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4、戦闘終了、そして妖精救出作戦実行

ちょっと長くなり過ぎました。

スマホの方は特に読みづらいかもしれません。

本当にすみません。

「ふーっ、マジでギリギリだったな。皆、大丈夫か?」


 サーキーがそういうなり、その場にぐったりと座りこんだ。


「ああ、なんとかな」

「もう魔力はほとんど残ってないけどね」


 他の者も力尽きたように、その場に膝をついた。

 俺はというと、まだまだ余力があった。


【治療Lv.3】もあと十回は余裕で使えそうだ。


(それも戦闘を他のひとたちがやってくれたからだけど)


 生で観るマジな戦闘はすごい迫力だった。

 当事者なのに現実感がなくて、まるで映画を観ているみたいだった。


「皆、よくやってくれた。礼金ははずませてもらうぞ」


 荷馬車から出てきた商人のカドルーが、満面の笑みでいう。


「ああ、そうしてもらわなきゃ割りにあわねぇ」

「俺たちだけじゃなくて、カズヤにもいくらかやってくれよ。カズヤがいなきゃ間違いなく全滅してたからな」


「【治療Lv.2】を連発してくれたおかげね」

「もちろんだ。カズヤさん、今回は本当に助かりました」

「いえ、勝てたのは皆さんが頑張ったからですよ」


 俺はそうこたえつつ、どうやって妖精さんを助けるか考えていた。


 俺とカドルーを除いて皆、立っているのもやっとの状態だ。

 否、スーラだけは少し余裕がある様子だが、それでも今、新たな魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。


――それこそ、狂乱状態のぷるるんやクモスケがあらわれたら……。


 たぶん、クモスケも【狂乱Lv.1】を共有させられるはずだ。


 あとは狂乱状態のぷるるんとクモスケと意思疎通できるかどうかだけど……。


 いや、できるかどうかじゃない。

 これを逃したら、もうあの妖精さんたちを助ける機会はやってこない。


 俺は決断した。


 現在、カドルーも含めて俺以外全員、妖精さんのいる荷馬車から離れている。

 誰も俺に注意を向けていない。


 俺はさりげなく荷馬車の傍へ寄った。


(ぷるるんは荷馬車の上へ、クモスケは荷馬車から少し離れた位置に行ってくれ。

 どっちも見つからないように気をつけろよ)


【伝心】で命じると、すぐさま、


――了解!(x2)


 と返事が返ってきた。


 正確には「「り!」」といったような意思が、なんとなく伝わってきた感じがしたような……というくらいだったけど。


 ぷるるんとクモスケが服の中からそっと抜け出し、足を伝って地面に降りた。

 ソロソロと荷馬車の下に潜りこむ。


 ぷるるんは荷馬車をうにゅうにゅと登っていき、クモスケはカサカサと遠くへ離れていく。

 クモスケはせいぜい掌の半分くらいの大きさなので、普通に移動していても誰も気づかないだろう。


 ぷるるんが荷馬車の上に辿り着いた。


 よし、まずはぷるるんの【隠密Lv.1】を外して……。


(ぷるるん、狂乱状態になって俺を捕まえろ!)


 え、なんで!? と困惑するのが伝わってきた。


(こんな感じにしたいから……)


 俺は意図していることをイメージし、それをぷるるんとクモスケに伝えてみた。


 わかってくれるかな?……


――きゅっ!

――わしゃっ!


 うん、伝わったっぽい。


 間を置かず、ぷるるんが荷馬車の上で【狂乱Lv.1】を使用した。


「うおっ、なんだありゃ!?」

「あっ、危ない、カズヤ!」


 予定どおり、俺はすぐさま巨大になったぷるるんに捕らえられた。

 首から下をぷるるんの身体に包みこまれる形になっている。

 荷馬車の上で巨大化したおかげで、彼らの目にはぷるるんが実際以上に大きく見えていることだろう。


「くそっ、まだいやがったか」

「カズヤ、今助けるからじっとしてろ! 皆、動けるか」

「ああ、なんとかな」

「狂乱状態でも、スライム一匹くらいならどうとでもなるわ」

「酸弾をよけりゃ、あとはなんとでもなるしな」


 皆がうんざりしながら、慌てた様子もなく立ち上がった。

 実際、スライムはそれくらいの危険度なのだろう。


(ぷるるん、俺の考えていることは伝わってるか?)

