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11、それぞれの一〇日間、クモスケのお友達

 俺とリーシャは召喚術の練習と魔術の本を熟読。

 時々、ぷるるんと妖精さんの案内で周囲の探索。


 ぷるるんは同族との合体。

 クモスケは捕食とレベルアップ。

 ルドルフは自身の餌の確保と見回り。

 まるるは妖精とリーシャ、たまに俺にモフられる。

 妖精さんは俺とリーシャの目に見えるところで遊ぶ。


 これがここ十日間で行ったそれぞれの日課だった。

 その結果、ぷるるんが森一帯にいるスライムすべてと合体・レベルアップした。


 早速【狂乱Lv.3】を試してみた。


 Lv.1は一匹でも可能だが、Lv.2は百匹以上、Lv.3だと四百匹以上合体していないと使用できない。


 【狂乱】は文字通り意識が狂乱状態に陥るため、【伝心】でコントロールされなければ、秩序だった行動はできない。


 だが、レベルが上がるごとに狂乱の度合いが減っていく。

 Lv.3だと多少、攻撃偏重ではあるものの、かなり理性的な攻防ができるようになる。


 つまり、俺が【伝心】で細かく指示しなくても「こんな感じで行動してくれ」と大雑把に任せるだけで、それなりに闘えそうだってことだ。


 さらに千、二千と合体数が増えれば、四百匹ずつ分裂させて一匹は俺が細かく指示し、あとは個々に任せるということもできる。


 そうなると、俺たちは相手にとってかなりやっかいな敵になれるだろう。


 また、冒険者らしき者たちがこの辺に現れた時は、ぷるるんと合体・分裂したスライムたちが、彼らの位置を教えてくれた。


 そうすると、俺はただちにテントをはじめ、ひとが住んでいることをうかがわせるような物すべてを【収納】し、皆を連れて彼らから距離をとった。


 冒険者たちのレベルも低かったのだろう。

 皆、こちらの存在に気づくことなく、陽が落ちる前には去っていった。


 そんなことが何度かあった。


 ドキドキものだったけど良い避難訓練になったし、ともすると、妖精さんやぷるるんたちの可愛さで心が和み、気が緩んでしまいそうなところを、程良く引き締めることができたと思う。


(実際、まだ全然、安心できる状況じゃないんだよな)


 俺もレベルアップしたいけど、そのためには魔物と闘わなきゃいけないしなあ。


 魔物と闘って倒せば、魔物の持つ魔力が、倒した者の身体に吸収される。


 ちなみに、身体といっても肉体だけでなく、幽体とか霊体とか呼ばれるような、目に見えない微細な身体も含む。


 そうすることでレベルアップする。

 ぷるるんが合体で進化・レベルアップしたのも同じ理屈だ。


(けどなあ……)


 俺は商人の護衛と『赤風』たちとともに、魔物と闘った時のことを思い出した。


 自身は後方で治療術をかけるだけで、直接、剣を振るったり攻撃を受け止めたりすることはなかった。


 それに加えて、あの時はこちらの世界にきたばかりで現実感がなく、夢見心地だった。

 そのせいか、不思議とあまり恐怖心は感じなかった。


 もちろん、まだまだ治療術を使う余裕があったことと、『赤風』と護衛のスーラが頑張ってくれたおかげでもあった。


 しかし、常に怪我人も死者も出さずに戦闘を終えられるはずがないことは、いくら夢見心地が続いていたとしても、容易に想像できる。


(ぷるるんと闘った時だって【狂乱Lv.3】だったら、あんなに簡単に勝てなかっただろうしな。いや、普通に負けて酸で溶かされてたよなあ)


