蚕の国、ゼーラフ
蚕の国
ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。今日はゼーラフの闇の沼地を浄化しに行きます!
ゼーラフは別名蚕の国ともいわれる、絹に特化した国です。世界的に有名なこの蚕の国は、世界のほとんどの絹のシェアを独占していたりします。しかしこの十四年、闇の沼地が田舎町ボッツォロに突如現れたため、ボッツォロは閉鎖され、ボッツォロ以外の地区は問題なく暮らしているといいますが、ボッツォロの近隣の地区はいつも魔獣に怯えて過ごしていると聞きます。
今回もみんなと協力して、ボッツォロを救いゼーラフに安心を取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。ゼーラフは養蚕業が盛んだ。見学してこい。勉強になる」
「うん。ティラン兄様、ありがとう。じゃあ、勉強してきます!」
「いってこい。…土産話、期待してる」
転移魔法で、ゼーラフ国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ゼーラフ国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄ります。そして私の手を取り、跪きます。
「ゼーラフ国王陛下、立ってください!」
「いいえ!いいえ!大国エルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださるなんて!こんなに有り難いことはない!ありがとうございます、本当にありがとうございます…」
ゼーラフ国王陛下に続いて、臣下の皆さん達が跪きます。
「聖女様!どうかゼーラフをお救いください!」
「はい、大丈夫ですから安心してください」
「なんと有り難い。ヴァイス王太子殿下も来てくださったのですね、ありがとうございます」
「リンネの婚約者として当然です」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「ゼーラフ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「これはご丁寧に。我がゼーラフの救世主様方、ありがとうございます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「ゼーラフ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。救世主様、是非我がゼーラフをよろしくお願い申し上げる」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「ゼーラフ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿が!?かたじけない」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、強そうな方ですな。これなら安心です」
「いえ、俺は魔獣を斬るくらいしか出来ないんで」
「では、我がゼーラフを、ボッツォロをよろしくお願い申し上げる」
「はい、いってきます!」
私達はボッツォロへ転移魔法で移動します。…すると、そこは十四年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣はいつもと同じで物陰に隠れています。そしてと同じで私達を獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「とりあえず、ここが最後の闇の沼地!気合い入れていこうね!」
「はい!お任せくださいませ!」
「リンネ様の言うとおり、最後だからこそ気合いを入れよう」
「まあ、僕がいれば大丈夫だよ」
「フォルスもいるからね」
「そこ、わざとプレッシャーかけないでください!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はボッツォロ全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精の生息しないはずのボッツォロは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。シャパリュの妖精召喚です!
「…これを見るのもこれが最後か」
「いえ、闇の沼地が新しく出来たらその時にまた見られますよ」
「ふふん。その時も俺が活躍してあげるよ」
「おや、それは楽しみだね」
「もう、皆さん、縁起でもないこと言わないで下さい!」
「そうですよ、闇の沼地なんて一生出てこなくていいです」
迫り来る魔獣を斬り殺しつつ雑談に混じるフォルス。あのいじめられっ子がここまで成長するなんて。
シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、ボッツォロ全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュとフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えたな」
「今回のお仕事も終了のようです」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっています!
「…待って!まだ魔獣が残ってる!」
「え!?」
どこからか大型の蛇の魔獣が現れて、襲いかかってきます。
シャパリュとフォルスが咄嗟に庇ってくれましたが…。
「シャパリュ!」
シャパリュが捕まり、物凄い力でぎちぎちと締め上げられます。
「…っ!レーグル、助けて!」
「任せて!…土よ、命を育め。慰めの木をここに!」
レーグルが詠唱すると、大きな木が一本生えて、その根っこが蛇の魔獣をぐるぐる巻きにします。
「シャパリュ!小さくなあれ!」
「にゃー!」
小さくなって蛇の魔獣と木の根から解放されたシャパリュは戻ってきます。
「無事で良かった…!」
「慰めの木よ、人を脅かすばかりの命に、せめてもの慈愛を!」
レーグルはそのまま蛇の魔獣にとどめを刺します。
「シャパリュ、大丈夫かい?」
「どこか怪我はありませんか?」
「シャパリュ、ごめんね」
「何言ってるのさリンネ。君が大事だから、シャパリュは身を呈してまで君を守ったんだよ。ありがとう、でしょ」
「…っ!ありがとう、シャパリュ」
「にゃー」
「みんなもありがとう。みんなの魔力供給と、フォルスが頑張ってくれたおかげでなんとか闇の沼地の浄化が出来たよ」
「…俺こそ、使っていただきありがとうございます」
「まあ、当然だよね」
「ふふ、レーグルさんったら」
「私の魔力がお役に立てたなら、何よりです」
「さて、ルリジオンの教皇様に報告に行かなきゃね。…でもその前に、先にゼーラフ国王陛下のところに行っちゃう?」
「あら、ヴァイス王太子殿下!ノリが良いですわね!」
「一応これが最後だし、楽しい見学会、期待できるんじゃない?」
「俺は、王女殿下が安全ならそれで」
「リンネ様とかの有名な蚕の国を楽しめるなら、私は文句はありません」
「じゃあ、ゼーラフ国王陛下のところに行っちゃおうか」
転移魔法で、ゼーラフ国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、ゼーラフ国王陛下はすぐに私の元へ跪きます。
「ゼーラフ国王陛下!立ってください!」
「聖女様!ボッツォロの闇の沼地が消えたと報告がありました!」
ゼーラフ国王陛下に続いて、臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!ボッツォロを、ゼーラフをお救いくださりありがとうございました!」
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「ゼーラフ万歳!」
「万歳!」
「ボッツォロ万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
ゼーラフ国王陛下は跪いたまま私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「いえ、みんなが手伝ってくれたからです」
「皆様も、本当にありがとうございます」
ゼーラフ国王陛下は、みんなと固い握手を交わします。
「そうだ、もしよろしければ、ぜひ我がゼーラフの養蚕業をみていっていただけませんか?」
「えっと…いいんでしょうか?」
「聖女様がよろしければ、是非!」
臣下さん達も熱い視線を送ってくれます。
「…じゃあ、お願いします」
「はい!お前たち、よろしく頼む!」
ゼーラフ国王陛下に命じられた皆さんは、急いで準備をし始めます。うん?ホールで養蚕業するの?
