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13、少女の事情と魔物の襲来

「この方角で良いのか?」


「「「「「「「「「「良いでち」」」」」」」」」」


 妖精さんたちは自信たっぷりだ。


「ぷるるん?」


 俺はぷるるんにも確かめてみた。


 ぷるるんは【伝心】を使わなくても、一度合体したスライムとは、たとえ距離がどれほど離れていようとも、瞬時に意思の疎通ができる。


 なので、少女の近くにいるスライムに位置を確認してもらったのだ。


「きゅっ」


 問題ないらしい。

 危険な魔物もいないらしいので、それほど急ぐ必要もなさそうだ。


 俺はリーシャにとって無理のない速度で歩を進めていく。


 しばらくして魔物を見張っていたスライムから【伝心】があった。


(……そうか)


 三匹の魔物が、少しずつ少女に近づいている。

 今のところ、まだどちらも相手の存在に気づいていないらしい。


(もし、魔物が女の子を襲うようなことがあれば、そうなる前に追い払ってくれ)


 俺はイメージで伝えた。


――きゅーー……。


 うまく伝わった……のかな?


 こういう時、かなりもどかしい。

【伝心】のレベルアップが不可欠だ。


「魔物が女の子に近づいている」

「えっ、大丈夫なんですか!?」

「ああ、まだ余裕はある。念のため、今のうちに俺とリーシャに【剛力Lv.1】を【共有】させておくよ」

「は、はい、頑張ります!」


「いや、リーシャが闘うことにはならないと思うから心配はいらないよ」

「……できればそう願います」

「うん、マジで大丈夫だから。それじゃ急ごう」


「はい!」

「「「「「「「「「「頼んだでち!」」」」」」」」」」


 俺たちは足場の悪い森の中を、小走りで駆けて行った。

 二〇数分後、


「もうすぐでち!」

「女の子はあそこにいるでち!」


 妖精たちが小さく叫ぶと同時に、


「きゃあっ、こ、来ないで!」


 少女の声が聞こえた。


(魔物に襲われた!?)


 俺は【伝心】でスライムに訊いた。


 違うらしい。


 とにかく声のした方向へ急ぎ駆けつけた。

 木々のまばらなひらけた場所の中央に、少女の姿を見つけた。


 茂みの陰から覗いた。

 少女の周囲にスライムが数匹いる。


 どうやら、俺の指示で少女を守ろうと近づいたスライムたちに怯えているらしい。


 少女には似合わない無骨な剣でスライムを突き刺そうとするが、腰が引けているため、剣先が触れることすらない。


(怯えているから、少し離れてやってくれ)


「「「「「「きゅっ」」」」」」


 スライムたちが愛らしい鳴き声と共に、うにゅうにゅと少女から距離をとった。


 少女はビクッとしたが、スライムが離れたことに少し安心したのか、剣で突くのを止めた。

 しかし、まだ剣は構えたままだ。


 俺とリーシャは妖精さん、クモスケとカブトン、まるるを地面に降ろした。


 ぷるるんには女の子に気づかれないよう、リーシャの背中にくっついておいてもらうことにした。


(いざという時は守ってやってくれ)


――きゅっ。


「まず俺とリーシャがあの女の子と話してくるから、皆はここでじっとしててくれ。俺が良いっていうまで出てきちゃ駄目だぞ」


「わかったでち」

「まかせたでち」

「「「「「「「「でち」」」」」」」」


 俺とリーシャは茂みから出た。


「誰!?」


 少女がこっちを見た。


「大丈夫、怪しい者じゃないよ」

「そのとおりです。安心してください」


 俺は努めて穏やかにいった。


 リーシャを見て警戒心が緩んだのか、こちらに向いた剣先が少し下がった。

 俺ひとりだともっと警戒されていただろう。


 リーシャがまだ一二歳の女の子ってだけじゃなくて、なんというか、ほんわかした雰囲気をしてるから、警戒心を抱きようがないんだよな。


(見たところ、一六、七歳ってとこか)


 焦燥した表情に、やや荒い呼吸。


 顔立ちは充分に美少女と呼べるほどだが、普段なら綺麗に整えられているであろう長い栗色の髪は、だいぶ乱れている。


 どう見ても弱いとはいえ魔物がいる森に、ひとりで剣を持って訪れるようなタイプとは思えない。


「誰なの?」

「俺はカズヤ・ユキミヤ、この娘がリーシャ。訳あってこの森に住んでいるんだ」

「この森に!? そ、それじゃ、この辺で妖精を見なかった!?」


 少女が縋るような表情になった。


(やっぱりなあ。冒険者でもない女の子がわざわざこの森に来るってことは、もうそれしかないよな)


 想像どおり、身近なひとが妖魔憑きになったのだろう。

 ともあれ、まずは話を聞こう。


「その前に、きみの名前を教えてくれないか?」

「私はアーシュ。アーシュ、・ディティヤよ。それより早く教えて! 妖精はどこにいるの!?」


「そう焦らないで。どうして妖精を探してるんだい?」

「三日前、一〇歳の妹が妖魔憑きになったの。けど、家には妖精薬を買うお金なんかないし……。そんな時、スライムの森で妖精が何匹も見つかったって話を聞いて探しにきたのよ。

