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王国の守護精  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-3

 ノルカ王国の国王は世襲制ではない。建国時より伝わる宝剣の守護精が次期国王を選ぶ。そして、その選ばれるものは常に初代国王の血を引くものであった。五家は及ばず、他の家からも選ばれ、何故選ばれるのか、何ゆえ選ぶのかは当の守護精すらわからないという。だが、守護精が現れるのは決まって初代国王の血を引いていた。どんなに薄くとも。時代の守護精はただ主だと思うものの前に現れ、そして主と共に生き主が亡くなると守護精もまた消えてしまう。初代国王が身罷った時は、何年もの間、守護精は姿を見せなかったという。その間は王座を巡って争いが絶えない時代でもあった。やがて守護精が再び現れ、主と定めたものが王位に就くと争いは自然とおさまり、王を中心としてまとまりを見せて国は栄えた。それが幾度か続くうちにいつしか現王が存命の内に守護精が現れるようになり、守護精が定めた主が次期国王として認められるようになった。


 ひと振りの宝剣に二人の守護精。その不思議を人々はいつしか受け入れていった。それは人々がいらぬ争いをせぬようにと望んだからだともいう。それでも争いは絶えないのが人の世の常だ。


 ムラクモとキサラギは従兄弟とあって、子供のころから仲が良かったという。どちらも貴族の子弟が学ぶ学び舎で一・二を争う賢さで、ムラクモのほうがやややんちゃで明るく剣の稽古や体を動かすことを好み、キサラギはそれに比べれば大人しく本を好む少年だったという。そんな陽と陰の対のような二人だったが、次代の守護精が現れたのはムラクモのもとだった。


 現王の子供のもとに現れるわけではない。それは誰もが知るところだ。だがそれでもキサラギには衝撃だっただろう。キサラギもまた有力な次期国王候補と目されていたし、自負もしていた故に。

その衝撃を克服すると、キサラギはムラクモの下に行き、膝をついて臣従を誓った。それは嘘偽りのないものだった。アサノハはよく父から、ムラクモが選ばれてよかったと、本当にうれしそうに口にするのを何度も聞いていた。


 ムラクモが王位を継ぎ、キサラギがジュオウ家の当主となり宰相となって彼を支え、二人は共に歩んできた。おそらく誰しもが、それが長く続くものだと思っただろう。


 故に、ムラクモが臣下であるキサラギ夫妻の葬儀に現れたのを人々は驚きこそすれ、不思議とは思わなかった。


 そのムラクモが棺に手をかけ、開けようとしていることに気づきアサノハは思わず彼を止めていた。


 「へ、陛下」


 その声にムラクモは手を止め少女を見やった。曇ったようなグレイの瞳がアサノハを射る。国王のまなざしにアサノハは少したじろいだが、勇気を振り絞って先を続ける。


 「お開けにならないほうがよろしいかと」


 「何故だ?」


 「遺体の損傷が激しいと聞いております。顔もわからぬほどと」


 なるほど、とムラクモは苦い笑みを見せた。だが、彼はアサノハの静止を聞かなかったかのように、再び棺に手をかけるとほんの少しだけ開けて遺体と対面した。アサノハははっとして身を乗り出したが、アサノハから見えそうなところにはさりげなく守護精が移動している。アサノハからは父の姿は見ることが叶わなかった。


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