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16、ゴブリンとの契約

「よし、これで皆、俺の配下になった。んで、次は契約なんだけど……」


 結べる契約はひとつだけ。


 無条件絶対服従にすれば安心なんだろうとは思う。

 が、正直なところどんな邪悪な魔物でも、奴隷のようにガチガチに縛りつけるようなことはしたくない。


 当面の間は、この三匹とその仲間のゴブリンが、俺たちに危害を加えないようにできればいい。

 さらに仲間のゴブリン全員を味方に引き入れられれば良いんだけど、それはまあ後でゆっくり考えよう。


 となると……。


(俺の配下になった者を、危険にさらすような行動はとらないこと)


 これで良いかな。


 そう決めると、脳裡に、


『「雪宮和也の配下になった者を、危険にさらすような行動はとらないこと」が契約条件で良いですか?』


「うん」


『「雪宮和也の配下になった者を、危険にさらすような行動はとらないこと」が契約条件です。契約を結びますか?』


「結ぶ」


「「「ゴ、ゴブ!?」」」


 ゴブリンたちの頭にも同じメッセージが流れたらしく、三匹が同時に驚きの声をあげた。


「契約を結ぶといえ」

「け、契約を結ぶゴブ」

「「ゴブ!」」


『契約が締結されました。以後、この契約は雪宮和也が破棄するまで有効となります』


「これでもしおまえたちが、仲間のゴブリンを連れて俺たちを襲ってきたら、自動的に処刑魔術が発動して、苦しみに満ちた死に見舞われることになる。わかったか?」

「わ、わかってるゴブ。そんなに脅さないでほしいゴブ」

「ゴブリンは繊細な種族ゴブ」


「たとえば、他の人間や魔物に俺たちのことを教えるのも駄目だぞ」

「なんでゴブ?」

「そいつらが俺たちから、妖精さんたちや金目の物を奪おうと襲ってくるもしれないだろ?」

「た、たしかにゴブ」

「でもこれじゃ、なにをするのも怖くて仕方ないゴブ」


「俺たちを守ることを第一に考えて行動すれば良いんだよ。たとえば、俺たちのことを仲間のゴブリンに話すのは大丈夫だと思うか?」

「大丈夫のはずゴブ。皆、気の善い奴らゴブ」

「おまえたちを襲えばゴブたちが死ぬとわかれば、なにもしないゴブ」


「本当か? 中にはおまえらの言葉を信じないで、ここへ襲いにくる奴がいるんじゃないか? 特に人間の女がいるとわかればなおさらじゃないか?」

「……そうかもしれないゴブ」

「おまえたちのことは誰にも話さないゴブ」


「まあ、とにかく慎重に行動してくれ。一応、契約に反した行動をとろうとすると、警告が発せられるらしいから大丈夫だとは思うけど……。他には別にあれをやれこれをやれとかいって命令するつもりはないから」

「「「わかったゴブ」」」


「よし、それじゃ解放してやってくれ」


 俺がいうと、スライムはみるみるうちに小さくなって、ゴブリンから離れた。


「自由ゴブ!」

「いっぱい顔を掻けるゴブ!」

「気持ち良いゴブ!」


 3匹は思い思いに伸びをしたり、顔を掻きむしったりした。


「良かったでち! ゴブリンさんが友達になったでち!」

「これでゴブス〇ごっこができるでち!」


「ゴブ〇レごっこはやりたくないゴブ」

「〇ブスレは嫌いゴブ」


「えっ!? おまえら、ゴブリンスレ〇ヤーは嫌いか? なんでだ? めちゃくちゃ面白いじゃないか」

「嫌いに決まってるゴブ!」

「あの本は嘘ばっかり書いてるゴブ!」


「今、目の前に作者の中のひとがいたら、グーで顔を殴ってるゴブ!」

「ゴブは三発殴るゴブ!」

「ゴブは五発ゴブ!」

「作者の中のひとがッ、泣くまで、殴るのをやめないゴブッ!」

「グーは痛いから、やめて差し上げてくれ」


 思わず普通に対応してしまった。


 けど、なんで妖精さんもゴブリンたちも、ゴ〇スレを知ってるんだろう……。


 いくらなんでも、異世界設定を無視し過ぎなんじゃないかと思うんだけど―?


