表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章
34/46

第5章-13

 アサノハはくすりと小さく笑って言った。


 怖い。だが、確かに私にはクオンがいてくれる。それが、その事実がアサノハを支える。


 それにムラクモがクックと笑う。


 「ああ、頼りないが、あれでも守護精だからな。今はまだ目覚めたばかりで右も左もわからぬが、この国の建国より前からの記憶を持つものだ。すべての記憶を得るのは当代になってからだが、今もそなたよりは豊富な知識を持つぞ。まあ、今は未だひよっこだがな」


 「肝に銘じます、陛下」


 「よろしい。では、ひとつ、そなたに問おう。どのような女王になるつもりだ? どういう女王を目指す?」


 突然の問いに、アサノハは一瞬大きく目を見開き、それからしばたたいた。何度か口を開いては閉じた後に、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。


 「考えたことはありません。昨日まで私は次期になることすら思っていなかったのですから」


 その言葉に、ムラクモはうなずいた。


 「さもあろう。だが、少し考えてみるがよい、そなたはどのように国を治めたい、女王として」


 自分が国を治める。どのようにして? 考えたこともない。だが……。


 アサノハは小首をかしげ、目を閉じて考え始めた。その間、ムラクモは黙ったまま、お茶を飲みながら彼女を見つめていた。


 なにを、どうしたい? ああ、本当に私は何も知らない。


 でも、それはこれから学ぶことができる。私が学びたいと望んだならば、おそらくそれはかなえられるだろう。


 私はどうしたい? 陛下は私が戦をすることもできるとおっしゃった。私は、いくさをしたい?


 アサノハは自問自答した。そして、心の中で首を振る。


 いくさがどんなものか知らない。それがどれほど悲惨なものか、私は知らない。けれど、たくさんの人が死んでしまうということは知っている。とてもたくさんの人が。


 ふいにアサノハは昨日の両親の顔を思い出した。ひんやりとして、物言わぬ唇、閉ざされたままの瞼、ピクリとも動かないふたり。


 その想像が突然、戦場に変わった。


 広々とした野原一面を埋め尽くす兵士の姿、鬨の声。彼女のそばを駆け抜けた兵士が、敵兵に斬られ、どうっと倒れる。血しぶきが草の緑を染めていく。その敵兵もまた倒されて行く。敵味方関係なく折り重なる死体、どこからともなく聞こえてくる呻き声、強い死のにおい……。


 なぜ、そのように具体的に思い浮かべたのかわからない。妙にリアルで、何かの記憶をのぞいているみたいで、はるか遠くからその光景を眺めているかのようだ。それでいて、その感覚はすぐそばにあるようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