――きゅっ!


 お、伝わってる。

 意識まで狂乱状態だったらどうしようかと思ったが、これなら大丈夫そうだ。


 クモスケも少し離れた場所で待機してくれている。


 俺は改めて気を引き締めた。

 上手くやらないと、妖精さんたちが死ぬことになる。


――これが俺の初仕事だ。


(ぷるるん、酸弾だ)


 俺はどう攻撃するかイメージした。

 ぷるるんの身体が大きくへこんだ。


「やっぱりスライムの酸弾は、どこに跳んでくるかわかるから楽でいいな。こいつは俺がやる!」


 サーキーが薄ら笑いすら浮かべながら、ササッとその場を離れて酸弾のコースから外れると、真っ直ぐぷるるんに向かって突き進んだ。


(上手くやってくれよ……)


 俺が祈ると同時に、まだへこんでいる最中のぷるるんの身体の一部、直径三十センチくらいが動きを止めたかと思うと、いきなりプッと酸弾が発射された。


「うおっ!」


 サーキーが慌てて剣の峰で受け止めた。

 砕け散った酸弾の一部が、サーキーの頬を焼いた。


「え、なんで!?」

「おいおい、スライムが酸弾を全部溜め込む前に撃ってくるなんて聞いたことねーぞ」

「しかも撃つ方向まで変えやがった」

「こいつ、普通のスライムと違うわ!」


 うん、俺が指示してるからね。


 ぷるるんは小さな酸弾をさらに七発、彼らに向けて撃った。


「きゃっ」

「うわっ!」

「くそっ、マジか!?」

「まさか、こんなことができるとは……」


 普通のスライムは俺と闘った時のぷるるんと同様に、最大の酸弾を一発ずつ放つものなのだろう。

 にもかかわらず、かなり小さいとはいえ同時に何発も撃ってくることに、俺を除く全員が驚いていた。

 いつどこへ酸弾を撃ってくるかわからないとなると、スライムはかなりやっかいな敵になる。


――少なくとも狂乱状態のスライムは。


「皆さん、逃げてください!」


 俺は当初の予定どおり叫んだ。


「なにをいってる!? おまえひとり置いて逃げられるわけねーだろ!」

「そうよ、さっきはあたしたちが助けられた。今度はこっちが助ける番よ!」

「ですが、このスライムは普通じゃありません。しかも、もう皆さんには闘う余力は残っていないじゃないですか」

「けど……」

「いや、普通じゃなかろうが、体内のどこかにある核さえ撃ち抜けば……」


 ギリクが素早く矢をつがえ放った。


 ズプッ!


 矢がぷるるんの身体にめりこんだが貫くまでには至らず、体内で溶かされていく。


「ちっ、そう簡単にはいかないか」


 スライムの核がどこにあるか、外から見ただけではわからない。

 火系魔術で焼くのが一番効果がありそうだが、ユシルはすでに魔力が尽きている。

 酸による損傷を覚悟で剣や槍を突き入れて、かき回したりすることで核を破壊できそうだが、それも狂乱状態で巨大化したスライム相手では難しい。


 ましてや、矢で核を貫くなど不可能に近い。


「仕方ない。ここは俺が……」


 スーラが右手をぷるるんへ向けてかざした。

 どうやら魔術を放つつもりらしい。


(あ、なんかやばそう)


