第5章-15
「そなたは運がいい。王とは本来孤独なものだ。すべての責任は王一人にかかってくる。その重責がいかほどのものか、そなたにはまだわかるまい。だが、そなたには守護精がいる。利害にかかわらず、そなたの側に常にいてくれる存在だ。それがどれほどの僥倖か、そのうちわかるようになる。これは奇跡なのだ」
ムラクモはとんと自分の胸を片手のこぶしで軽く叩いた。
「それは私にも言えることだ。イザヨイがいてくれて、私がどれほど感謝していることか。むろん、キサラギやツユシバは大切な私の側近だ。友ともいえるほど近しくて、私を支え続けてくれている。だが、守護精との絆はそれとはまったく違うものだ。魂と身体とで結びついている」
「魂と、身体……?」
「そうだ。ゆえに私は孤独ではない。そなたにも時期にわかる」
それから、ムラクモはふと思いついたように再びアサノハを見やった。
「守護精と主は魂と身体で結びついている、と言ったが、まだ契約について話していなかったな。そなたは次代に名を与えたな」
「はい、それが契約と聞きました」
「正確には違う」
そう言ってムラクモは軽く頭を振った。アサノハはえっ、と驚いた表情を浮かべた。
「守護精が主と認め、その主が守護精に名を与える。それは契約の第一段階、仮契約とでも思ってくれ」
「ですが、クオンはそれが契約だと」
「むろん、契約の一部ではある。次代と次期との間で、のな。クオンが当代となった時、主と正式な契約が結ばれる。それは身体と魂で結びつけるものだ」
「身体と魂で……」
アサノハがつぶやくように王の言葉を繰り返すと、ムラクモはうなずいた。
「そなたは次代に名前を与えたが、守護精にはまことの名がある。だが、それは秘されており、誰も知ることはない。ただひとり、主を除いては」
「つまり、陛下は守護精さまのまことの名をご存じなのですか」
アサノハは考え考え、言葉を返した。それにムラクモは再びうなずく。
「そうだ。しかし、次代は未だそのまことの名を知らない。守護精がまことの名を知るのは当代になり、まったき自分を取り戻した時だと言われている。故にそなたもまた守護精のまことの名を知ることはない。私も告げられたのはイザヨイが当代になってからだったからな」
「当代になってから、まことの名を知る……」
「ああ。主たる我らが守護精に名を与える、そして、守護精がおのれのまことの名を主に告げる。その両方が揃ってこそ、主と守護精は魂を結び付け、絆を結ぶ。わかるか」
アサノハは困惑したような表情を浮かべながらも、うなずいた。
「つまり、私が守護精の真の主になるには、クオンのまことの名を告げられねばならないのですね」




