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8、任務遂行、新たな仲間


 まずはぷるるんの任務だ。


 俺はぷるるんを肩の上に乗せ、リーシャと一緒にスライムを探した。


 程なく、樹上にいる緑色のスライムが見つかった。

 スライムの森というだけあって、たくさんいるのだ。


「それじゃぷるるん、頼んだぞ」

「きゅっ」


 ぷるるんは俺の肩から降り、うにゅうにゅと木を登ってスライムへ近づいて行った。

 傍までくると、二匹とも身体を伸ばしてぷにっと触れあった。


「きゅっ」

「きゅん?」

「きゅっ、きゅっ」

「きゅうんっ、きゅう……」

「きゅーきゅー」


「なにを喋ってるんでしょうか」

「うーん、良い天気だね、とか?」

「少なくとも喧嘩しそうな感じではないですね」


 俺とリーシャが見守る中、ぷるるんはスライムと鳴き声を交わしつづけた。


 一分くらい経った頃、二匹はうにゅうぅ、と全身を絡みつけ合ったかと思うと――。


「え!?」

「ひとつになった?」


 ぷるるんとスライムが合体して、一匹になった。


「……ぷるるん?」

「きゅっ!」


 ぷるるんが返事をしてくれた。

 ぷるるんが吸収されたとかいう訳ではなさそうだ。

 見た感じでは、色や身体の大きさは変わっていない。


「どういうことだ?」

「きゅうううう……」


【伝心】でぼんやりとだがわかった。


 どうやら、スライムは自由に合体できるらしい。

 何匹までかはわからないが、とにかくたくさん合体可能だそうだ。


 試しにぷるるんを【診察】すると、


     *

名前:ぷるるん

種族:魔物・森スライム(×2)

主属性:闇

従属性:水

技能:酸弾Lv.1 狂乱Lv.1

*共有能力:隠密Lv.1

*雪宮和也の配下

     *


 となっていた。


「また二匹になることはできるのか?」

「きゅっ」


 ぷるるんの身体がうにゅんっと揺れたかと思うと、またスライムが二匹になった。


 自由に分裂できるっぽいが、個々の意識は保ててるんだろうか……。


「ぷるるん?」

「きゅっ」


 一匹が返事をして、もう一匹はぷるっともしない。

 どちらかに意識が吸収されてひとつになるということはなさそうだ。


「わかった。合体してくれ」


 ぷるるんは再び一匹になった。


「その調子で、この辺にいるスライム全部と合体できるか?」

「きゅー」

「それじゃ任せた。あ、ぷるるんも安全第一だからな。危ないことがあったらすぐに逃げろよ」

「きゅっ」


 ぷるるんは可愛い返事と共に、森の中へ消えていった。


「さて、と。リーシャはさっきいったように召喚術の練習だが……」

「はいっ」

「それは『魔術の基礎』を読んでからだな」

「『魔術の基礎』ですか?」

「うん。俺も魔術については全然知識がないから、一緒に魔術の本を読んで勉強しよう。練習はそれからだ」

「はい」


 俺たちはテントに戻り、リーシャは『魔術の基礎』、俺は『魔術大全』を黙々と読みはじめた。


     *****


【魔術大全】を読んで新たにわかったこと。


 魔術は魔力によって発動する、身体能力とは無関係の技能のことである。

 魔力は神々の生み出す特殊な力のことで、属性によって源となる神が違う。

 そのため、属性が違えば使える技能も異なってくる。


 そして魔術には、ひいては神々の間には相性がある。

 たとえば火系の魔術は水属性の者には使えないか、使えても威力に乏しい。

 逆もまたしかり。


 生活術も例外ではなく、水属性の者が【灯火】を使う場合、火属性の者より多くの魔力を要する。

 火属性の者が【湧水】を使う場合は、やはり水属性の者より多くの魔力を消費する。


 ただし、神々の加護や恩寵により、他属性の魔術をなんら問題なく使えるようになる者もいる。


 等々………………。

 

