です。私は宝剣の精霊故。そして、ここにあるものすべて、そう、なにもないように見える大気の中にすら波動はあり、その波動を吸収することで私もクオンも成り立っています。この身が果てるのは、主がこの世からいなくなるときのみ。その時、私も主と共に参ります」


 守護精はにっこりと微笑んだ。


 「あなたもまた波動で出来ているのですよ、アサノハ様」


 「私も、ですか」


 アサノハは驚いて守護精を見返した。それから自分の手に視線を落とす。その手を握ったり開いたりしてみた。


 「ええ、そうです。ただ人の子の身体は血や骨や肉からできています。ですが、それもまた波動なのですよ。波動は常に揺らいで動いている。時に共鳴し、時に反発し、融合し文留する。常に変化し続けているのです」


 それから、守護精はアサノハが難しそうな表情をしていることに気づいた。


 「申し訳ございません、まだ難しいかもしれませんね。学び舎に入って波動を学べばお分かりになるようになりますよ」


 にっこりと微笑む当代を見て、アサノハはうなずいたが、まだ納得はしていないようだった。そんな少女の肩にクオンはそっと、励ますようにその手を置いた。その微かな重みにアサノハは顔を上げておのれの守護精を見上げる。


 「私もお手伝いします、アサノハ様。私も共に学びます故」


 「そうね、クオン」


 アサノハはクオンに笑みを返した。


 知らないことは山ほどある。ならば、これから学んでいけばいい。


 イザヨイは満足そうに微笑んだが、すぐにいつもの微笑みに戻った。


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