 さっきの戦闘では剣術のみで闘っていたので、魔術系技能を使えるのはユシルだけだと思っていた。

 火弾とかそれより威力の高い技能を使われたら、ぷるるんが死んでしまうかもしれない。

 ちょっと自信ありげなスーラの様子から、俺は不安を抱かずにはいられなかった。


 だが、


「待て、荷馬車には妖精がいる。下手にスライムを刺激して妖精を酸で溶かされてはたまらん」

「しかし……」

「たしかに、一匹や二匹なら諦めもつくが、一〇匹となるとな」

「そんなこといってる場合じゃないでしょ! このままじゃカズヤが死んでしまうのよ!」


 ユシルはええ娘やな。

 でも、今はありがたくない。


「いいから早く逃げてください! 会ったばかりの俺のために、皆さんまで死ぬことはありません!」

「でも!」

「さっきの戦闘で助けられたんだ。会ったばかりだからって、そう簡単に見捨てられるか!」

「それに、貴重な凄腕の治療術師を死なせるわけにはいかんしな」


 皆、逃げてくれそうにない。

 マジで俺のために命を賭ける気だ。


――――善いひとたちだな。


 なのに、なんであんなに健気で可憐な妖精さんたちを平気で捕まえられるんだろう。

 あとで殺されて薬にされるとわかっているのに。


 いくら不治の病を癒す薬になるとはいえ、罪悪感を抱く様子もなくラッキーだったなどといえるのは普通とは思えない。


(まあ、それがこの世界の常識なんだろうな)


 そもそも、元の世界でも犬や猫を可哀想だなんだといいながら殺処分したり、人間たちの都合の良いように品種改良していることを考えたら、非難できようはずもない。


 まあ、人型で言葉を話す生き物と犬猫を同じに考えることはできないだろうけど……。


 なんにせよ、今はそんなことを考えている余裕はない。

 俺はクモスケに【狂乱Lv.1】を共有させた。


(クモスケ、【狂乱】を使え!)


 待ってましたとばかりにクモスケが【狂乱Lv.1】を発動した。


 途端に、クモスケが巨大化した。

 ぷるるん程ではないが、それでも全長一メートルくらいはある。


 青い産毛に覆われた胴体が美しい。

 しかし、それがかえって見る者に不気味さを感じさせる。


(うわ、でかくなるとマジで怖いわー)


 俺が心の中で呟くと、クモスケがガーンとショックを受けたのが伝わってきた。


 慌てて、


(いや、あのひとたちがそう感じただろうなってことだよ。俺はクモスケのこと、すごく綺麗で強そうで格好良いと思ってるぞ!)


 そういうと、クモスケは嬉しそうに足を何本かわしゃわしゃさせた。


 うん、めっちゃ素直。

 ホント可愛い……。


……っと、ほっこりしている場合じゃない。


「げっ、また新手か」

「今度は令嬢蜘蛛で、やっぱり狂乱状態かよ」

「この分だと、まだまだ出てきそうだな」


 彼らの表情が不安に覆われた。


(クモスケ、糸で誰かひとり身動きできなくさせることはできるか?)


――わしゃわしゃ!(やってみる!)


 そんな感じの意思が伝わると、クモスケの尻側から棘が突き出た。

 その棘が上を向くや否や、びゅるっと糸が吐きだされた。


「あっ!」


 驚きの声が上がった直後、戦斧使いのアルニーの足首に糸が絡みついた。


「アルニー!」


 アルニーが足を引っ張られて、どうっとその場に倒れた。

 さらに糸が次々と吐き出され、巻きついていく。


「させるかよ!」


 サーキーが剣で糸を断ち切っていった。


「令嬢蜘蛛なら……」


 ギリクが矢をつがえた。


(ぷるるん!)


 矢が放たれる前に、ぷるるんが酸弾を跳ばした。


「あうっ」

「ギリク!」


 酸弾がもろにギリクの顔に当たった。

 ユシルが【湧水】で作った水を、ギリクの顔にかけた。


「【治療Lv.1】!」


 俺はすかさずギリクを治療した。


「俺ひとりならまだなんとかなります。だから早く逃げてください!」


 マジで頼む、早くいなくなってくれ!


「でも……」


 でもじゃねぇ!


「カズヤには悪いがここは退くべきだ」


(カドルーナイス!)


「おい、見捨てるつもりか!」


(サーキーの野郎!)