 妖精さんだけでなく、ゴブリンも謎が多そうだ。


「じゃあ、〇ブスレ外伝ごっこをやるでち!」

「外伝も嫌ゴブ!」

「そもそも外伝でも〇ブスレに変わりないゴブ!」


「うるせーでち、いいからやるでち!」

「どこかからオーガさんを連れてきて、ゴブ〇レ役をやってもらうでち!」


「………………さっきは殺そうとしてすまなかったゴブ」

「心から謝罪するゴブ」

「だから許してくださいゴブ」

「別に怒ってないでち」

「もう許してるでち」

「妖精は優しい種族でち」


 うん、さすが妖精さんたちだ。

 ゴブリンとあっという間に仲良くなった。


「あ、そうだ。おまえらの名前なんだが……」

「名前がどうかしたゴブか?」

「ああ、さっき【診察】したら、名前が「む」「は」「ぴ」ってなってたんだが、これはなんだ?」

「なにかおかしいゴブか?」

「ゴブリンにはよくある名前ゴブ」

「けど、一文字一音って単純すぎないか?」


「ゴブリンはすぐ死ぬゴブ。だから複雑な名前を考えても仕方ないゴブ」

「人間みたいに○○家とか一族とか、そんなのないゴブ」

「あ、そうですか」


 また責められそうなので、それ以上訊くのを止めた。


「でも、それじゃ俺には違和感があるから、ぷるるんやクモスケみたいに名前をつけたいんだけど」

「どうでも良いゴブ」

「つけたいならつけろゴブ」


「ん、じゃあ右から「ゴブイチ」「ゴブジ」「ゴブゾウ」」


 俺は超適当に名付けた。

 すると、ゴブリンが愕然となった。


「あ、やっぱ駄目? すまんすまん。別のを考え……」

「い、いや、待てゴブ!」

「これで良いゴブ!」

「というか、本当にこんな高貴な名前もらって良いゴブか?」


「高貴? えっと……気に入ってくれたのかな?」

「気に入ったゴブ! もう変えたいといっても許さないゴブ!」

「ゴブイチ……素晴らしい響きゴブ」

「ゴブゾウも最高ゴブ」

「そ、そうなのか……喜んでもらえてなによりです」


 たぶん『ゴブ』ってついてたら、なんでも良いんだろう。


 ゴブリンの価値観はよくわかんねーなあ。


 と思ったら、一匹だけ不満げな顔をしているゴブリンがいた。


「チョ、マテヨゴブ!」


 ゴブジと名付けたゴブリンだ。


「どうかしたか?」

「なんでゴブだけ三文字三音ゴブ?」

「どういうことだ?」

「ゴブイチとゴブゾウはどっちも四文字四音ゴブ。ゴブだけ三文字三音、これはどう考えても不公平ゴブ!」

「それ、そんな気にすることか?」

「気にするゴブ! 絶対おかしいゴブ!」


「カズヤとかいったゴブな? ゴブたちもおかしいと思うゴブ」

「プラゴブをないがしろにしちゃ駄目ゴブ」

「プラゴ?……あ、ゴブリンのプライドか。文字と音の数って、そんなに大事なの?」


「「「ゴブ!」」」


 うーん、わけのわからんこだわりだなあ。


「それじゃ、ゴブジーでどうだ?」


 すると、途端にパアッと顔が明るくなって、


「ゴブジー、良い名前ゴブ! 気に入ったゴブ!」

「良かったゴブな、ぴ……いや、ゴブジー!」

「ゴブたちはズッ友ゴブ!」


 皆、喜び合っている。

 ホント、いちいち面倒くさいわー。


「カズヤさん、ゴブリンさんたちにもなにか技能を【共有】してもらったらどうですか?」

「そうだな」


 俺は【共有】について説明した。


「たぶん【隠密】と【剛力】ならいけると思うんだけど、どっちが良い?」

「ゴブは【剛力】が良いゴブ!」

「「ゴブも!」」


「いや、できればひとりは【隠密】を持っててくれ。いざという時、わずかでも気配を消せるのはかなり助けになると思うんだ。たとえばオークから逃げる時とか役立つと思わないか?」