「本来なら専用の部屋で行うのですが、今回は特別です」
「そうなんですね!ありがとうございます!」
「といっても、一日で全ての工程は見せられないのですが…」
「いえいえそんな…それだけでも勉強になりますから」
「リンネ、養蚕なんてみたことないでしょ?きっと楽しいよ」
「そうだね!」
「ハイリヒトゥームにとっても、有益だね」
「ははは、ライバルが増えてしまいますな」
「ふふ、でも、蚕の国には誰も敵いませんわ」
「ええ、それはもちろんですとも」
「すごい自信だね。さすが蚕の国」
「今日はどの工程を見せていただけるのでしょうか?」
「養蚕ですが、蚕は一生の間に、卵から蚕、蛹、成虫へと変化するのです。 蚕種は、メスとオスを交尾させた後にメスの成虫をとりだし、ノリをひいた紙の上に産卵させます。 卵から孵化したばかりの蚕は小さな幼虫ですが、約二十五日間の間に脱皮を四回繰り返し、一万倍の重さに成長します。桑の葉を食べなくなり身体が透き通るように変化した蚕は、繭をつくるために仕切られた回転蔟に振り分けます 。蚕は糸を吐いて繭をつくり、繭の中で脱皮して蛹になり、成虫になる前に繭を出荷します。繭を乾燥させ糸を引き出し、ほぐした糸をあわせて生糸をつくります。乾燥させ、選繭し、煮繭し、繰糸し、揚返しします。」
「へえ」
「成虫になる前に…そうなのね」
「全然知らなかったです!」
「やっぱり見学させてもらって正解だな。そこまで色々な工程があるとは思わなかった」
「私もです。いつか、我が領でも養蚕業が始まるかもしれませんし、勉強になりますね」
「俺、難しいことはわからないんですけど…なんか、大変ですね。そう思うと、この制服がすごく大事に思えてきます」
「そう言っていただけると有り難いですな。今回は繰糸を見ていきましょう」
「はい!」
「煮ることでほぐれやすくなった繭の表面を、みご箒で撫で、糸口を探し出します。そして、いくつかの繭の糸口を何本かよりながらまとめていき、目的の太さと長さの1本の糸にしていきます。乾燥するとセリシンと言う成分の効果が出るため、よられた糸が接着し強い絹糸になるのです。」
「そうなのですね!」
「では実際に見てみましょう」
「一つ一つ手作業なのですね」
「ええ。機械があれば楽なんですけどね」
「手間がかかるのですね」
「はい。しかし私達にとっては大切な仕事なのです」
「意外と繊細な作業なのですね」
「いつも当たり前に着ている服でも、実は影で苦労している者がいるのですよ」
「しかしご婦人方、手作業でも手先が慣れていてとても早いですね」
「ええ、ベテランですから」
「わあ、こうやるんですね!」
「ええ。やってみますか?」
「よろしいのですか?」
「はい、闇の沼地を浄化してくださった大恩人ですから」
「…わあ、難しい」
「リンネ、俺出来たよ!」
「レーグルすごい!」
「王女殿下!私もできました!」
「ミレアさん器用だね!」
「僕はうまくいかないな…」
「大丈夫です、私もですから!」
「俺もダメですね…」
「私もダメです…申し訳ない」
「いえいえ、そんな…」
「じゃあ、これを乾燥させるのですね」
「そうなんです。ご満足いただけましたか?」
「はい、勉強になります。ありがとうございました」
そうして私達は、ルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!ゼーラフの闇の沼地、浄化出来ました!」
「さすがは百合姫様。ありがとうございました。では、今週いっぱい休んでいただいて、来週には闇の沼地の浄化を祝した凱旋パレードを行いましょう。これも世界の民を安心させるため。忙しくて申し訳ない。しかし、もう少しだけ頑張ってください」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!養蚕ってすごいんだよ!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな。…俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
そんなこんなで、今日もなんとかなりました!…凱旋パレードかぁ。緊張するなぁ。
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