 そう思うと、魔物と闘ってレベルアップするぞー、なんて簡単にいえない。


 闘って怪我したら嫌だもんな。


 怪我だけじゃなくて、死んだりしたら最悪だ。


 痛いの嫌だなあ。

 死ぬの怖いなあ。

 怖いのやだなあ。

 ぷるるんやクモスケたちにも、できるだけ闘わせたくないなあ。


 死んだら哀しいもんなあ……。


――ああ、くそっ。だからといって、妖精さんとリーシャを守るためにはそんなこといってられないよな。


 ぷるるんやクモスケ、カブトン、ルドルフ、それにぷるるんと合体してくれたスライムたちも守ってやりたい。


 俺は皆の前では意識してのほほんとしているようにふるまいつつ、頭の中ではこれからどうやって安全を確保していくか、いつも考えていた。


――とにかく配下を増やさないとな。それもとびきり強いのがほしい。


 人間で配下になってくれるひとが、あらわれてくれんもんかなあ。


 妖精さんが狩られて薬にされていることに義憤を抱き、各地を放浪して妖精さんを守って廻っているような、魔術や武術の達人が迷い込んできてくれればいいのに。



――――――などと考えていた十日目の夕方、クモスケは俺が初めて見る魔物を連れてきた。


「なんだ、そいつは?」

 わしゃわしゃ。


【伝心】で送られてきたイメージはこうだった。


     *


 いつものようにハンティングしていると、見慣れない魔物があらわれた。

 強くなるには死闘を繰り返さなければならない。

 そのための相手としておあつらえむきだ。


 魔物に襲いかかった。


 相手は強く、なかなか勝負はつかなかった。

 互いに傷ついてボロボロになり、陽が傾きはじめたところで闘いを止めた。

 互いに強さを認め合ったのだ。


 そうして友達になった。


     *


「んー、そうか。頑張ったんだな」


 で、その友達だが……。


     *

種族:魔物・闇甲虫

主属性:闇

従属性:地

技能:剛力Lv.1

     *


 うん、見事にカブトムシだ。


 形と大きさは日本でよく見かけたカブトムシのオスそのものである。


 色は俺の知っているカブトムシより遥かに黒い。

 まさに闇甲虫という名が示すとおり闇一色だ。


 その辺は闇猿と一緒だな。


「とりあえず治療しようか」


 俺はクモスケとカブトムシを治療した。

 すると、クモスケが、


 わしゃわしゃ……。


「え? こいつを配下にしろって?」

 わしゃっ!


「おまえは俺の配下になりたいか?」


 俺がそういうと、カブトムシは長く伸びたツノを誇らしげにクイッと上げた。


「なりたいってことでいいのか?」


 クイッ!

 わしゃわしゃ。


 クモスケが通訳してくれた。


 なりたいらしい。


「わかった」


 すると、脳内に『闇甲虫を配下にしますか?』の声。

 する、と返事をした。


『闇甲虫が配下になりました』


「おまえの名前はカブトン!」

 クイックイッ!


 どうやら気に入ってくれたらしい。


 クモスケがよかったなといわんばかりに、カブトンの背中をわしゃわしゃと撫でた。


 そこへ、少し離れた場所で召喚術の練習をしていたリーシャと妖精さん、まるるたちが帰ってきた。


「あれ? そのカブトムシさん、どうしたんですか?」

「クモスケが連れてきたから配下にした」

「えっ、お仲間になったんですか!?」

「うん。名前はカブトンだ」

「そうですか。よろしくね、カブトンちゃん」


 クイッ!


「カブトンちゃん、よろしくでち!」

「「「「「「「「「でち!!!!!!!!!」」」」」」」」」


 クイイッ!


「にゃー」

「きゅっ」


 ク、クィィ……。


 カブトンはまるるとぷるるんに少しビクビクしつつツノを上げた。


「あ、そうだ」


 俺はカブトンを【診察】した。


     *

名前:カブトン

種族:魔物・闇甲虫

主属性:闇

従属性:地 木

技能:剛力Lv.1

*雪宮和也の配下

     *


 従属性がひとつ増えてる。


【剛力Lv.1】は俺でも使えるのかな?


