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10、リーシャの十日間

 翌日以降も私はカズヤさんと召喚術の練習をしました。


 もちろん、妖精さんたちも傍で見守ってくれていました。

 残念ながら、まるるちゃんには練習の間、還っていてもらうしかなかったけど……。


【魔術の基礎】によると、魔術系技能は術者の精神や心の状態が影響するそうです。


 私はちゃんと強い魔物さんをイメージしたつもりでした。


 なのに、どういうわけか妖精さんやまるるちゃんのような、可愛い魔物さんばかり出てきました。


 砂針鼠、雪兎、小闇狼……。


 どれも成長すれば特殊な能力を身につけて、色々と役に立ってくれそうな魔物さんばかりでした。


 特に成長した小闇狼は一頭だけなら第六等級、二〇頭以上の群れを成せば第四等級に匹敵する強さになるそうです。


 でも、私が呼びだせたのはどれも子供で、とても闘えそうにありませんでした。

 かわりに可愛さは皆、特等級でした。


 還すのが惜しくて、私と妖精さんたちでたくさんモフモフしました。


「可愛さより強さが欲しいんだけどなあ……」


 カズヤさんはそんなことを呟きつつ、自分もこっそり手を伸ばしてモフっていました。

 私は可愛さも充分な武器になると思っています。


 そういうカズヤさんの召喚する魔物も、強さとは縁のなさそうなお魚さんばかりでした。

 それも小魚ばかり。


「せめてもう少し大きければ食えるのにな」

「えーっ、召喚したお魚さん食べちゃうんですかー!?」


「あ、いや、食わないよ。せっかく召喚にこたえてきてくれたのに食うのはちょっと酷いからな。ただ、魚以外の魔物か、せめて魚だったらもう少し大きなのが出てきてくれたらなあって思っただけだ」

「ホントですかー?」

「うん、ホントだぞ」


 そういうカズヤさんの目は泳いでいました。

 どうもカズヤさんは食事的な意味でお魚さんが好きなようで、時々、


「そろそろ魚が食いたいなあ」


 と呟いたり、この辺に魚が獲れそうな池や川はないのかと私に訊いてきたりしました。

 お魚さんばかり召喚されるのも、カズヤさんが魚好きだからでしょう。

 本人は、


「俺は強い魔物を召喚したいと強く望んでいるのに」


 といっていますが、魔術は嘘を吐けないようです。


 そんなカズヤさんを見て、私は自然と微笑んでいることが多いです。

 そんな自分が不思議だな、と思います。


 私がお父さんとお母さん、お姉ちゃんを魔人に殺され、冒険者に捕まって奴隷にされたのが三カ月ちょっと前。

 それから奴隷商館の地下でしばらく暮らした後、クルーシュに送られる途中、妖魔憑きになって捨てられて、この森で妖精さんに出会ったのが二カ月前。

 冒険者にお腹を刺されて死にかけているところを、カズヤさんたちに助けられたのが、ほんの十日前。


 それまでは妖精さんたちのおかげで、そんなに辛い思いをしないで済んでいました。


 でも時々、幸福だったころのことを思い出して泣き崩れそうになることもありました。


 けど、どういうわけかカズヤさんと一緒に暮らすようになってからは、辛い気持が薄らいでいるような気がします。


 というか、ひとりでいる時でも、いつも誰かが傍にいてくれているような、なにかに守られているような、不思議な安心感があります。


 もしかしたら、カズヤさんの【統率者】で、配下になったおかげかもしれません。


 たぶん、妖精さんやぷるるんちゃんたちも、同じ安心感を抱いているんじゃないかなと思います。


 ですが、安心してばかりもいられません。


 十日の間に何度か、冒険者がスライムの森を探索しにきました。


 ここで妖精さんたちを見つけたことを、『赤風』のひとたちが冒険者ギルドに報告したせいで、他の冒険者たちが妖精さんを探しにきたのかもしれません。


 幸い、ぷるるんちゃんと合体したスライムさんたちやクモスケちゃんが、冒険者たちがどこにいるかカズヤさんに知らせてくれたおかげで、私たちは気づかれずに逃げることができました。