 ねぇ、お願い。妖精の居場所を知っているなら教えて! 早くしないとアーディが死んじゃうの!」


――想像したまんまだ。


 可哀想だけど、妖精さんたちの存在を教えるわけにはいかない。

 とはいえ、このまま追い返したとしても、妖精さんたちがそれを許さないだろう。


 つーか全員、自分から捕まって妖精薬になるといいだしかねない。

 否、間違いなくいうだろう。


「カズヤさん、このひととアーディちゃんが可哀想です」

「ああ、うん、そうだね」

「助けてあげてください!」


 それを聞いて、少女がハッとなった。


「やっぱり妖精がいるのね!? お願い、なんでもするから妖精を譲って!」

「いや、ちょっと落ち着いて。別にリーシャは妖精薬で助かったわけじゃないからね」

「え!? その娘も妖魔憑きだったの?」

「はい。けど、カズヤさんに治してもらいました」


「どうやって? 妖魔憑きは治療術じゃ治せないのに……ねぇ、妖精がいるんでしょ? それとも、妖精薬を持ってるの? だったら私にちょうだい! あなたの望みどおり奴隷にでもなんにでもなるから!」


「だから落ち着いて! 俺は奴隷なんてほしくないから!」


 下手すると、少女はこの場で今すぐ服を脱ぎだしかねない。


 この様子だと、もし妖精さんを諦めさせることができたとしても、後で思い切り恨まれてやばいことになるに違いない。


――となると、解決法はこれしかないだろう。


「妖魔憑きは俺の治……」


 いいかけた時、スライムから【伝心】があった。


「……魔物がすぐ傍にきてる!?」

「えっ、魔物!? なんなの、急に!?」


 俺の言葉にビクッとなる少女。


【伝心】を知らない者から見たら、目の前の見知らぬ男が突然、わけのわからない独り言をつぶやいたようなものなのだ。

 驚くのも当然だろう。


「【伝心】という技能で、ここに魔物が三匹近づいてるって仲間から連絡があったんだ。あ、でも心配しなくていいよ。めちゃくちゃ弱い魔物らしいから」


 念のため、クモスケとカブトンにいつでも飛びだせるよう、話をしている間に少女の近くの木にこっそり移動してもらっていた。


【隠密Lv.1】を発動中だから、少女に気づかれる心配はない。


 俺は葉蔭で指示どおり様子をうかがっている二匹へ、ちらっと目を向けた。


 その時、少女の背後の茂みがガサッと揺れた。

 次の瞬間いきなり当の魔物があらわれた。


「きゃあっ!」


 少女が後ろを振り向き、驚いて尻もちをついた。


 さっき少女を怯えさせたスライムがうにゅうにゅと移動して、彼女を守るように魔物との間へ割って入った。


 三匹の魔物はそれを見て、侮るような笑みを浮かべた。

 俺とリーシャ、少女を見て、その笑みがさらに大きくなった。


 戦闘などできそうにない少女二人と、武器を持っていない俺、それにスライムが何匹いようと相手ではないと思っているのだろう。


 対して、俺は冷静だった。

 なぜなら……。


――これ……ゴブリンだよな?


 身長一五〇センチもないような小さな身体に、緑色がかった肌。

『わくわく魔物大百科』で見たイラストそっくりだ。


 ゴブリンは弱い。

 めちゃくちゃ弱い。


 『わくわく魔物大百科』にそう書いてあった。

 だからこそ、ゴブリンは群れを成して闘う。


 ゴブリンの武器は数であり、それを支える繁殖力だ。

 しかし今、目の前にいるのはわずか三匹。

 怯えなきゃならない理由は皆無だ。


 見たところ、剣の他に武器は持っていないようだ。

 弓矢とか持ってたらちょっと怖かったな。


【診察】してみた。


     *

名前:む

種族:魔物・ゴブリン

主属性:闇

従属性:火

技能:繁殖Lv.3 剣術Lv.1

     *


 名前が「む」ってどういうことだろう。

 ステータスのバグかな。


 技能は【剣術Lv.1】だけか。

 魔術はないし……【繁殖Lv3】って凄いな。

 さすがはゴブリンってとこか。


 他の二匹も診てみた。


 どれもステータスは変わらなかった。

 名前は「は」と「ぴ」――。


 マジでどういうことなんだろう。

 名前の部分だけ隠蔽効果のある術がかかってるとか?


 うーん………………後で考えよう。


 追い払うより、ここで殺してしまった方が良いのかな。

 逃がしたら何百って数で襲ってきそうだしな。


 けど魔物とはいえ、人間によく似た姿の生き物を殺すのは抵抗があるなあ。


 ここにいるスライム全員、狂乱状態になってもらって、襲うどころか森の中に一歩でも入ったら駄目だと思うくらい怖がらせるか。


――などと考えていると、ゴブリンたちがスライムに向かって剣を振り下ろした。


 べちゃっ!


 斬るのではなく、剣の側面で叩きつけてきた。

 スライムは当たった部分が大きくへこみ、ふたつに分かれた。


「あっ!」

「スライムさん!」


(ぷるるん、大丈夫なのか?)


――きゅっ。


「リーシャ、大丈夫らしいよ。ほら」


 二つになったスライムの身体が互いにうねうねと絡み合って、またひとつになった。

 核は無事だったらしい。

 だが何度もやられたら、いつかは潰されてしまうかもしれない。

 万が一ということもあるし、その前に倒そう。


 俺は【伝心】でスライムに【狂乱状態Lv.1】発動を指示しようとした。


 だが、


「ゴブリンさん、止めるでち!」

「話せばわかるでち!」

「皆、友達でち!」


 妖精たちがいっせいにテテテテーッと跳びだしてきた。


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