 試しに共有している【隠密Lv.1】と付け替えてみた。


     *

名前:雪宮和也

種族:人間

主属性:闇

従属性:

称号:統率者*

称号付属能力:配下Lv.1 契約Lv.1 共有Lv.1 共感Lv.1 伝心Lv.1

技能:診察Lv.3 治療Lv.3 収納Lv.2 「生活Lv.1」 剣術:Lv.1 刀術:Lv.1

*共有能力:剛力Lv.1

     *


 お、できた。


【剛力Lv.1】は名前のとおり力が強くなる技能らしい。

 ちょっと試してみよう。


 俺は近くに落ちていた、指がなんとか届くくらいの太さの枯れ枝を拾い上げた。


「ふんぬっ!」


 俺は両手でつかんで、気合いとともに力を入れてみた。


「なにやってるんですか?」

「「「「「「「「「「でちか?」」」」」」」」」」


 キョトンとするリーシャと妖精さんたち。

 次の瞬間、


 バキッ!


 簡単にではないが折れた。


「わっ、凄いです!」

「「「「「「「「「でち!」」」」」」」」」


 元の何倍になるかわからないけど、とにかく凄いパワーだ。


「【剛力】は役に立ちそうだ。カブトン、配下になってくれてありがとうな。クモスケもよくぞ連れてきてくれた」


 クイッ!

 わしゃっ!


 二匹とも誇らしげだ。


 俺はぷるるんやクモスケたちにも【剛力Lv.1】を共有させてみた。

 結果、妖精さんも含めて全員【剛力Lv.1】を使えることがわかった。


 普段は【隠密Lv.1】で、力仕事や戦闘になった時に【剛力Lv.1】をつけることにしよう。


(【共有】のレベルが上がれば、いちいちつけかえなくても良くなるんじゃないかなあ)


 となると、やはり俺自身のレベルアップが不可欠だ。


 ただ、そのためには敵となる魔物を探しにいかなければならない。


 だが――――――――。


 一〇日間でわかったことがある。


 この洞窟周辺、というかスライムの森には、危険な魔物がほとんどいない。

 どの魔物もスライムを嫌がって近寄らないらしい。


「ここだけじゃないでち。どこもスライムさんの傍には人間さんも魔物さんも近寄らないでち」


 妖精さんがそういっていた。


 前に出くわしたような狂乱状態の魔物も、そうそう出現するものではないそうだ。


 なので、リーシャが二カ月間、無事に暮らせてきたことでもわかるように、ここはかなり安全な場所だ。


 とはいえ、それも絶対じゃない。


 もしまた狂乱状態の魔物があらわれたら?

 冒険者が来て、妖精さんやリーシャが襲われたら?


――うーん、そう考えると、リーシャと妖精さんから目を離すわけにはいかないよなあ。


(けど、まさか一緒に連れていくわけにもいかないし……)


 残念ながら、まだぷるるんとクモスケたちでは護衛として役者不足だろう。

 俺がいない間、リーシャたちを安心して任せられる味方が必要だ。


「クモスケ、また良い仲間になってくれそうな魔物がいたら連れてきてくれ。カブトンとぷるるんも頼んだぞ。もちろん、ルドルフもな」


 わしゃ!

 クイッ!

「きゅっ」

「ブフー!」


「わ、私も頑張ります!」

「「「「「「「「「「あたしたちもたくさん連れてくるでち!」」」」」」」」」」


「あ、リーシャと妖精さんたちは探さなくていいから、俺の目の届くところにいてくれ」

「は、はい……」

「「「「「「「「「「はいでち!」」」」」」」」」」


 ちょっとシュンとなるリーシャと、元気な妖精さんたち。


 リーシャもなにか役に立ちたいと思っているのだろう。


 守られているばかりじゃ申し訳ないもんな。

 気持ちはわかる。


「リーシャはもうまるるという仲間を連れてきてくれたからな。召喚術が上達すれば、わざわざ探さなくても新しい仲間をいくいらでも見つけられると思うよ」

「は、はい!」


 リーシャは愛らしい笑顔を見せてくれた。


 うん、素直な良い娘だ。

 守りたい、この笑顔。


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