 本には色々と書かれてあるが、わからないことは無数にあり、まだまだ発展途上のようだ。

 それは元の世界の科学と同様なのだろう。


 またステータスは一定レベル以上の技能をいくつか使用できるようにならない限り、他者はもちろん自身のですら観ることはできない。


 そのため、一般人は聖教会の聖女や神官に鑑定してもらって自身の能力や適性を知り、将来の職業を決める。

 鑑定術や診察術を使える者は珍しくないが、高レベルとなるとやはりそう多くはないし、なにより嘘を吐かれる恐れがある。


 なので、よほどの事情がなければ、普通は聖教会で鑑定してもらうようだ。


     *


 午前中はずっと本を読み続け、昼食を済ませると早速、ふたりで召喚術の練習を始めることにした。


 俺は【召喚Lv.1】を自分に【共有】した。

 妖精さんたちは周りで練習を見守っている。


「まずはリーシャから始めてくれ」

「はい。えーと、呪文は……」

「あ、本を見ていいよ」


 俺は『魔術の基礎』を手渡した。


 どの魔術系技能も完全に身につけるまでは、それぞれの術に応じた呪文を詠唱するものらしい。


 呪文が魔力の流れを定め、どのような現象を引き起こすかを決める。


 その過程を自身の肉体と霊的身体が覚えたら、ユシルがそうしていたように【総物理防御】や【召喚】といったように省略することができる。


 完全無詠唱は簡単なようで実はかなり難しく、できるひとは少ないのだという。

 俺ができるのは、あの女のひとのおかげだろうか。


 ありがたいわー。


「リーシャちゃん、頑張るでち!」

「リーシャちゃんならできるでち!」


 妖精さんたちの声援に微笑みつつ、リーシャが本の該当ページを開けた。

 右手を前へかざして、


「え、えーと……冥府と闇の神・アシュヴィンよ、は、遥か古に為された契約に従い、……えーと、我の許へ、忠実なる僕を、お、おくりゅ……送りたまえ」


 かなりつっかえながら、最後まで呪文を唱えた。


 すると、右手の先に光、ではなく、闇が生まれた。

 最初はピンポン玉くらいの大きさだった闇の球が、徐々に大きくなっていく。


「あ、あの、これ、危ないんじゃ……」

「いや、どうだろ……」


 ふたりでおろおろしている中、闇球の膨張が両手で抱えられるくらいの大きさで止まった。


 そして次の瞬間、


「にゃー」


 闇の中から茶色い毛並みの動物があらわれた。


「………………猫?」

「やだ、すごく……丸いです……」


 リーシャの言葉通り、その猫はかなり丸かった。

 普通の猫より少し大きいかな?

 香箱座りしているその姿は、地面に触れている足と腹の部分を除けば、ほぼ真球に近い。


 とりあえず【診察】してみた。


     *

種族:魔物・丸猫

主属性:闇

従属性:風

技能:モフられLv.1

     *


……なんだこれ?


 モフられってなんだ?

 モフられ方が上手いとか?


 なんにせよ、戦闘ではなんの役にも立ちそうにない。


「丸猫さんでち!」

「可愛いでち!」

「いっぱいなでなでするでち!」


 妖精さんたちがいっせいに丸猫に群がり、その丸いこと極まりない身体をモフったり、ぽむぽむしたりする。

 丸猫は嫌がってはいないようで、おとなしくされるがままになっている。


……かと思いきや、前足で妖精さんの額をぺしっと軽く叩いた。


「あっ、やられたでち!」


 妖精がひとり、ころころと転がった。

 だが、すぐに起き上がって、再び丸猫へ突進していく。

 別の妖精さんが叩かれ、転がってはまた突進してモフモフしたり、ぺしられたりする。

 それが繰り返される。


 丸猫は妖精さんが痛くないように、手加減して叩いているらしい。


 形もそうだが、顔もえらくとぼけている。

 可愛いというより間抜け面だ。

 その見てくれの割りに、気位は高いっぽい。

 まあ、それでも妖精さんたちには可愛いようだし、とても楽しそうでなによりだ。


「召喚術といってもまだレベル1だしこんなもんか。まあ召喚はできたから成功ってことで良さそうだな」

「はい」

「んじゃ、元に戻し……」


 俺がそういいかけた時、


『丸猫を配下にしますか?』


 脳裡におなじみのメッセージが響いた。


「ええーっ!?」

「どうしたんですか?」

「こいつ、俺の配下になりたがってるっぽい」

「カズヤさんの配下に? それじゃ、この丸猫ちゃんもあたしたちと一緒に暮らすってことですか?」

「いや、まだ配下にすると決ま……」

「にゃーっ!」


 丸猫がそのとおりといわんばかりに、俺の言葉を遮って鳴いた。


「可愛い……モフってもいいですか?」


 リーシャは俺に訊いたはずだが、


「にゃっ」


 丸猫が返事をした。


 リーシャは誘われるようにふらふらと丸猫へ近づいていく。


「リーシャちゃんも存分になでなですると良いでち」

「すごく気持ち良いでち」

「これ以上丸いものは他にないでち」


 妖精さんたちが場所を空けると、リーシャは跪いて丸猫の頭を撫で始めた。


「はあああ…………すごく柔らかくてモフモフしてて気持ち良いですー」


 そういうリーシャの顔が、悦びに蕩けてしまっている。


「この撫で心地はやみつきになるでち」

「ああ……この快楽に溺れてしまいそうでち」

「撫でるのをやめられないです……」


 駄目だ。リーシャと妖精さんたちが丸猫に極限まで誑しこまれた。

 丸猫が撫でられながら、俺の方をちらっと見る。


――配下にしたら、あなたにも存分に撫でさせてあげるわよ。


 丸猫の目がそういっていた。


(もしかしたら【モフられ】って、こういう能力なのか!?)


