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王国の守護精  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-1 棺の前のアサノハ



 泣かないでください。

 私があなたの傍にいます。

 あなたと共に生き、あなたと共に逝くために私は生まれてきたのです。

 あなたを決してひとりにはしません。

 あなたのためにだけ、私はいるのです。



1.


 アサノハは白く広い聖堂にある祭壇の前に立ち、入れ代わり立ち代わり訪れる人に挨拶をしていた。黒と見紛うほどの濃い紫色の髪と、薄い紫水晶の瞳を鈍色のベールの奥に隠したまま。


 レースがふんだんに使われた鈍色の喪服は急遽整えられたのであろう、幾分大きめのようで、体に合っていなかった。だが、そのようなことを気にしたふうもなく、背筋を伸ばし、顔をまっすぐに上げて訪れる人に丁寧に対応している。それは貴族の娘にふさわしい態度であった。


 少女の後ろには二つの棺が並べて置いてあった。白木のシンプルなもので、その上に白い布が掛けられている。その中で彼女の両親が永遠の眠りについていた。そう言われている。


 ノルカ王国の五家のうちのひとつとして知られるジュオウ家の当主であり、現国王を支える宰相でもある父とその妻であるアサノハの母の葬儀には、ジュオウ一族をはじめ、王都にいる貴族のすべてが集まっているのではないかと思われるほどの人が参列していた。誰もが鈍色の服に身を包み、アサノハに悔みの言葉を述べていく。ささやくような声音が高い天井に吸い込まれていった。


 「ありがとうございます」


 「恐れ入ります」


 「かたじけのうございます」


 定型のような言葉とお辞儀をアサノハは何度繰り返しただろう。


 突然の報せだった。両親は領地に所用があり、一月前より領地に赴いていた。それがどのような所用であったのかは、アサノハは聞かされていない。ただ、それほど長くなる予定ではなく、10日ほどで戻る予定であった。


 しかし、時期ならぬ長雨が帰京を阻んだ。めったに雨の降る時期ではなかったのだが、降ったり止んだりを繰り返してそのたびに出発が遅れ、領地での滞在は十日が二十日となり、いつの間にか一ヶ月が経とうとしていた。ようやく降りやみ領地の館を発ったとの報せが王都に、アサノハのもとに届いたのは、わずか数日前のことだった。


 王都に残してきた娘を案じ、旅路を急いだのかもしれない。あちこちで道が崩れて通行できず、遠回りとなりいつもは通らぬ険しい山道を進んでいる途中、再び大雨が降り出したという。雨で白く陰って目の前も見えぬほどの視界となり、前に進むこともできずに一行は山道の中でやり過ごしていたようだ。だがそれに雷が加わった。かすかに聞こえていた遠雷が次第に近づき、やがてひっきりなしに雷鳴がとどろき、光が閃く。おびえた様子の馬たちをなだめていたが、近くに雷が落ちたのをきっかけに暴れはじめたのが、両親が乗った馬車の馬だったという。御者は必至で抑えようとしたそうだが、恐怖で我を忘れた馬たちは暴れ、とうとう道を踏み外し崖の下へと落ちて行った。そして、馬車もまた引きずられるようにして崖下へと転落したのだという。


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