「たしかにおまえのいうこともわかるゴブ」

「【剛力】で闘うより、【隠密】で逃げる方が安全かもしれないゴブ」

「じゃあ、ゴブは【隠密】にするゴブ!」

「「ゴブも!」」


「だから、全員同じじゃなくても良いだろ? 【共有】のレベルが上がれば、両方持てるようになるんだし、今はどちらかひとつを選べ」

「「「ゴブー……」」」


 しばらく話しあった後、ゴブイチとゴブジーが【剛力】、ゴブゾウが【隠密】を持つことになった。

 俺はゴブイチを【診察】した。


     *

名前:ゴブイチ

種族:魔物・ゴブリン

主属性:闇

従属性:火

技能:繁殖Lv.3 剣術Lv.1

*共有能力:剛力Lv.1

*雪宮和也の配下

     *


 お、名前もちゃんと変わってる。

 共有能力もちゃんとついている。

 ゴブジーも問題なし、と。


 ゴブゾウを【診察】すると、こちらもちゃんと【隠密】を共有できていた。


「ちょっと【剛力】を試すゴブ。ふたゴブともこの上に乗るゴブ」


 ゴブイチがしゃがんで両手を差し出した。

 他の二匹がその上に足を乗せた。

 ゴブイチは両手を上下に動かした。


「おい、これを見ろゴブ! 簡単に持ち上げられるゴブ!」


 二匹を乗せたまま立ち上がり、両手を高々と上げた。


「む、じゃなくてゴブイチ、凄いゴブ! これならオリバに勝てるゴブ!」

「さっそく刑務所に乗りこむゴブ!」

「まずはゲバルの野郎をぶちのめすゴブ!」


――ゴブリンはすぐ調子に乗るなあ。


 よーく注意しておかないとやばい。


 自分たちの強さを勘違いして、オークやオーガを襲いに行きかねない。


「きみたち、オリバやゲバルはいいけど、オークやオーガのような格上の魔物や人間と闘っちゃ駄目だからな」

「えー、なんでゴブ?」

「今なら勝てるゴブ」

「それじゃ試しにスライムと闘ってみるか?」


 俺は傍にいる土スライムに、狂乱状態になるよう命じた。


「きゅっ」


 土スライムはたちまち巨大化した。


「こ、こんなのずるいゴブ!」

「こんなおっきなスライム、めったにいないゴブ!」

「オークとオーガも勝てないゴブ!」

「オークはともかく、オーガなら対等に戦えるんじゃないか?」


 俺が指示していたらわからないけど、そうでなければオーガなら狂乱状態のスライムと渡りあえる。


 少なくとも『わくわく魔物大百科』を読む限りではそのはずだ。


「ゴ……ブ……」

「たしかに……オーガはオリバに力比べで勝ってたゴブ」

「仕方ないゴブ。オリバとゲバルをいじめるのはやめておいてやるゴブ」

「運の良い奴らゴブ」


 そういうゴブリンたちの身体が震えていた。

 それくらい臆病になっていてくれた方が安心できる。


 もっともこの分だと忠告しなくても、いざオークやオーガを目の前にすると、我先に逃げ出すと思うけど。


「なにか頼みたいことがあったら【伝心】で連絡する。それと、そっちもなにか俺たちに頼みたいことなんかがあれば【伝心】で俺にいってくれ」

「わかったゴブ」

「用がなくても、俺たちに会いにきてもいいんだぞ。たまにはまるるを見たいだろ?」


「え、いいゴブか?」

「いつでも来てください。もうゴブリンさんたちも私たちのお友達ですから。まるるちゃんも歓迎するわよね?」

「にゅっ」


「ゴブ……丸猫さま……」

「なんとありがたい……今日という日を決して忘れないゴブ」

「丸猫さまの御傍を離れるのは辛いゴブ……」


「あ、そういえば、おまえらはどこに住んでるんだ?」

「北の砂丘にある地下迷宮ゴブ」

「やや西寄りゴブ」

「今は魔力が尽きて魔物はいないゴブ」

「もともとはオークに追われて逃げこんだゴブ」


「へー、地下迷宮か。そこにゴブリンは何匹いるんだ?」

「何匹じゃなくて何ゴブといってほしいゴブ」


 面倒くさいわー。


「あ、はい。何ゴブいるんだ?」

「五〇ゴブくらいゴブ」

「前は五〇〇くらいいたゴブ」

「大方、オークとオークの使役する超森鼠に殺されたゴブ」


「超森鼠?」

「めちゃくちゃでかい森鼠ゴブ」

「オークはそれをいっぱい飼い慣らしてるゴブ」

「オークは鼠を飼うのか。『わくわく魔物大百科』には書いてなかったな」

「普通は飼わないゴブ。あのオークの群れがおかしいゴブ」


「そうなのか……おまえらがその地下迷宮に逃げてきたのって最近か?」

「二日前ゴブ」

「それで周囲を探索してたゴブ」

「そのおかげで丸猫さまに出会えたゴブ」

「アシュヴィンさまに感謝するゴブ」


「そのオークの群れが、ゴブリンの住む地下迷宮やスライムの森まで来るなんてことは……」

「大丈夫ゴブ」

「砂丘には逃げ足の速い砂鼠くらいしか獲物がいないし、この森はスライムがたくさんいるから嫌がるゴブ」

「来る理由がないゴブ」

「だから安心ゴブ」


「そうか。けど、一応警戒はしておけよ。オークを見かけたら、すぐ俺に連絡してくれ」

「わかったゴブ」


 聞いておいて良かった。

 スライムの森にこれて幸運だったな。

 これからはもっとスライムを大切にしよう。


 それにしても、オークの群れか……。


 もしここへきたら、これまでのように侵入者がいなくなるまで安全な場所に移動し続ける、という対処法ではやり過ごせないかもしれない。


 やらなきゃいけないことが多すぎて、頭が痛いなあ。


 まあ、やることが多いのは今に始まったことじゃない。

 どこまで役に立ってくれるかは未知数だが、とにもかくにも仲間が増えた。



 その事実を喜ぼう。

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