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王国の守護精  作者: 久保 公里
第5章
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第5章-6

 こともあろうに、ハナビシは国王に向かって反論した。だが、ムラクモは少し眉をピクリとさせただけで咎めはしなかった。


 「家を出てすべてのしがらみを捨ててただひとり、王家に入るのです。わたくしはアサノハに心細さや不安を感じることなく王城で過ごしてほしいだけですわ。もちろん、アサアケ様が完璧に支度されることは想像に難くありません。ですが、そこに少しだけ慰めになるようなものを加えたいだけでございます。そして、アサノハにふさわしいものをそろえてやりたく存じます。次期さまとしてではなく、私の身内のアサノハに対して、ですわ。子供のいないわたくしにとっては娘も同然ですもの」


 「でも、振られたのだろう」


 ムラクモの言葉に少し気分を害したのだろうが、ハナビシはおくびにも出さなかった。


 「ええ。でも一度は受けてもらいましたのよ。次期さまであると知る前でしたけど」


 「なるほど、私に異存はないな。アサアケはいかがする」


 「わたくしにも異論はございませんわ、陛下」


 アサアケは軽く一礼してみせる。


 「わたくしにもアサノハ様と同じ年頃の娘がおりますゆえ、ハナビシ様のお気持ちはわかります。手伝っていただけるのでしたら助かりますわ」


 「アサアケ様には娘御がいらっしゃるのですか」


 アサノハは興味を覚えてアサアケに訊いた。ジュオウ家の当主の館で生まれてこの方過ごしてきたアサノハは同年代の子供と会ったことがほとんどない。


 「はい、次期さま。王城に移られましたら紹介いたしましょう。学び舎でも会うことになりましょう」



 「そうだな」

 ムラクモがふたりの会話に割って入る。


 「そなたは様々な人に出会って、その世界を広げねばならぬ。そのために学び舎は良き場となろう」


 「かしこまりました、陛下」


 アサノハはゆっくりと一礼した。


 「では、こちらへ、アサノハ」


 ムラクモのその一言が退出の合図だった。国王と次期の主従を残して、他のものは一礼して部屋を出ていく。その去り際にハナビシが心配そうなまなざしを送ってきたが、アサノハは軽く頷いてみせた。


 ムラクモはアサアケをソファに導くと、そこに座らせた。侍女がお茶とお菓子を卓の上に並べる。ムラクモはアサノハの向かいに座り、お茶に手を付けかねているアサノハに先んじて茶碗を口もとに運んだ。それを見て、アサノハはまねするようにお茶を飲む。


 とたんに、アサノハはお茶にむせた。正式なお茶はこれが初めてだった。そのまま飲んだお茶は熱くて苦くて、まだ幼いアサノハには無理だった。


 「アーシャ」


 クオンが慌てたようにアサノハの側に寄り、茶碗を受け取る。けほけほと小さく咳き込みながら、アサノハは言った。


 「大丈夫よ、クオン」


 そんなアサノハの前に、優雅に手が差し出された。アサノハが顔を上げてそちらを見やると、当代さまがにっこりと微笑んでいた。


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