 モフモフさせることで、その魅力に抗えなくする。


 だとしたら……。


 恐ろしい能力だ。


 もしかしたら遠い未来の遥か先で、この能力の役立つ時がくるかもしれない。

 それに、猫科だったらレベルアップすれば、いずれは戦闘能力も期待できるようになるかも……。


 俺は丸猫をじっと見つめた。


 丸猫はとてつもなく丸い身体を、リーシャにひたすらモフられている。

 喉をゴロゴロ鳴らしながらモフられる姿といい、間抜け面といい、どう見ても強くなりそうにない。

 こいつが勇ましく闘っている姿を、どうやっても想像できない。


 丸猫がまた俺を見た。


「にゃー」


――くっ、この野郎、早く配下にしろと催促してきやがる。


「カズヤさんもモフらせてもらったらどうですか? すっごく気持ち良いですよ?」


 そういうリーシャの顔はとても幸せそうだ。


(なんにせよ、リーシャを笑顔にする任務を十二分に果たせるのは間違いなさそうだ)


 どれ、配下にするかどうかは別として、俺もちょっとモフってみるか。


 近づいてモフろうとすると、


「シャーッ!」

「ひっ」


 俺を威嚇してきた。


「ウフフ、駄目ですよ丸猫さん、そんな意地悪しちゃ」

「そうだぞ、おまえは【モフられ】の技能があるんだから、おとなしく俺にモフられろ」


 もう一度、モフろうとすると、


 ぺしっ!


 前足で手を叩かれた。


「………………」

「………………」


 無言で見つめ合う俺と丸猫。


「どうあっても配下にしろということか」

「にゃ」


――――――――――やむを得まい。


「おまえを俺の配下にする」


 俺は宣言した。


『丸猫が配下になりました』


 脳裡にメッセージが響いた。


「やったー、よかったね、丸猫ちゃん!」


 リーシャが大喜びで丸猫を抱きあげた。


 うん、まあ、リーシャがこんなに喜んでくれただけでも、配下にした甲斐があったというものだ。


 で、名前だが……。


「おまえの名前はまるる!」

「にゃー」

「可愛い名前だと思います。これからよろしくね、まるるちゃん」

「「「「「「「「「「よろでち!!!」」」」」」」」」」


「にゃっ」


 早速、まるるに【隠密Lv.1】を共有させてから【診察】した。


     *

名前:まるる

種族:魔物・丸猫

主属性:闇

従属性:風

技能:モフられLv.1

*共有能力:隠密Lv.1

*雪宮和也の配下

     *


「配下にしたことだし、早速【モフられLv.1】の威力を確かめさせてもらうぞ」


 俺は再度、まるるに手を伸ばした。

 今度は抵抗しない。


 モフッとした柔らかな毛並み。


………………うむ、これは確かに気持ちが良い。


 頭から短く丸い尻尾の手前まで撫でおろす。

 毛の中に指が埋まり、動かすとたとえようもなく甘美な感覚が走り抜ける。

 毛の長さを調節することで、この限りない丸さを保っているのだろう。


…………なるほど、これはリーシャと妖精さんたちが誑しこまれるのも無理はない。


 だが――。


 魅了されている感覚はまったくない。

 撫でまわしている現在も、必要とあらばいつでも【配下】を取り消すことができる。

 間違いなく【モフられ】に魅了の効果はない。


「まるる、【モフられ】ってどういう能力なんだ?」

「にゃっ、にゃにゃ、にゃーん」


「………………そうか」


【伝心】で朧げながらわかった。


【モフられ】は誰かがモフってきた時、それがどんなに下手なモフり方であっても、まるる自身が最大限の快楽を得ることができるようにする。


 要はまるる自身が気持ちよくなるための技能ってことか。


 つまり、戦闘や俺たちを守るという点に関しては、まったくなんの役にも立たないということだ。


 くっ、糞すぎる!


 俺はリーシャと妖精さんたちが丸猫を囲んで楽しそうにしている様子にほっこりしつつ、次はもっと強い魔物を配下にできることを願わずにはいられなかった。

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