 俺はまたぷるるんに命じた。


 ぷるるんが酸弾を七発撃った。


「うわっ」

「ああっ、い、痛いっ!」

「くっ、へこむ動作もほとんどなしか」


 放った酸弾はピンポン玉くらいの大きさなので、少しへこむだけで充分だったのだ。

 ていうか、下手に大きい酸弾を撃つより、小さいのを何発も連続で放つ方が有効だと思う。


(狂乱状態のスライムを何匹も並べて、スライム砲として使ったらめちゃくちゃ強力だろうな)


 などと考えつつ、【治療Lv.1】で怪我をした者たちを癒していった。


「す、すまん」

「なんてこった。俺たちの方が捕まってるカズヤに助けられてるじゃねーか」

「だからいったのだ! 早く街へ戻って、応援を呼んだ方がいい!」

「くっ……たしかにそうした方がよさそうだ。カズヤ、すまない」

「とにかく早く逃げてください! 俺ももう治療術を使う余裕はありません!」

「わ、わかった。皆、逃げるぞ!」


 ようやく全員、逃げる気になってくれたようだ。

 皆、口々にすまないといいつつ、馬へ駆け寄って騎乗した。


「カズヤ、必ず助けにくる!」

「きっとよ。それまでなんとか生き残って!」

「はい!」


 俺の明るく元気な返事とともに、彼らを乗せた馬が勢いよく駆け出し、あっという間に見えなくなった。



――――――――――ふう。なんとか上手くいったな。


「ぷるるん、降ろしてくれ」


 ぷるるんは荷馬車から降りて、俺を放した。

 俺は荷馬車の中に入り、妖精さんたちの許へ駆け寄った。


「人間さん、どうかしたでちか? やけにうるさかったでちけど」

「なんでもない、もう大丈夫だ。今、助けるよ」


 俺は妖精さんの入った檻を担いで、荷馬車の外へ出た。


「ぷるるん、この檻を酸で溶かせるか? 少しでいい。妖精さんたちが出られるようにできればいいんだ」

「きゅっ」


 狂乱状態のままのぷるるんが、身体をうにゅん、と檻にまとわりつかせた。

 すると、檻がジュウッと音を立てて溶けはじめた。

 程なく、妖精さんが楽に出られるだけの穴が空いた。


「助かったでちー!」

「人間さん、ありがとうでち!」

「スライムさんと蜘蛛さんもありがとうでち!」


 妖精さんたちが手を取り合って喜んでいる。

 それを見ているだけですべての苦労が報われた気がする。


――さて、これからどうしよう。


『赤風』は善いひとたちだった。

 カドルーとスーラも最後まで俺を助けようとしてくれた。

 会って間もない俺のために命を賭けてくれたのだ。


 だが、そんな彼らが妖精さんを捕らえることに、なんの罪の意識も感じていなかった。

 これでは妖精さんを連れて街へ行けるはずがない。


(森の中で生活するしかないか)


 人目を避けるのは妖精さんを守るための絶対条件だ。

 とはいえ、いつまでも森の中で暮らせるはずもない。


 水は【生活】の技能でなんとかなりそうだけど、食料はいずれ自分で確保しなきゃならなくなるし……。


 うーん………………わからん!


(とにかく今は早くここから離れて、できるだけひとが来なさそうなところへ移動しよう。考えるのはそれからだ)


 そう結論づけた。

 その時、


「人間さん、お願いがあるでち」

「お願い?」

「あたしたちをリーシャちゃんの許へ連れていってほしいでち」

「早くしないと、リーシャちゃんが死んじゃうでち!」


「リーシャって?」

「あたしたちの妹でち!」

「リーシャちゃんは怪我をしているでち!」

「早く行かないと死んじゃうでち!」

「お願いでち、早く連れていってくださいでち!」


 妹ということは、リーシャという娘は妖精さんか。


 それは急がねば!


