俺の可愛いお姫様①
孤独な王子は
思えば、俺は生まれてから十三年間、ずっと孤独だった。平民の出で寵妃だった母は、俺が生まれてきた時に亡くなった。おかげで後ろ盾もなかった。父である国王は、寵妃だった母の死の原因である俺を疎んだ。王妃は寵妃の息子である俺が、第一王子であり実子である兄上よりも輝く白銀の髪と、深いアメジストの瞳を持っていたため、厄介者扱い。俺を離宮に隔離させていた。兄上や妹姫達も、妾腹の俺を見下していた。
そんな中で、異母妹が生まれた。リンネアル・サント・エルドラド。俺はなんとなく気になって、使い魔をこっそりと王妃の宮に送った。本当に、なんとなく。妹のリンネは、王妃に似て白銀ではなくブロンドの髪であり、アメジストの瞳ではなく碧瞳だった。所謂色無しだ。…でも、とても愛らしい赤ちゃんだった。
しかし、父や王妃、兄上や妹姫達はそうは思わなかったらしい。リンネが白銀の髪とアメジストの瞳を持たないことを理由としてこの愛らしい子を虐めようとしていた。ついでに、新しい「おもちゃ」が生まれたから、俺を殺すつもりらしい。
許せなかった。俺だけなら、別に耐えられた。でも、俺の腹違いの可愛い妹を色無しだからと虐めるつもりなら。
…先手を取らせてもらう。
覚悟を決めれば、後は簡単だった。魔力もエルドラド一で、精霊の加護を受けている俺に、敵うものなどいない。大虐殺。兄上。父。王妃。妹姫。他の王族全員も。全ては我が妹のために。
「気紛れだ。命は助けてやるよ。…その代わり、俺を楽しませろ」
可愛い我が妹にそう一言言って、優しく頭を撫でた後、即位を宣言しに行く。…リンネは、暴君の俺に家族を奪われて王城で閉じ込められている可哀想なお姫様。それでいい。いつか恨まれることになっても。この子を幸せにするために。
ー…
国王としての仕事をこなしていく間、とても忙しくてリンネに会いに行けなかった。政は今のところ上手く行っている。民はむしろ俺が王位継承してくれてよかったと言っているらしい。おべっか使っているだけかも知れないけれど。
そんなある日、リンネがようやく帝王学と魔法学を習い始めたと聞いた。俺はそれを口実に実に六年ぶりにリンネに会いに行った。
「おーい、愚妹。遊びに来てやったぞ」
「…!?ど、どうかされましたか?あ、ご機嫌よう!」
「ふっ…ふふ、必死かよ。安心しろ、殺さないって。ご機嫌よう」
ぽんぽんとリンネの頭を軽く撫でる。
「お前がようやく帝王学と魔法学を習い始めたって聞いてな」
「あ、は、はい…」
「…嬉しくないのか?」
「も、もちろん嬉しいです!ティラン兄様の髪の毛、白銀できらきらしてて綺麗!目の色もアメジスト見たいですごく素敵!ティラン兄様大好きです!」
「そうだろうそうだろう」
どうやらリンネはおべっかを使うことを覚えたらしい。うん。長い物には巻かれろというしな。いいことだ。
「お前、六歳にしては天才だって家庭教師から報告が上がってるぞ」
そう言いながらぽんぽんとリンネの頭を軽く撫でる。
「わあい、嬉しいなあ!」
「それで。…聞かないのか?」
「何を?」
「王族虐殺事件」
「…!」
一気に空気が冷たく、重苦しくなる。さあ、どうする、リンネ。
「聞いていいなら聞きたいなぁ」
「そうか」
ー…
「ま、そういうことだからお前が王位継承なんて出来ないから」
「よっしゃあ!」
「なんで喜ぶんだよ、普通悲しむだろ」
「だってこれで殺されずに済むし、ティラン兄様にも嫌われずに済むでしょう?」
こてんとあざとく首を傾げてみせるリンネ。俺はリンネの頭を軽く撫でる。
「ま、まあ…嫌いにはならないよ。お前が裏切らない限り」
「わーい!兄様大好きー!」
リンネは俺に抱きつく。抱きとめる。
「…まったく。可愛い妹君だこと」
「なにかいった?」
「なんにも?それより、これから一緒にお茶会でもどうだ?」
「!ぜひとも!」
こうして俺たちは、二人きりのお茶会を開くことにした。
妹を守るため暴君へ