第5章-14
なぜ、そのように具体的に思い浮かべたのかわからない。妙にリアルで、何かの記憶をのぞいているみたいで、はるか遠くからその光景を眺めているかのようだ。それでいて、その感覚はすぐそばにあるようだった。
恐ろしかった。人は簡単に死んでしまう。両親だとて、誰も死ぬとは思っていなかったのに、亡くなってしまったではないか。
ふと、泣き声が聞こえた。兵士の死体に取りすがって泣いている少女。父さん、と呼びかけ泣いている。
あれは、知らない少女、いや、自分の姿ではないか。泣き声は、ふと気づけばあちこちから聞こえてくる。たくさんの泣いている子供。
いくさは、私のような子供を作る。それも数多くの。
アサノハは体を震わせた。
それから顔を上げてムラクモを見やる。
「私がどのように国を治めたいのか、それはまだわかりません」
そう、アサノハは切り出した。少し声がかすれていることに気づいた。しかし、構わずに続ける。
「ですが、いくさはしたくありません」
「なるほど」
ムラクモはまっすぐにアサノハを見つめる。
「いくさをしたくない、それはわかった。だが、戦は当方がしようと思わずとも、他国より仕掛けられることもある。そのような場合はいかがする」
アサノハは気づきもしなかったことを言われて、はっとした。しかし、すぐに首を振る。
「わかりません。ですが、そのようなことにならないよう、考えます。いっぱいいっぱい考えます。いくさをしない方法、他国から攻められない方法。必ずあるはずです。私はそれを見つけたいと思います。いえ、見つけます」
「よろしい」
ムラクモは満足したように大きくうなずいた。
「そなたが本気で戦をしたくないというのならば、そなたが言うように考えるがよい、学がよい。そなたが本気で望むならば、必ず道を見出すことができるだろう。それに、そなたが本気で望むのならば、それを助けてくれるものもいる。例えば、ジュオウ家のハナビシもハクギンもそなたを支え、助けになるだろう。アサアケもまた、そなたを助けるだろう。これからそなたが行く学び舎でも、そなたはそなた自身を支える仲間を得るだろう。私がキサラギやツユシバ、アサアケを得たように。そして、なによりそなたには次代がいる」
にこりとムラクモは微笑んでみせた。