「わかった。で、リーシャちゃんはどこにいるんだ?」

「あっちの方でち」


 妖精さんたちはいっせいに同じ方向を指差した。


「そこへ行くまでどれくらいかかる?」

「わからないでち!」

「いっぱい時間がかかるでち!」

「とにかく急ぐでち!」


 うん、急ごう。


 妖精さんたちはぷるるんかクモスケの上に乗ってもらって、俺は走って……。


 ふと、俺は広場の端に、一頭の馬がいるのに気づいた。

『赤風』たちが乗っていた馬だ。

 忘れていったのだろうか。


(動くのもやっとのひともいたから、ひとり一頭ずつってわけにもいかなかったんだろうな)


 よし、あの馬に乗っていこう。

 あ、でも俺、馬に乗れないわ。


 かといって、あの馬をここに残していくわけにもいかない……か?


 待っていればいずれ『赤風』たちが戻ってくるだろうし、このまま置いておいても……いや、魔物に襲われたら可哀想だ。


 どうするかなあ……。


「ちょっと待ってて」


 俺はそういって馬へと近づいた。

 傍までくると、


『馬を配下にしますか?』


 あの声が響いた。


 お、配下にできるのか。

 だったら……。


『馬が配下になりました』


「名前はルドルフ!」


 Okとばかりに、ルドルフがヒヒーンと嘶いた。


     *

名前:ルドルフ

種族:馬

主属性:光

従属性:地

技能:疾走Lv.1 蹴撃Lv.1

*雪宮和也の配下

     *


 魔物じゃないんだな……って、それもそうか。


「ルドルフ、俺たちを乗せて走ってくれるか?」

「ヒヒーン!」


 元気な返事。


「俺、馬に乗ったことないんだけど大丈夫か?」

「ヒヒンッ!」


 大丈夫といってるっぽい。

 どっちみち、ルドルフに乗っていく以外、選択肢はなさそうだ。

 よし、全員ルドルフに乗って、リーシャちゃんの許へ急ごう。


――けど、その前に……。


 俺は再び荷馬車の中へ入った。


【灯火】で中を照らすと、隅に置かれていた何冊かの本を手に取った。


(さっき入った時から気になってたんだよなあ)


『魔術大全』『魔術の基礎』『ユーディラハ大陸の歴史と神話』――。


 宗教詩集や民話集なんかもある。

 じっくり選別している時間はないので、なんとなく今後に役立ちそうなものを何冊か適当に【収納】した。


(他に宝石とか怪しげな魔道具っぽいものとか、値段の高そうなのもあるけど……)


 俺は窃盗をしたいわけじゃない。


 といっても、本と剣を持っていくだけでも盗みを働いたのと同じことなので偽善的ではあるが。


(それに、後で商人たちが戻ってきて、荷馬車の中のものがごっそりなくなってたら変に思うだろうし)


 すべて俺が仕組んだことだと思われたらやばいことになる。

 だから、あえて本も何冊か残した。


「ぷるるん、荷馬車を溶かしてくれ。全部じゃなくていい」


 俺は荷馬車を出ていった。


 ぷるるんは荷馬車全体を身体で包み込み、ジュウッと酸で溶かしはじめた。

 しばらくして、俺は止めさせた。


 ぷるるんが狂乱状態を解いて、元の愛らしい姿に戻った。

 荷馬車と中に積まれた雑多な荷物は、あちこち溶けてボロボロになっていた。


 中には完全に溶けて消えてしまったものもある。

 妖精さんを閉じ込めていた檻も、ほぼ溶けて無くなった。


――これで俺が盗んだと疑われずにすむだろう。


「それじゃ、リーシャちゃんを助けにいくか」

「「「「助けるでち!」」」」

「「「急ぐでち!」」」

「「「「「疾きこと風の如しでち!」」」」」


 妖精さんたちがテテテテテーッと走り出す。


「あ、待って。馬に乗っていくから」


 俺はぷるるんをルドルフの首に張りつかせ、妖精さんたちをそこにつかまらせた。

 というより、ぷるるんにつかまえてもらった。


 続いて、俺がルドルフに乗った。

 クモスケは俺の懐の中にいる。


「あ、くすぐったいからじっとしててな」


 俺がそういうと、クモスケは素直にじっとしてくれた。


「ルドルフ、最初はゆっくりで頼む」

「ヒヒーンッ」



 嘶きと共に、ルドルフが歩を進めた。


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