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王国の守護精  作者: 久保 公里
第4章

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第4章-2

 「少し大人になったようね」


 その言葉に、少女は少し頬を染めた。


 それからは和やかに話しながら昼食が進んだ。話すのはもっぱらハナビシで、時折混じる問いかけにアサノハが答え、ハクギンはただ黙々と食事をしていた。眉間にしわを寄せていたが、妻の話が不快なわけではなさそうだ。ハナビシも話をふっても答えが返ってこないとわかっているのか、ほぼ話しかけることもなかった。


 食事が終わり、お茶とお菓子が出される。ハナビシがお茶を飲みながらアサノハに話しかけた。


 「それで? 私に面会を求めたのは当主就任の祝いを言うためだけではないでしょう」


 その言葉に、アサノハは飲みかけていたお茶を慎重に喉に流した。ゆっくりと優雅にお茶を置くと、ハナビシを見つめ緊張しながら切り出した。


 「国王陛下にお会いしたいのです。その許可をハナビシ様に取っていただきたく、お願い申し上げます」


 それを聞いて、ハナビシは目をしばたたいた。アサノハがなにを言うかさまざまに考えていただろうが、おそらくそういうとは思っていなかったのだろう。アサノハの紫水晶の瞳は必死さをたたえて輝いていた。


 「それは、昨日の陛下のお言葉に関係あるのかしら」


 ゆっくりとアサノハは首を振った。それを見て、ハナビシはさらに首をかしげる。それから手を伸ばして自分の手をアサノハの小さな手に重ねた。


 「ねえ、アサノハ、唐突と思うかもしれないけど私たちの養女になる気はなくて?」


 確かに突然だった。アサノハは一瞬なにを言われたのかわからず、まじまじと新当主の顔を見つめた。小さな淑女らしくもなく、口をぽかんと開けたまま。


 「……養女に?」


 ややあって、ようやくアサノハは声を絞り出すように言った。思いもしなかった。昨日の王の言葉の後、誰も何も言わなかったではないか。あの時の見捨てられたような気分を思い出した。


 アサノハのそんな思いに気づいたかのように、ハナビシは少女の手の上に置いた自分の手にほんの少し力を入れた。


 「でも……でも、昨日は……」


 ハナビシはさらに手に力を入れた。まるでアサノハが手を引き抜こうとするのを阻止しようとするかのように。それにアサノハはびくっと手を震わせる。


 「昨日は悪かったと思っているわ。陛下のお申し出だったし、私はまだ当主ではなかった。なにも言えなくて申し訳なかったわ。でも、この話は陛下のお申し出があったからではないの。キサラギの訃報が伝えられてからずっとハクギンと話し合ってきたの。あなたが望むなら陛下の庇護下ではなく、私たちの養女となって今までと同じようにこの屋敷で暮らしていいのよ」


 ハナビシがまっすぐに見つめてくる。アサノハは苦しくなって思わず下を向いた。


 「アサノハ」


 突然の男性の声にアサノハは弾かれたように顔を上げた。ハクギンからはじめて話しかけられたように思う。アサノハは驚いたようにハクギンを見つめた。そのまなざしを受けて、いつも変わらないように思えたハクギンの表情が困っているように眉をしかめていた。アサノハが見たことがないような表情だった。


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