 その間、スライムさんたちが冒険者に何度も酸を飛ばしてうんざりさせたそうです。


「これでもうこの森に妖精はいないと思ってくれたらいいんだけどな」


 私もそう願いますが、楽観はできません。


 いつまでもカズヤさんやぷるるんちゃんたちに守ってもらうばかりでは申し訳ないです。


 私も早く強い魔物さんを召喚できるようにならないと――。


 そう思うのですが、やっぱり可愛い魔物さんばかり呼びだしてしまいます。

 可愛さで相手が攻撃できなくなる魔術があればいいのに。


 カズヤさんは私と召喚術の練習をするだけではありません。


 ぷるるんちゃんと妖精さんの案内で周囲を探索したり、本を読んだり食事を作ったりもします。


 カズヤさんの作る料理はどれもすごく美味しいものばかりです。


「ありあわせの物で適当に作ってるだけだから」


 カズヤさんは事もなげにそういいます。

 実際、それほど手間をかけているようには見えません。


 なのにどれも絶品で、特にあのカレーライスとかいう料理は精妙極まりない味でした。

 私がカレーライスを絶賛すると、カズヤさんは、


「これを発明したのはインドという国のひとたちだ」

「はああ、インドのひとたちは凄いですねぇ」

「うん。凄いんだ。そして、俺の生まれ育った日本という国には、インドのひとたちに対する感謝と敬意を込めて唱えるマントラがある」


「マントラですか」

「うん。俺が今から唱えるから、皆、後に続いて唱和してくれ」

「はい」

「それじゃいくぞ。まずは合掌して」


 ルドルフちゃん以外の全員が、合掌しました。


「――インド人を右に!!」

「インド人を右に!!」

「「「「「「「「「「インド人を右に!! でち!!」」」」」」」」」」

「きゅっきゅきゅっ、きゅううっ!!」

「にゃっにゃにゃっ、にゃーーっ!!」

「ヒヒヒンッ、ヒヒンッ!!」

 わしゃ、わしゃしゃ!!


「よし、これでインド人の皆さんもにっこりだ」

「インドのひとたちがにっこりしてくれたら、私も嬉しいです!」

「「「「「「「「「「嬉しいでち!」」」」」」」」」」

 以下略――。


 これからカレーライスを食べるたびに、このマントラを唱えようと思います。


     *****


 ちなみに五日が経った頃、ぷるるんちゃんがこの森にいるスライムさん全員と合体を終えました。


 全部で四二三匹で、持っていた技能がそれぞれLv.3になったそうです。


 カズヤさんはぷるるんちゃんに【狂乱Lv.3】を発動させて、なにやら試してはうんうんと嬉しそうに頷いています。


「他にスライムがたくさんいるところないの?」

「ここみたいな場所は、近くにはないと思います」

「そっかー。二千匹くらい合体してくれたら、進化しなくてレベルが今のままでもかなり強くなるんだけどなあ。四百匹ずつ分裂させて、一匹は俺が直接指示して他は……」


 カズヤさんは強くなったぷるるんちゃんに、ちょっと興奮しているようです。


 妖精さんたちと私を守るために、色々と考えてくれています。

 私も召喚術だけじゃなくて、他にも貢献できることを探そうと思いました。


 それと、ルドルフちゃんは普段、周囲を散策して見張りと餌を食べて回ったりしています。


 時々、背に妖精さんたちを乗せてあげたりしていることもあります。


 私も一日に何度か、ルドルフちゃんを撫でさせてもらいます。

 ある日、私がいつものようにルドルフちゃんを撫でていると、


「そうだ、リーシャにも【騎乗】を習得してもらっといた方がいいな」

「【騎乗】?」

「ああ。もしかしたら、リーシャひとりでルドルフに乗って逃げてもらうことになるかもしれないからな」


 そんな状況にはなってほしくないです。

 でも、たしかにあり得ないことではありません。


「が、頑張ります!」

「そんなに気合いをいれなくても、しばらく練習すれば乗れるようになるよ。ルドルフも協力してくれるだろうし。だろ?」

「ブフッ!」


 ルドルフちゃんが近付いてきて、私に顔をスリスリしてきました。

 まかせろといってくれているみたいです。


「よろしくね、ルドルフちゃん」

「ヒヒーンッ!」


 本当に優しい魔物さんばかりです。

 あ、ルドルフちゃんは魔物さんじゃなかったっけ。


 いつか、いえ、できるだけ早く、皆に守ってもらうだけじゃなくて、私が皆を守れるくらいに強くなりたい。


 そう思いました。


     *****


 十日目の今日、クモスケちゃんがお友達を連れてきました。


 黒くて強そうなお友達です。

 どうやら喧嘩して仲良くなったらしく、戻ってきたときには二匹とも全身傷だらけでした。


 すぐにカズヤさんが【治療】しました。

 その後、そのお友達がカズヤさんの配下になりました。


 この調子でどんどん私たちの仲間になってくれるひとや魔物さんが増えていけばいいなと思います。


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